【50代経営者・FPに相談】ドル円164円の壁とFOMC・日銀会合 ― 円安は止まるのか、FPが3つのシナリオで解説
記事要約
ドル円は先週163円99銭と1986年11月以来の水準に到達。今週はFOMCと日銀会合が3日間で続きます。両方とも据え置き予想ですが、焦点は金利の数字ではなく議長・総裁の言葉です。「据え置きでもタカ派なら165円」「日銀が慎重なら円売り再加速」「どちらかがサプライズなら161円台へ急落」。人気FPが3つのシナリオを整理し、シナリオを当てにいかずに資産を守る方法と、10項目の自己診断チェックリストを示します。
https://youtu.be/TK9bG6ZBQh4
登場人物
篠原 康之(しのはら やすゆき)さん・58歳 精密機器メーカーの取締役。金融資産は約7,200万円。内訳は円預金4,000万円、日本株1,200万円、円建ての終身保険・年金保険が約2,000万円。「そのうち円高になったら外貨に替えよう」と考えたまま、数年が過ぎている。
FPたいらく 富裕層の資産防衛を専門とするファイナンシャルプランナー。
1.「もう少し円高になったら」と言い続けて、気づけば164円
篠原:先生、ようやく順番が回ってきました。予約を入れたのが6月の初めですから、ほぼ2カ月ですね。
FPたいらく:お待たせしました。その2カ月で、相場はずいぶん動きましたよ。
篠原:それなんです。予約したときは160円前後だったと思うのですが、先週は163円99銭まで行ったと聞きました。ニュースでは「1986年11月以来」と言っていましたね。
FPたいらく:正確には、1986年11月24日以来の水準です。約39年8カ月ぶりということになります。
篠原:39年……。正直に申し上げます。私は2022年に130円台になったとき、「さすがに行き過ぎだ、いずれ戻る」と思っていました。150円になったときも、同じことを考えました。そして今、164円が目の前です。
FPたいらく:多くの方が、同じ道を通ってこられます。ここで一度、言葉を正確にしておきましょう。「円安が進んでいる」という言い方は、実は正確ではありません。
篠原:と言いますと。
FPたいらく:進んでいるのは、円の購買力の低下です。ドル円が164円ということは、同じ1ドルの商品を買うのに164円必要だという意味です。130円だった頃と比べて、輸入されるモノやサービスに対して、円は約2割の力を失いました。相場が動いたのではありません。篠原さんの資産の実力が変わったのです。
篠原:資産の実力、ですか。
FPたいらく:ええ。篠原さんの7,200万円は、額面では1円も減っていません。ですが、ドルで測ればどうでしょうか。130円のときの7,200万円は約55万ドル。164円なら約44万ドルです。数字は動いていないのに、世界に対する購買力はおよそ2割落ちている。
篠原:……通帳を見ているだけでは、絶対に気づけませんね。
FPたいらく:そこが、この問題のいちばん厄介なところです。日本の預金通帳は、円という物差しでしか資産を測りません。物差しそのものが短くなっていることは、通帳には表示されないのです。
2.今夜から3日間 ― 日米二大会合で何が問われるのか
篠原:今週はFOMCと日銀会合が続くと聞きました。ここで流れが変わる可能性はあるのでしょうか。
FPたいらく:まず日程を整理しましょう。FOMCは7月28日と29日の2日間で、結果は日本時間の30日未明に出ます。日銀の金融政策決定会合は30日と31日、結果は31日の昼過ぎ、その後に植田総裁の記者会見です。3日間で日米の金融政策が出そろう、年に何度もない週です。
篠原:どちらも据え置きという見方が多いようですが。
FPたいらく:その通りです。ただ、「据え置き」だから何も起きない、とは限りません。今回はむしろ、金利の数字ではないところに焦点があります。
篠原:数字ではないところ、ですか。
FPたいらく:米国の政策金利は現在3.50〜3.75%です。今回は据え置き予想が中心ですが、市場では年内の利上げ観測がじわじわ強まっており、この会合での利上げ織り込みも4割弱まで上がってきました。しかも今回は、参加者の金利見通しを示すドットチャートが公表されません。
