【せりふ三題噺】虹色エビフライ|1271字#63
立っていたのは古い商店の前。
…なんだこれ?
軒先にエビフライがつららの様にずらりと下がっていた。
赤、オレンジ、黄色。
え、紫や青もある…。
さすがに食欲はわかないな。
しばらくエビフライに見入っていた。
その時、右側から三輪車に乗る小さな男の子が現れた。
先の丸いバチで、エビフライを一つずつ叩いていく。
♬ ぴんぽんぱんぽ〜〜〜ん
どこかの館内インフォメーションの音に似ていた。
音を聞きつけ、エビフライめがけて四方からわらわらと人が集まってきた。
僕はその渦に揉まれた。
美味しくなさそうなエビフライ。
なんで欲しがるんだ、わからない全然。
貰うならせめて黄色かオレンジで!
そう願いながら揉まれる。
次々と持っていかれるエビフライ。
残り2つは、なんと黄色とオレンジが残った。
エビフライ。
別に欲しくはない…けど、あと2つって考えると取っていた方がいい気がして、手を伸ばした。
途端に、人の渦が僕をその場から動かすまいとする。無理に押されている訳でもないのに、何故か掻き分けても届かない。
くっそ…、えいっ!…なんで届かないんだ!
三輪車の男の子がバチを一振りした。
すると、2つのエビフライはふわりと舞い、男の子と一緒にどんどん遠ざかっていく。
え?待って、エビフライ待って!
せっかく取る気になったのにどうして?!
結局その場から動けず。男の子は一度も振り返ることなく、遠ざかって行くばかり。
「待って、待ってってば!!」
叫んでも声が響かない。
届かない、目的不明の「エビフライを取る」に執着。
ふと何処からか知っている声がした。
忙しいからと、耳先に風が当たっただけとした。
もう一度聞こえた。
「なんだよ…あのエビフライを取らないといけないんだよ!」心で叫んだ。
3回目ははっきりと聞こえた。
「薫くん。はい、忘れ物」
はっ………………
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
天井には吊るされた仕切りカーテン。
蛍光灯は光り、僕を見下ろしていた。
僕は病院のベッドにいた。
隣の簡易ベッドで妻がぐったりと横になっていた。
え……声、出ない。
妻を呼びたい。
巡回の看護師が僕に気付き、周囲は慌ただしくなった。
あれ…何でこんなことに…。
妻が、覚えていないの?と泣きながら言う。
エビフライと男の子を追っていたような。
秒針が進むたび、あの日が腹の底から滲み出てきた。
2日前の早朝。
「忘れ物」と、玄関でエビフライ入りのおにぎり2つ。妻から早出の僕に渡された。
出勤前に取引先へ寄る為、普段と違うルートを歩く。商店が幾つも並んでいた古い路地。
三輪車の男の子とすれ違った。
小さいのに一人だなと、ふと思った。
「しょーた!しょーたぁ!!」
遠くで叫ぶ女の人がいた。
嫌な予感がした。
「きゃーーっ!しょーたっ!!」
体が勝手に走った。
三輪車は車道に出ていた。
男の子を抱えようとしたところで、車と接触……したんだったな。
朦朧とする僕に、呼びかける人達がいた気がする。
おにぎりはぐちゃぐちゃ。
男の子も助からなかった。
行き場のない気持ちを抱えた男の子の母親は、僕たちに謝り泣き崩れる。
あの虹色エビフライは、男の子を無事に連れて行ったのだろう。
1271文字
----------------------------
はらとけいさんのお題に参加させていただきました♪ 8回目の参加です!
■せりふ
「はい、忘れ物」
■三題
・エビフライ
・三輪車
・つらら
今回の内容は
ふふっとポイント0でした…😱
🔽前回の投稿分はこちら💁♀️
いいなと思ったら応援しよう!
応援お願いします📣✨
いただいたチップは、クリエイター活動費(勉強の為の本の購入、一息つく為の珈琲代等)として使用させていただきます💕