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もうひとつのミステリー ⑨ラストメッセージ

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海沿いの道を走るバス、この景色を見ることはもうないと思っていた。タイムスリップするように丘の上までバスは僕を運んでくれた。
建物はすっかり新しくなって、庭には新しい遊具もあった。小さな子達が遊んでいる。フェンス越しに見つめていると、背後から声がした。
「こんにちは」
振り返り僕も挨拶をする。
「こんにちは」
しばしの沈黙。あ、そうか。今僕は不審者として見られている。すぐさま僕はここで育った者ですと伝えた。声をかけてくれた人はホッとした表情を浮かべ笑った。僕は三上さんに会いに来たことを話した。防犯の関係で僕を中に入れることはできないけれど三上さんを呼んできてくれると、その人は建物に向かった。
しばらくして、建物からゆっくりとこちらに向かう人が見えた。庭の中ほどまで来ると、一瞬足を止め僕を見た。三上さんだ。嬉しそうに走り出す三上さんがいた。僕はこみ上げる涙をおさえることができず、フェンスにつかまり泣いた。
「亮ちゃん…!」
フェンス越しに、僕の頭をでるように三上さんはうんうんとうなずいていた。
「…ごめんなさい、迷惑をかけて」
「いいの、こちらこそごめんなさいね。もしかしたらあなたが知りたくなかったのではと、心配していたのよ。」
「…。」
「あなたが初めてここに来た時にね、この手紙が入っていたの。あなたが必要な時に渡すようにと、ずっと預かっていました。」
渡された手紙には、母親と思われる人から僕の戸籍こせきについて書かれていた。僕を守るために母親は僕をこの場所に託したこと。養子先ようしさきのこと。僕の人生についてまで。
「僕にもいたんですね。母親が。」
三上さんは黙っていた。
「三上さんに育ててもらったから、僕にとっては三上さんが親です。それなのに僕は」
言いかけた言葉を三上さんは遮るように
「亮ちゃん!…いい?あなたは生きるの。幸せに生きていいのよ。」
そう言って、三上さんは優しく微笑んだ。施設が燃えたあの時、僕は生きることをやめたいと思っていた。逃げ出したいと思っていた。
そういうことを全部ひっくるめて、三上さんはあの時「わかった」と言ったのだろう。施設一部がなくなって、より一層の共同生活を余儀よぎなくされる頃、僕だけが養子に引き取られることになった。誰にも悲しまれず、誰とも言葉を交わさず。

 (電話をかける。)
「はい、小野田探偵事務所」
「あ、僕です。」
「おう。どうだ、神社のことは何かわかったか?」
「神社のというか…。僕のことがわかりました。」
「…そうか。」
「師匠、知ってたんですね。」
「まぁ、三上さんと俺は、元夫婦だからな。」
「え、えぇー!?」
「ふぁっはっは、気づかんかったろう。」
「え、いや、はい…。なんか僕、何一つ受け止めきれないんですけどー!」
「まぁ、あれだ。今はまだ終わってないから。全部終えてから帰ってこい。」
「終ってない…?いや、犯人は捕まりましたよ?」
「…終わってないんだよ、まだ。お前、面会は済んだのか?」
「あ、いや…まだですけど。」
「終らせてこい、儀式とやらを。」

電話を切ると、すぐに着信が入った。東堂さんだ。僕は一呼吸おいて電話に出た。
「はい。」
「東堂です。御倉さんとの面会が決まりました。明日の16時、お待ちしています。」
「わかりました。失礼します。」
淡々と、そして静かに電話は切れた。

—10—

 鳥居をくぐり神社の前に立つ。母親からの手紙には、その昔この地でひそかに続いていた生贄いけにえの話が書いてあった。僕には理解ができなかったけれど、母親は生贄いけにえとして命を全うすると決めた人。僕を置いて、誰のためになるかわからない運命を勝手に背負った人。
僕の人生にはきっと分岐点が幾つもあって、どの生き方をしても巡りくるは呱々ここなんだと思う。僕の生まれた場所。血。その全てを受け入れ思いっきり捨ててやろうと思うんだ。
僕は、生きていく。



 6つ、太鼓の音が響く。


               —終―



「書けた…。」

託された物語を書き進める中で、喜多川さんは完璧なまでに自分で書かれたミステリーを案として送ってくれた。

文章を書く人にとって、文章が好きな人にとって『こう書いてほしい』は、もはや書いたそれが世界観であり、それ以上を私が書く必要はなくて、本人が書いた方が最も満足する物語になるのだ。だから、私は私にしか書けない物語を書いた。

私の書いた物語には、『面会』がどうだったか書かれていない。それは、選択肢があまりに多すぎたからだ。喜多川さんからの原案を私が物語にしたように、あなたにとってのラスト、物語を想像してほしい。


ここまで読んでくださった方へ

今度は私から、あなたに
この物語を託したいと思う。

                                                   ― 完 — 


原案を書いた喜多川さんの作品はこちら

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