篠原:判断材料が減る、ということですね。
FPたいらく:ええ。だからこそ、ウォーシュ議長の記者会見がすべてになります。ウォーシュ議長は就任後、FRBがそれまで使ってきた「フォワードガイダンス」――先行きの政策方針をあらかじめ示す手法――を取りやめました。将来の予測を中央銀行が公表することは、かえって市場を混乱させるという考え方によるものです。
篠原:親切に教えてくれなくなった、と。
FPたいらく:そうです。声明文も簡素化されています。市場は議長の言葉の温度だけを頼りに、先行きを推測しなければなりません。ここに、相場が大きく振れる余地が生まれます。
篠原:日銀のほうはどうでしょう。
FPたいらく:日銀は6月の会合で0.25%の利上げを決め、政策金利は1.0%程度になりました。1995年9月以来、約31年ぶりの水準です。今回は、その効果を見極めるために据え置きが有力とされています。市場関係者への調査でも、7月据え置きはほぼ全員一致の予想でした。
篠原:では、日銀も無風ですか。
FPたいらく:焦点は2つあります。ひとつは展望レポートです。3カ月に一度、日銀が経済と物価の見通しを示す文書で、今回は2026年度の成長率見通しの上方修正が議論される見込みです。もうひとつが、植田総裁の記者会見です。164円という水準が物価に跳ね返るリスクを、日銀がどこまで強く意識しているのか。ここでの言葉の強さが、次の利上げは10月なのか12月なのかという市場の読みを動かします。
篠原:結局、二人の人間の言葉づかいで、私の資産の価値が決まるわけですか。
FPたいらく:短期的には、その通りです。だからこそ、短期に賭けない構えが必要になるのです。
3.介入は効くのか ― 11.7兆円が示した現実
篠原:もし165円を超えるようなら、政府が介入するのではありませんか。前回もそうでしたよね。
FPたいらく:いい質問です。事実を確認しましょう。今年の4月30日から5月にかけて、政府・日銀は円買い・ドル売りの介入を実施しました。財務省の公表では、4月28日から5月27日までの1カ月間で、総額はおよそ11.7兆円です。
篠原:11.7兆円。相当な規模ですね。
FPたいらく:その規模で、実際に何が起きたか。ドル円は一時155円台まで急落しました。ところが、そこから3カ月も経たないうちに、相場は介入前の水準を超えて164円目前まで戻っています。
篠原:……効かなかった、ということですか。
FPたいらく:「効かなかった」というより、「効く範囲が違った」と言うべきでしょう。介入で買えるのは時間です。方向ではありません。
篠原:時間。
FPたいらく:ええ。介入は、投機的な動きが行き過ぎたときに、その速度を落とす手段です。ですが、なぜ円が売られているのかという原因――日米の金利差、原油高による輸入コストの増加、日本の財政に対する市場の見方――そこには一切手を触れません。原因が残っている限り、時間を買っても、いずれ同じ場所に戻ってきます。
篠原:資金も、無尽蔵にあるわけではないでしょうし。
FPたいらく:そこも重要な点です。円買い介入は、手元のドルを売って円を買う行為ですから、ドルの残高が必要になります。外国為替資金特別会計が持つ外貨資産のうち、すぐに介入へ使える外貨預金は、5月末時点でおよそ1,622億ドルと限られています。外貨準備の総額はもっと大きいのですが、その大半は米国債などで運用されており、大量に売れば米国の金利を押し上げてしまう。
篠原:つまり、弾は無限ではない。
FPたいらく:はい。しかも市場は、そのことを知っています。ですから、介入があった局面で「これで円高に戻る」と考えるより、「一時的に、良い為替レートが提示された」と捉えるほうが、資産を守る側としては現実的です。
篠原:良い為替レートが提示された……。円を外貨に替える側から見れば、むしろ機会だったということですか。
FPたいらく:まさにそこです。155円まで戻った局面で動いた方と、「もっと戻る」と待った方とでは、いま手元の数字が違っています。介入は、待つ人にとってのご褒美ではなく、動く準備ができている人にとっての機会なのです。
