ADHD(注意欠如多動症)の諸相
10月になり、今年も残すところあと3ヶ月となりました。
読書の秋、食欲の秋、そしてnoteの秋を楽しんでおります。
ADHD啓発月間なので、今回はADHDをテーマについて書いていきます。
ADHDといえば、不注意と多動・衝動という局面の2つの症状があるのは読者の皆さんもご存知かと思います。DSM-5(2013年刊行)におけるADHDの診断基準は次のように述べられています。
DSM-5の診断基準には,9つの不注意症候と9つの多動性・衝動性症候が含まれている。この基準による診断には,6つ以上の症候が1つのグループまたは各グループのものである必要がある。また,症状は以下の条件を満たす必要がある:
・しばしば6カ月以上認められる
・患児の発達水準から予測されるよりも著しい
・少なくとも2つ以上の状況(例,家庭および学校)でみられる
・12歳前に(少なくともいくつかの症状が)みられる
・家庭,学校,または職場での機能を妨げている
不注意症状:
・細部に注意を払わない,または学業課題やその他の活動を行う際にケアレスミスをする
・学校での課題または遊びの最中に注意を維持することが困難である
・直接話しかけられても聴いていないように見える
・指示に従わず,課題を最後までやり遂げない
・課題や活動を順序立てることが困難である
・持続的な精神的努力の維持を要する課題に取り組むことを避ける,嫌う,または嫌々行う
・しばしば学校の課題または活動に必要な物を失くす
・容易に注意をそらされる
・日常生活でもの忘れが多い
多動性・衝動性症状:
・手足をそわそわと動かしたり,身をよじったりすることが多い
・教室内またはその他の場所で席を離れることが多い
・不適切な状況で走り回ったり高い所に登ったりすることがよくある
・静かに遊ぶことが困難である
・じっとしていることができず,エンジンで動かされているような行動を示すことが多い
・過度のおしゃべりが多い
・質問が終わる前に衝動的に答えを口走ることが多い
・順番を待てないことが多い
・他者の行為を遮ったり,邪魔をしたりすることが多い
不注意優勢型と診断するには,6つ以上の不注意の症候が必要である。多動性・衝動性優勢型と診断するには,6つ以上の多動性・衝動性症候が必要である。混合型と診断するには,不注意と多動性・衝動性のそれぞれで6つ以上の症候が必要である。
ADHDにおける行動特性と脳機能との関係については、多動性が運動制御、衝動性が報酬系、不注意が選択的注意と実行機能によるものであることが分かってきています(田中・市川, 2016)。実行機能とは、目的に関連する情報を処理し、非関連情報による干渉を抑えながら、適切な処理系列を計画し、目標達成の構えを維持する機能 (Pennington & Ozonoff, 1996)です。
ADHDのある子どもや成人は、実行機能が必要となる場合に適切な遂行に失敗しがちで、不適切な反応をする傾向が強いです。そのため、学業や仕事で数々の失敗が積み重なり、自尊心や自己肯定感が低下し、生き辛さを抱える者も少なくありません。
また、ADHDは読み書き・算数の障害と共に現れやすく、共通遺伝子が影響している可能性がオランダのアムステルダム自由大学の研究で示されています。
千葉大学・大阪大学・福井大学など国内複数の大学による共同研究により、中側頭回(ちゅうそくとうかい)という物事に注意を向けたり、情報を整理したり、感情をコントロールしたりする働きに大きな違いがあることが明らかになりました。
ADHDの歴史について詳しく知りたい方は、弟子が執筆した以下のnoteをご覧下さい。
ADHDにおける精神的発達
アメリカでADHDを研究しているキャサリン博士によると、ADHD者における前頭葉は成熟までにより多くの時間がかかるとのことです。実行機能の発達は精神発達と密接な関係にあり、情緒的側面や動機づけの側面との関連性には強いものがあると考えられています。
【注目】適応行動の問題
