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【前編】デノン初のBluetooth®対応レコードプレーヤー「DP-500BT」開発者 岡芹 亮インタビュー

デノンから新たに登場したBluetooth®対応レコードプレーヤー「DP-500BT」。デノンオフィシャルブログでは開発者の岡芹亮にインタビューを実施しました。他の記事では読めない開発秘話を含め、技術的なポイントや製品に込められた思いなどを前後編に分けてお届けします。まずは前編から!

GPD プロダクト エンジニアリング シニアマネージャー 岡芹 亮
Bluetooth®対応ベルトドライブ・レコードプレーヤー
DP-500BT
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現代のリスニングスタイルに応える、信頼性の高いアナログレコードプレーヤーを

●本日はDP-500BTの開発者である岡芹さんにいろいろとお話をうかがいます。レコードプレーヤーはデノンの中でも歴史のある製品カテゴリーですが、その中でDP-500BTを企画された理由を教えてください。

岡芹:デノンのレコードプレーヤーの歴史は非常に古くて、蓄音機や円盤録音機の時代にまで遡ります。ヒストリーについては後でもお話ししますが、レコードプレーヤーも当初は放送局用の業務用機器を作っていました。デノンの民生用のレコードプレーヤーとしては、1971年にDP-5000を初めて発売して以来、DPという品番で半世紀以上途切れることなく作り続けています。

その後、2010年以降のレコードブームもあり、デザイン面も含めてデノンのレコードプレーヤーのラインアップを再構築しようと、まず手始めに2018年にエントリーモデルのDP-400、DP-450USBを発売しました。その後、2023年には現在のフラグシップモデルDP-3000NEを発売しています。

今回ミドルレンジの製品を出すにあたり、デノンがこれまで積み重ねてきたレコードプレーヤーの基礎技術と設計思想をベースに、1970年代にはなかった現代の技術や感性を融合させた、新しいモデルを送り出そうということになりました。

●DP-500BTはBluetoothに対応した点も大きなポイントですね。

はい。Bluetoothを搭載したレコードプレーヤーをデノンとして出すという話は、実はコロナ禍の前からありました。デノンにはBluetooth対応のイヤフォンやスピーカーがあります。ならば、対応するレコードプレーヤーがあってしかるべきですよね。そこで、デノン初のBluetoothレコードプレーヤーとしてしっかりとした信頼性の高いものを作ろうというのが、DP-500BTの企画を検討する中の大きなポイントでした。

フラッグシップモデル DP-3000NEから受け継ぐサウンドと信頼性、そしてデザイン。その上で、Bluetoothの使いやすさをはじめ、今のライフスタイルに応える、使い勝手に優れたアナログレコードプレーヤーを開発しようと考えました。

クラシカル・モダンなデザインと制震性能の高い本体

●まずは外観ですが、DP-3000NEのデザインに近いですね。

そうですね。DP-3000NEと同じく、現代のインテリアに溶け込むデザインをテーマにしています。DP-3000NEに比べてキャビネットを薄くすっきりとさせた分、より軽快なイメージに仕上がっていると思います。ブラックとシルバー、直線と円で構成された、要素を削ぎ落としたデザインで、マットな質感のトーンアームなど、かなり細かいところまでこだわったデザインになっています。

DP-3000NE

デザインは、デノンは元々クラシックで重厚なイメージなので、もう少し「クラシカル・モダン」寄りにしたいと考えました。また、ノブのつまみやすさなど細部までとてもこだわって、何度も検討を重ねました。非常に時間がかかりましたね(笑)。それが結実したのがDP-500BTのこのデザインかなと思います。

デザインはもちろん、つまみやすさなどの細部までこだわったノブ

●シャーシの素材は何ですか?