4.3つのシナリオ ― この3日間で起こりうること
FPたいらく:では、今週の3日間を整理しましょう。起こりうる展開は、大きく3つです。
シナリオA:据え置き、しかしタカ派(165円を視野) FRBが金利を据え置きつつ、ウォーシュ議長がインフレへの警戒を強く語る場合です。直接的な利上げ示唆がなくても、「インフレを容認しない」という姿勢が伝われば、市場は年内の利上げをさらに織り込みます。米国の長期金利が上がり、日米の金利差が意識され、ドルが買われる。164円の節目を明確に超えれば、164円50銭から165円台が視野に入ります。
シナリオB:日銀が慎重で、円売りが再加速 日銀が据え置きを決め、展望レポートも植田総裁の会見も踏み込まない場合です。「次の利上げは急がない」と受け取られれば、円を売って外貨で運用する動きが再び強まります。この場合も方向は上ですが、Aと違うのは、米国側ではなく円側の要因で進む円安だという点です。
シナリオC:どちらかがサプライズ(161〜162円へ急落) FRBが予想外に利上げする、日銀が想定以上にタカ派的な姿勢を示す、あるいは実弾の介入が入る。いずれかが起これば、短時間で161円から162円方向へ急落する可能性があります。
篠原:確率としては、どれが高いのでしょうか。
FPたいらく:篠原さん。その問いこそが、今日いちばんお伝えしたいことに関わります。
篠原:と言いますと。
FPたいらく:確率を当てにいく必要は、篠原さんにはありません。必要なのは、A・B・Cのどれが起きても、資産が致命傷を負わない状態をつくることです。
篠原:……当てるのではなく、当てなくても済むようにする。
FPたいらく:ええ。そのうえで、厳しいことを申し上げます。いまの篠原さんの資産構成は、Cが起きたときだけ報われる形になっています。円預金4,000万円、円建て保険2,000万円、日本株1,200万円。ほぼ全額が円建てです。これは「何もしていない」のではありません。「円が強くなるほうに、7,200万円を賭けている」という、極めて明確なポジションです。
篠原:……私は、賭けているつもりはなかったのですが。
FPたいらく:そこが盲点です。投資をすることがリスクを取ることだと考えられがちですが、資産をひとつの通貨に集中させることも、同じくらい明確なリスクの取り方なのです。しかも、こちらのポジションには決済期限がありません。だから、いつまでも判断を先送りできてしまう。
5.「当てにいかない」ための三層構造
篠原:では、どう組み立てればよいのでしょうか。
FPたいらく:私は、資産を3つの層に分けて考えることをお勧めしています。
**第一層は「土台」**です。今後2〜3年の生活費、教育費、納税資金、事業の運転資金。これは円で、すぐ引き出せる形で持ちます。日本で暮らし、日本円で支払う予定があるものは、円で持つのが合理的です。ここを削る必要はありません。
第二層は「コア」。世界の経済成長を取り込む部分です。ここは通貨も地域も分散させます。米国だけに寄せるのではなく、複数の通貨、複数の市場に置いておく。
第三層は「保険」。これは値上がりを狙う層ではありません。日本という国、円という通貨、日本の税制や金融制度――そのいずれかに想定外のことが起きたときに、資産全体を守るための層です。国外に置く資産や、特定の通貨に依存しない資産が、ここに当たります。
篠原:三層目は、少し身構えますね。
FPたいらく:抵抗を感じる方は多いです。ですから、ひとつ数字を挙げましょう。私たちの公的年金を運用しているGPIFは、資産のおよそ半分を外貨建ての資産で持っています。国が、国民の年金という最も守るべき資産に対して選んでいる形が、それです。
篠原:……国はとっくにやっている、と。
FPたいらく:そういう構図です。個人だけが円に集中している。同じ国に住み、同じ物価上昇に直面しながら、備え方だけが正反対になっているわけです。
6.【自己診断】あなたの資産は「円に賭けていない」と言えますか
FPたいらく:ご自身の現在地を確認していただくために、10の項目を用意しました。当てはまるものを数えてみてください。