Balboniら(2017)の研究によると、ADHDはVineland-Ⅱの適応行動水準のみならず、コミュニケーション、日常生活スキル、社会性領域で有意に低い得点を示していました。ADHDの人は、そうではない人よりも、受容言語、表出言語、日常生活スキル、社会性といった面で低い適応を示す傾向にあります。6~16.6歳のADHDの子ども104人を対象にした研究では、平均的な知的能力を有しているにもかかわらず、認知能力よりもVinelandの得点は1~2標準偏差(平均27.9ポイント)低かった(Roizen et al., 1994; Stein, Szumowski, Blondis, & Roizen, 1995)という報告があります。
いわゆるADHDTAX(衝動買いも含む)、時間や金銭管理の難しさ、約束やタスクの失念などでやらかしている人ほど、認知能力と適応行動のギャップを痛感している人が多いのではないでしょうか。
AuDHDの実態
ADHDはASDとの併発が多いのはかねてより頻繁に報告されており、互いに類似した症状や困難を持つ人も少なくありません。そのため、自閉症(Autism)とADHDにかけたAuDHD(オーディーエイチディー)という概念が存在します。正式な医学用語ではありませんが、日本では2023年7月に東京大学とカリフォルニア大学バークレー校の共同研究によって、ASDとADHDの合併症は、それぞれの障害の重ね合わせではなく、異なる神経メカニズムを可能性があることを明らかにしました。神経多様性を考える上でも重要な概念であると私は考えます。
【注目】過度激動(OE)との類似性
先月執筆した「ギフティッドネスを理解しよう(前編)」でも触れた通り、ADHDは精神運動性OEや想像性OEとの類似性があります。ギフテッドもまた授業がつまらなく退屈で白昼夢を見たり、物思いに耽ったりで注意が逸れるなど、ADHD症状と誤解されるような特性が見られるケースもあります。日常生活や学校・職場における不適応の原因や適応行動の問題はOEの可能性も視野に入れて考えると、困りごとが更に把握しやすくなるでしょう。
ADHDの症状は過度激動(OE)からも説明できる。いわゆる脳内多動や衝動性は精神運動性OEによるものとも考えられ、マインドワンダリングや不注意は想像性OEから。
— アシベ@春夏秋冬眠れる突き抜けた睡眠優等生 (@ashiberse) October 12, 2023
ギフテッドとADHDを明確に峻別するのは専門家でも難しいのだ。#ADHDあるある#ADHD啓発月間https://t.co/yujfRPXVOw pic.twitter.com/cn4rHKOWa8
過敏性腸症候群のリスクが高い
最近知られるようになったADHDと腸の関係について。腸は「第二の脳」と言われ、脳と双方向でやりとりするための重要な器官です。両者の関係については、脳腸相関が原因として考えられているようです。
ADHDとお腹の不調が関連している可能性を示唆する研究。
— いっちー@バーチャル精神科医 (@ichiipsy) June 8, 2025
380万人超のデータを調査したところ、ADHDの人は特に過敏性腸症候群(IBS)のリスクが約1.6倍高く、腸内フローラの乱れが背景にあると示唆された。
ADHDの特性も、脳だけでなく「腸」とも深く繋がっているのかもしれない。(11 studies) pic.twitter.com/ThhJ2Y5m7S
今まではASDと腸内環境の関係について、界隈でも度々話題になっていましたが、今後はADHDにおいても腸内環境とともに語られ、共有されることが多くなると筆者は予想します。腸活によって症状を改善するという選択肢も追加されると良いですね。
この記事を読んで得た知見を活かし、All Days Happy Daysな日々を過ごせることを願ってやみません。
最後までお読みいただきありがとうございました。m(_ _)m
参考文献一覧
・松本秀彦. 子どもたちの教育のために,研究のあり方を考える. LD研究, Vol.34 No.1, 2-5, 2025
・室橋春光. 「実行機能」再考−発達障害研究の視点から ―― 高橋・野村論文へのコメント――. 2015 年 58 巻 1 号 p. 175-180. https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/58/1/58_175/_pdf
・セリーン・A・ソールニア/シェリル・クライマン[著]. 黒田美保・辻井正次[監訳]『発達障害支援に生かす 適応行動アセスメント』. 金子書房. p105-106
