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トイ・ストーリー1 考察|「かっこよく落ちる」の意味——30年前、映画が"大人"を救っていた

子どもの頃は、ただの「おもちゃが動く楽しい映画」だと思っていました。

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でも、大人になって観直したら——これ、英雄になれなかった大人への、いちばん優しい映画だった。

(※この記事は結末に触れます。未見の方はご注意を)

今日は『トイ・ストーリー』(1995)を、バズの絶望と、ウッディの嫉妬と、30年経っても消えない「ただの自分」の話として読み解いていきます。


🎬 この映画、一度"死にかけて"いた

いきなり裏話から。

『トイ・ストーリー』は世界で初めての、全編フルCGの長編映画です。手描きが当たり前だったアニメの歴史を、この一本がまるごと塗り替えました。

でも実は、一度ボツになりかけています。

  • 1993年11月19日、前半をディズニー幹部に試写したら大不評。後に「ブラック・フライデー事件」と呼ばれることに

  • 原因は「もっとシニカルに、大人向けに」という注文に応えるうち、ウッディが"ただの嫌なヤツ"になっていたこと

  • 声を担当したトム・ハンクスも、録音中に思わず「こいつは嫌なヤツだ!(This guy is a jerk!)」と漏らしたそうです

  • 制作は一時ストップ。その間、スティーブ・ジョブズが個人のお金で会社を支えた

そこから約3ヶ月かけて、ウッディは「意地悪な暴君」から「優しくて、脆いリーダー」へ。バズは「自分がおもちゃだと気づいていない」設定へと作り直されました。

——もし作り直していなかったら、ピクサーはここで消えていた。その崖っぷちから生まれたのが、この一本です。

ちなみにバズの名前は月面を歩いた宇宙飛行士バズ・オルドリンから。ウッディは西部劇俳優ウッディ・ストロードから。名前からして「英雄」を背負わされた二人なんですよね。

ここ、あとで効いてきます。

🚀 バズの絶望——「かっこよく落ちる」ということ

この映画でいちばん刺さるのは、たぶんここです。

バズがテレビCMを見て、「自分はただの量産品のおもちゃだ」と知ってしまう場面。

空を飛べると信じていた。レーザーも本物だと思っていた。なのに、画面の中の自分に「電池は含まれません」の文字が付いている。

海外では、この場面は昔から「existential crisis(実存的危機)」というキーワードで語られ続けています。子どもより、大人のほうが深く刺さる場面として。

「この映画でいちばん"自分ごと"なのは、バズが自我に目覚めて、実存的な危機に沈んでいくところだ」
(※海外の一般視聴者レビューより)

私は、この場面を「真実を知って絶望する話」ではなく、「意味を乗り換える話」だと読みました。

だって、バズが飛べないという事実は、最後まで変わらないんです。変わったのは、彼が引き受けた"意味"だけ。

それが、ラストのあのセリフにつながります。ロケット花火で空を舞いながら、バズは言う。

「飛んでるんじゃない。落ちてるだけだ。かっこつけてな。」(日本語吹替:所ジョージ)

英語の原文は "This isn't flying! This is falling, with style!"——直訳すれば「これは飛んでるんじゃない、かっこよく落ちてるんだ」。

英雄じゃないと知っても、落ちながら、かっこよく落ちる。これは大人になった私たちへの、そっとした肯定だと思うんです。

😨 ウッディの嫉妬——強い者が、いちばん恐れていたもの

一方のウッディ。新入りのバズに、アンディの一番の座を奪われて、嫉妬に狂っていきます。

日本の観客も、ここでちゃんとザワついていて。

「嫉妬して突き落とすとか、ダークな面もあるんだな」「ウッディに対して共感性羞恥がすごい」
(※Filmarksの一般レビューより)

わかります。ウッディ、1作目はけっこう"やらかす"んですよ。

でも、これはただの「人気争い」じゃないと思うんです。

おもちゃにとって、愛されないこと=存在する意味の消滅。ウッディの本当の敵は、バズじゃない。「いつか自分が選ばれなくなる」という、時間そのものだった。

実は、カットされた幻のシーンがあります。絵コンテ段階では、「アンディがバズに夢中になって、ウッディをゴミ箱に捨てる」——そんな悪夢を見る場面が描かれていました。本編からは削られましたが、つまり作り手は最初から、ウッディの芯を「見捨てられる恐怖」に置いていたわけです。

海外のファン議論には、こんな説もあります。

「ウッディと『3』の悪役ロッツォは紙一重。ウッディがああならなかったのは、ずっと持ち主に恵まれていたからにすぎない」
(※Reddit発のファン議論より)