□ 保有する金融資産の8割以上が円建てである
□ 「もう少し円高になったら」と考えて、1年以上動いていない
□ 為替介入があれば、いずれ円高に戻ると思っている
□ 外貨建て資産は保険か投資信託だけで、通貨の分散を意識したことがない
□ 5年後・10年後に「いくらを円で支払う必要があるか」を書き出したことがない
□ 円安が家計や事業のコストに与える影響を、数字で試算したことがない
□ 保有商品の手数料・税金・出口(換金の方法と時期)を、人に説明できない
□ 資産が「どの国・どの通貨・どの制度の下」にあるかを、一覧にしていない
□ 相続や事業承継のときに、その資産がどう扱われるかを確認していない
□ 日本と米国の政策金利の水準を、いま即答できない
篠原:……数えました。7つです。
FPたいらく:目安をお伝えします。
0〜2個:通貨と時間の分散が、おおむね整理できている状態です。定期的な点検で十分でしょう。
3〜5個:方向性は見えているものの、実装が追いついていない状態です。半年以内に資産構成を見直す価値があります。
6個以上:意図せず「円が強くなる」ほうに資産の大半を賭けている状態です。まずは、いま何がどこにあるかを紙に書き出すところから始めることをお勧めします。
篠原:7つとなると、いちばん下ですね。
FPたいらく:ただ、篠原さんはこうしてご相談にお越しになりました。それが最初の一歩です。多くの方は、チェックすらしないまま次の10年を過ごします。数えたという事実だけで、すでに一歩進んでいます。
7.会合の結果が出る前に、決めておくこと
篠原:この3日間、私は何をすればよいでしょうか。
FPたいらく:相場を見張る必要はありません。代わりに、3つのことを決めておいてください。
ひとつ目は、円で持ち続ける金額を決めること。いくらまでは円で持つ、と決められれば、それを超える部分についてだけ考えればよくなります。判断の対象が小さくなるほど、人は動けるようになります。
ふたつ目は、動かす順番を決めること。一度に全部を動かす必要はありません。何を、いつ、どの割合で移すのか。順番が決まっていれば、相場がどちらに動いても慌てずに済みます。
みっつ目は、判断の基準を、相場ではなくご自身の予定に置くこと。「165円になったら」ではなく、「10年後に必要な資金の何割を外貨で持っておくか」から逆算する。相場は当てられませんが、ご自身の予定は書き出せます。
篠原:……この2カ月、私は毎日レートを見ていました。見ていただけでした。
FPたいらく:レートを見ることと、備えることは、別の行為です。今回の会合は、円安が止まるかどうかを教えてはくれません。ですが、ご自身の資産がどのシナリオに賭けているのかを教えてくれる、良い機会にはなります。
篠原:3日後、答えが出ますね。
FPたいらく:答えが出るのは相場のほうです。篠原さんの答えは、相場ではなく、篠原さんご自身が決めるものです。
ご案内
チェックリストで3つ以上当てはまった方へ。
現在、個別相談は約1カ月待ちの状況が続いています。ご自身の資産が「どの通貨・どの国・どの制度」に置かれているかを一枚に整理する初回面談(オンライン可)を受け付けています。また、通貨分散と国外での資産構築の基本を扱う少人数セミナーも定期的に開催しています。ご関心のある方は、記事下のコメント欄またはこちらよりお問い合わせください。
─────────────────────────
▼ 私自身の運用実績を9年間公開しています
https://note.com/asuplus/m/me3e461d1b837
▼ 30分オンライン個別相談(無料・全国対応)
空いている日時をその場で予約できます
https://www.aspls.jp/consultation/
※ 金融商品のご案内・勧誘は行いません
AsuPlus|海外口座・通貨分散に特化した独立系FP事務所
─────────────────────────
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

