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時が消えた島 第六章<アリサ>

第六章 アリサ


1

この手紙は、あなたと夕食を共にした後、二階に上がってから書いています。
一緒に上がった三人の子供たちは、いつの間にかどこかに消えてしまいました。
でも、そんなことで驚いてはいられません。
これから書く話に比べたら、些細なことでしょうから。


大学の前期試験が終わって、わたしにアルバイトに誘われた時のことを覚えていますか?
わたしは学生食堂から出て来るあなたを待ち伏せしていました。

「ちょっと話があるんだけど、お時間いただける?」
いきなりわたしに話しかけられたあなたは、きょとんとした顔をしていました。
誰だっけ?
とあなたは思考を巡らせ、語学の授業でわたしと一緒だったと言う結論に達します。

最初に白状してしまいますね。
わたしは、あなたと同じ大学ですが違う学部の学生です。

事前にあなたについて調査した上で、近付いたのです。
そして、ちょっとした細工と拙い催眠術をかけて、語学のクラスが一緒だったと思わせたのです。

わたしは幼い頃に両親を交通事故で亡くし、中学時代まで祖父のもとで暮らしました。わたしは東京に憧れて、祖父の勧めもあり、東京の高校に行くことになりました。
そしてそのまま、東京のあなたと同じ大学に進学しました。
もちろんその時、あなたの存在は知りませんでした。

祖父はわたしを東京に見送った後、住み慣れた家を処分して、一人この島に移り住みました。
連絡を受けたわたしはびっくりしました。だけど、一方的に通知があっただけで、移転先は分かりません。
それ以来、祖父とは、音信不通だったのです。

実はここは、わたしの祖父が暮らしていた家です。今年の初め、その祖父が亡くなりました。

祖父が亡くなった今、わたしには親戚と呼べる存在がいません。

それを知ったのは、弁護士からの通知が届いたからです。
祖父は自分が亡くなったら、通知をわたし宛に届けるようにその弁護士に依頼していたのです。

祖父はこの家で、弟分にあたる人と二人で暮らしていました。

わたしは会ったことがありませんが、あなたの話に出てきた、佐吉じいさんが弟分ではないかと思っています。

弁護士からの通知には、祖父から預かっているものがあるので一度お会いしたい、とありました。
そこで、その弁護士を訪ねていったのです。

わたしは弁護士に、祖父からの手紙を渡されました。

遺産をこの家に隠しておくので、取りに来るようにと書かれていました。
遺産ってなんでしょう。
金の延べ棒?
宝石?
それとも祖父だけが大切にしていた何か?
何でも良いのです。
ずっと音信不通だった祖父の面影を求めて、わたしはやっとこの島にたどり着きました。

祖父は弁護士に頼んであなたのことを探したそうです。
そして偶然にも、学部は違うけど、わたしと同じ大学の学生だと分かりました。

祖父の意思を継いで、わたしはあなたに近づいて、この島に誘うことに成功しました。

2

さて、ここまで読んであなたの頭の中は『?』だらけになっているでしょうね。

祖父があなたを探してわたしと一緒にこの島に呼び寄せた理由。
波の音が砂浜を打つ夜、窓辺に揺れる行灯の明かりの下で考えても、わたしには残念ながら分からないのです。

あなたをこの家に案内した少年。
実はその少年とわたしはスマホで連絡を取り合っていました。
直接会ったことはありませんが、スマホの画面越しに見た、彼の黒い瞳と風に舞う黒髪が印象的でした。
わたしはその不思議な少年と連絡をとって、打ち寄せる波の音だけが響くこの孤島に来たのです。

この島にはスマホの電波は来ていないのでは?
あなたはそう言いたいのでしょうね。
少年と連絡を取っていた時に、少年の背後に岩場が映りこんでいたので質問したことがあります。
この島の北側の断崖、潮風が強く吹きつける岩場にだけ、かすかにスマホが繋がるエリアがあるそうです。
だけど、この島には電気が来てないので充電出来ないって、あなたはそう言いたいんでしょうね。
わたしも最初はそう思っていました。
それは今から行く場所に隠されているようです。

少年と何度かやりとりするうち、わかってきたことあります。
少年は左吉さんの孫で、わたしたち二人を呼び寄せる役目を担っていたのです。
その少年が姿を消したのは役目を終えて自分の家に帰ったのではないでしょうか。

少年の話の中に出てくる佐吉さん。
彼の名前を口にするたび、少年の表情が曇るのを見逃しませんでした。
実は佐吉さんはかなり精神を病んでいるようなのです。少年によれば、月明かりの夜に一人で浜辺を歩き、見えない誰かと会話を交わす姿がよく目撃されるとか。

わたしの祖父と二人で築き上げたここでの生活。祖父が亡くなったことで歯車が狂ってしまい、精神に異常をきたした可能性があります。

わたしはこれから、この家を調べてみるつもりです。
先程布団を敷こうと思って押し入れを開けた時、古びた木の匂いと共に、意外なものを見つけました。
敷板の隙間から、まるで息を潜めるような微かな青白い明かりが漏れているのです。
指先で触れると、板がかすかに振動している。
まるで下に何かが生きているかのように。

この下に電気が繋がっている。
わたしが少年とスマホでやり取りをした、その時必要な電気の存在がきっと見つかります。

板を外してみると、階段がありました。
わたしは今からこの階段を下りてみます。

この手紙は、明日の朝、この家の探検が終わり、無事にあなたに会えたら灰にするつもりです。
もし、もしもわたしが戻ってこなかったら。
階段の先で何かが待ち構えていて、わたしを捕らえたのなら。
この手紙があなたへの最後の言葉となるでしょう。
行灯の炎が揺れています。
誰かが近づいてくるような...。
時間がありません。
では、また会えることを祈って。

アリサ

つづく

第七章【完結】はこちら↓

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