そしてこの「見捨てられ不安」は、シリーズ全体を貫く背骨になっていきます。

30年前の第1作が、その全部の種を蒔いていた。

強い者ほど、「必要とされなくなること」をいちばん強く恐れている——この逆説が、ウッディというキャラの魅力そのものなんですよね。

🧸 「お前はおもちゃだ!」——"ただの"を、誇りに変えられるか

シドの家に囚われて、絶望したバズに、ウッディが叫びます。

「お前は、おもちゃなんだよ!(You are a toy!)」

一見、追い打ちの残酷な一言。でも直後に、ウッディは言い直すんです。「お前を持ってる子がいる。それがどれだけ幸運か」と。

ここで「toy(おもちゃ)」という言葉の意味が、ひっくり返る

  • 前半の「toy」=「本物じゃない・偽物」という、格下げの言葉

  • 後半の「toy」=「誰かに愛される関係を持つ者」という、誇りの言葉

同じ単語の意味が反転することで、この映画のテーマが立ち上がります。

人間に置き換えると、こうです。「ただの会社員だ」「ただの親だ」「ただの、一人の人間だ」——その"ただの"を、誇りに変えられるか。

英雄じゃなくていい。量産品の一人でしかない自分を、それでも「誰かのものである」ことで肯定できるか。この一本は、ここに全体重を乗せています。

(※この「お前はおもちゃだ」は、#004『トイ・ストーリー2』考察で"呪い"へと、もう一度ひっくり返ります)

🔦 シドは、本当に「悪」なのか

おもちゃを壊して改造する隣の少年シド。暗い家、片目の赤ちゃん人形にクモの脚——大人になっても忘れられないトラウマとして、よく語られます。

(ちなみにシドが爆破する人形「コンバット・カール」。本当はG.I.ジョーを使う予定が、メーカーに「爆破はNG」と断られて生まれた代役だそうです。そりゃそうだ。)

でも、私はシドを「ただの悪役」とは読みませんでした。

シドは悪意でおもちゃを壊しているんじゃない。「おもちゃに心がある」ことを、知らないだけなんです。悪じゃなくて、無知。

海外でもシドの再評価はずっと続いています。「彼は孤独で誤解された少年だった」「将来は優秀なエンジニアになったはず」。

だからクライマックス、おもちゃたちが自ら動いて、シドに直接告げる。

「これからは、おもちゃを大事にしろよ。……いいな?(So play nice!)」

ここでこの映画は、ホラーの文法(動くおもちゃ=恐怖)をひっくり返して、観客=人間にこう突きつけます。「あなたが雑に扱ってきたモノにも、視点があるとしたら?」

そして、この話には公式の後日談があります。15年後の『トイ・ストーリー3』に、あのドクロTシャツを着たゴミ収集員が一瞬だけ映る。監督が「あれはシド」と明言していて、声も1作目と同じ俳優なんです。

ファンは、その一瞬にこんな物語を書き込みました。

「シドはあの日おもちゃが生きていると知って、捨てられたおもちゃを救うために、ゴミ収集員になったんだ」
(※2014年・Reddit発のファン理論)

公式が用意したのは、ほんの数秒のカメオだけ。その余白にファンが「救い」を書き足した。この読み、私はかなり好きです。

🤝 ライバルから、相棒へ

憎み合っていたウッディとバズは、どこで"相棒"になったのか。

私は、二人の友情を「対立の解消」ではなく、「嫉妬の昇華」として読みました。

そもそもウッディがバズを憎んだのは、二人が「アンディの愛」という同じものを求めたから。同じものを愛する者同士は、敵にも、相棒にもなれる。

ラストのカーチェイス。ウッディがバズを助け、バズがウッディを助ける。一番を争っていた二人が、順位を捨てて「隣」を選ぶ。

だから主題歌「You've Got a Friend in Me(君はともだち)」は、甘い友情の歌に聞こえて、じつは——「一番になれなくても、隣にいる」という、序列を降りた者だけが歌える歌なんだと思うんです。

(ちなみにこの曲、ランディ・ニューマンが"1日で"書き上げたそうです。天才の仕事、はやい。)

🎬 こんな人におすすめ/正直、おすすめしないかも

おすすめしたいのは、こんな人。

  • 「特別な自分」になれなくて、どこかで力尽きた経験がある人

  • がんばってるのに、誰かに一番の座を取られた気がしている人

  • シリーズを『2』『3』『5』から入って、原点を確かめたい人

逆に、いまはやめておいたほうがいいかも、な人。

  • とにかく明るいだけの映画で笑いたい夜(芯は、けっこう刺してきます)

  • 「必要とされなくなる」不安が、いま生々しく痛む時期の人

あと、これは観客の感想を集めていて印象的だったんですが——この映画、観るたびに泣く場面が引っ越すらしいんです。子どもの頃はバズで、働きだしてからはウッディで、親になったらアンディ側で。

子ども向けの顔をして、大人の"ただの自分"をそっと肯定してくる映画です。覚悟して観ると、いい夜になります。

🌙 さいごに

『トイ・ストーリー』は、「おもちゃが動く楽しい話」に見えて、ほんとうは——英雄になれなかった全員への、優しい肯定でした。

飛べなくてもいい。落ちながら、かっこつけていく。

その一言に、私は救われた気がします。

これは、私の読み方です。

きっと、あなたにはあなたの「あそこが好き」があるはずで。

あなたは、この映画をどう観ましたか?

バズのどの瞬間で刺されましたか。シドを、悪役だと思いましたか。よかったら、コメントで聞かせてください。ぜんぶ読みます。

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🎬 シリーズの外の考察も

ピクサーを離れて、ディズニー本家の“敵の消し方”について。怪物を斬らずに終わらせるラストの話です。

こちらはアニメではなく、実在の人物を描いた伝記映画について。10億ドルのヒット作が“映さなかった数年間”の話です。


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