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ラーメンを食べようとしたら警察が来た。

ピンポンが鳴ったのは、お昼のラーメンの盛り付けを終えてテーブルに置いた瞬間である。
え? いま?

強盗の下見かもしれないから出なくていいか、と思ったけれど、インターホンのカメラに写っている人たちはおまわりさんの格好をしている。
また不審者が侵入したのかもしれない。
注意を促しに来てくれたのかも。
どうしよう。

いや、警察の制服なんて正確にはわからない。
それっぽいというだけ。
相手は男二人、不用意に開けて強引に押し入られたら太刀打ちできない。
すべてを疑ってかからなければならない世の中で、勝手に想像して警戒してしまう自分にもうんざりだ。

とりあえず、応答はした。
相手は「〇〇交番の〇〇です」と言う。
警察手帳を見せてくださいと言ったとて、本物かどうか区別はつかぬ。

正直に「いま、ちょうどラーメンを盛りつけたところなんです。ほかを先に回っていただくことはできますか?」と答えた。
「タイミングが悪くてすみません」と恐縮されたので、
「いえいえこちらこそすみません」

これで麺が伸びたりスープが冷めたりしないうちに、美味しくいただくことができた。
インスタントも好きだが、たいていチルド麺。
具も盛り付けもお店っぽくする。
だから、何十年も店のラーメンを食べたことがない。
魚介でない塩味で、ちぢれ麺が好き。

食べ終わって開放廊下に出てみると、警察官とおぼしき姿がうちの4軒先のポーチに見えた。
下を見ると来客用が空いていなかったのか、駐車スペースでないところに停まっているパトカーが見えた。
ほかにバイクが2台。
少なくとも3人は来ているようだ。
なにごと?

そろそろうちかと思っていたら、お隣の友人から電話が来て、あらましを聞いてしまった。
3軒先の住人が亡くなられたらしい。
妹さんが訪ねてきて、お姉さんが倒れているのを発見し、救急車を呼んだとのこと。
でももうそのときは亡くなっていたらしい。
やばい。
他人事じゃない!
私の死体は、誰が発見してくれるの?

こういうのって変死扱いだから警察が来るのよなぁ。
事件性の有無とかの確認に1軒ずつ聞き込みをしているのだとわかった。

1時間ほど過ぎて、2度目のピンポン。
強盗の下見じゃないとわかっているので、安心して応対。
万一に備えてスマホは握りしめて行ったけど、まさか偽パトカーまで用意せんやろ。

ラーメンのために2度手間になったことを詫びる。
同階の住人が亡くなられたと教えられたが、こちらはもうお隣さんから聞いているのでびっくりしない。
びっくりしたほうが良かっただろうか。
お隣さんから聞きましたと言いそびれてしまった。
我ながら中途半端な反応になったと思う。

問いに答えて、亡くなられた住人の方の顔は知っていること、ここ数年見かけないことを伝えた。
見かけないのは、私自身が在宅ワークが主になったせいである。
しかしおそらくご本人も、出歩ける体調ではなかったと思われる。

トラブルの有無も訊かれた。
見聞きしたことはない。
つきあいがないので、噂にすらのぼらない。
妹さんの顔は知っているが、通っているのか泊まり込んでいるのかや姉妹の仲はわからない。
今朝の救急車のサイレンも聞いていない。
あとで確認したいことが出てきたときのためにと、生年月日と電話番号も訊かれた。

警察は介護殺人の可能性とかも視野に入れているのかもしれない。
手を下さずとも、あえてほうっておくことで衰弱を待つようなことだって世間にはないとは言えない。

よくドラマやワイドショーなどで、ご近所の人が当事者の印象について「挨拶もする善い人でした」と答えているけれど、つまりは挨拶くらいしかしない関係ということなのよな。
私も妹さんと挨拶はするけれど、それだけである。
人柄や姉妹仲などわかりようもない。
そして、家族を介護している人は、仲が悪いから相手を死なせるわけではない。

どうして病院や施設に入れなかったという声はあるだろう。
でも、入ることができなかったのかもしれない。
空きを待っていたとか、お金の都合がつかなかったとか。
近くには介護士さんが足らなくて(つまりは待遇改善が追いつかず)、閉鎖した介護施設もある。
訪問介護の縮小も影響しているかもしれない。

マンションは売却することになるのだろうか。
変死体が出た事故物件なのか。
私自身も含め、これからこういうことが増えるんだろうな。

おまわりさんが帰ったあとも、いろんなことを考えてしまった。
先にラーメンを味わっておいて良かったと思った。