もうひとつのミステリー ⑧
—8—
僕の記憶にないところで事件は幾つも起きていたという。過去を遡ろうとも、僕には何一つ覚えのないこと。儀式だの宗教だの、僕にとってはどうでもいいことだった。三上さんは、傷ついていないだろうか。そんなことばかりを考えていた。
「聞いてます?」
「あ、はい。」
「27年前、この地で殺害された方があなたのお母さん、御倉由美香さんです。」
「はぁ…。」
「当時発見されたのはあなたが調べていた神社付近、ここ最近の事件と類似しています。」
「御倉さん、あなた、身体に痣ありませんか?」
「…痣、ですか?」
いにしえより想ひ続く
眷属待ちつ夜去方
朽ち果てることなかれ
— 赤ん坊の泣き声 —
「ごめんね、ごめんね。」
『…誰だ…』
巫女の舞、燃える炎、荒ぶる狂気
『待って…待って!』
—9—
「面会、させてもらえませんか?」
説明は僕の耳に殆ど響いてこなかった。捕まった事件の犯人は御倉和雄、僕の叔父にあたる人だという。ふらふらと警察署を出て僕は歩き出した。少し前までの僕と今の僕はまるで別人で、存在全てが嘘であるかのように誰かの人生に書き換えられた。
「僕は一体、誰なんだ…。」
立ち止まり空を見る。
「御倉さん!」
声は東堂さんだとわかった。僕は振り返ることなく答えた。
「何ですか?」
自分でも驚くほどに冷たい声だった。東堂さんは小さな声で「ごめんなさい」と言った。
僕はもうどうでもよくなって笑った。
「東堂さん、流石っすね。僕全然わからなかったですよ、あんたが仕組んでるなんて。探偵失格ですね。もう犯人捕まったし関係ないっすよね?じゃあ二度と関わらないでもらっていいっすか?おつかれっした!」
「御倉さん…!」
「俺は今井亮太だ‼」
荒れた心のままに語気が強くなる、勢いのまま振り返ると、東堂さんは真っすぐにこっちを見ていた。僕は彼女を傷つけていると理解した。でも、今の僕には撤回できるほどの余裕はない。何も言わない東堂さんを置き去りに、僕はこの地を後にした。
(続く)