ABS樹脂です。ただし、本体の表面はDP-400/DP-450USBのような鏡面仕上げではなく、ウレタン塗料が入った、ちょっと特殊なマット塗装にしています。見た目のイメージだけでなく、振動が違ってくるなど、塗装一つでも音の個性は変わります。

中にダイキャストのプラッター・ベースや、剛性を高めるための金属プレートが組み込まれているリジッド構造です。樹脂と金属の共振周波数が違う異種材料を組み合わせることで、共振を大幅に抑えた構造になっています。
また脚部分は、アルミとゴムの組み合わせで、回転の安定性を高めることで音質の向上をはかっています。

●だから、このスリムでスタイリッシュなデザインと、高音質が両立するのですね。

そうです。今回は外観の美しさも求められていましたので、この構造を採用しました。

●業務用機器からスタートしたデノンの特長って何ですか?

ラジオ放送局の業務用レコードプレーヤーに求められるのは、「正確に、ムラなく回ること」「負荷に対する安定性」「使いやすいこと」「高い信頼性」の4つです。これらが、非常に厳しいレベルで要求されます。「基本的な性能を満たした上でいかに回転を安定させるか」という課題にずっと向き合ってきた、その技術の蓄積がデノンのレコードプレーヤーには生きているんです。

例えば今回、センサーを用いて回転速度を制御し、トーンアームの設計を追い込むことによって歪を減らすなどのアプローチをしていますが、これは当時、業務用機器を多く手がけていた時代にデノンが行っていたことでもありました。そのエッセンスを、今回のDP-500BTにも取り入れたというわけです。

レコードプレーヤーの役割とは、端的に言えばレコード盤に入っている音楽の情報を、いかに正確に再生するかということです。ですから、そこに直結する部分であるターンテーブルの回転部分とトーンアームには、デノンならではのこだわりが特にありますね。

安定した再生のために、回転を正しく制御する機構を

●レコードプレーヤーは筐体やモーター周りをはじめ、ターンテーブル、トーンアームなど物理的な設計技術や開発思想が直接音に表れますよね。まずは回転部分ですが、正確で安定した回転のために特にこだわった点はありますか?

DP-500BTでは回転の精度を上げるためにいろいろ工夫しているんですけど、特筆すべき点は「回転制御」ですね。回転数を光学式のセンサーで計って、基準のクロックと比較して差があればフィードバックしてPWM制御(注)する。モーターの回転を精密に制御することでプラッターの回転精度を高めるということをやっています。ほら、プラッターの下にスリットがあって奥にセンサーが付いているでしょう?
(注)PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)とは、ON/OFF周期(周波数)を一定に保ちつつ、ONの幅(パルス幅)を変えることで、モーターの速度や電力などを効率的に制御する技術。

回転制御をする光学式センサー

スリットを通過する光がパルスになって、そのパルスの間隔でセンサーが回転数を見ているんですね。その間隔の変動を監視して、規定の速度から外れた際にモーターの速度を可変させることで正しい回転速度を保つように制御し、非常に高い回転精度を実現しているというわけです。

中心部のスピンドルの機械精度を高めたことも相まって、ワウ・フラッターと呼ばれる回転ムラは、理想とされる0.1%以下(WRMS)に抑えています。この辺りの設計ノウハウや指針はデノンの伝統的な設計思想と技術の蓄積から導き出されたものですね。

●高精度な回転制御、安価なレコードプレーヤーにはない機能ですね。プラッターやモーターは?

プラッターはDP-3000NE直系の堅牢なアルミダイキャスト製です。これを、起動トルクの大きいDCモーターで効率よく回しているといった形ですね。「正確に回す」ための手法はブランドにより様々だと思いますが、デノンはあらゆる要素において独自の手法と技術を持っていて、それらを各製品に最適な形で組み合わせて設計することができます。そこが強みだと思います。

安定性と追従性の高いS字型トーンアームに、デノンの設計思想が

●レコードの再生で重要なトーンアームについてはどうですか?

このトーンアームの形も単純に曲がっているわけではなく、すべての製品に当てはまる長さがあるわけではありません。レコード再生においては、カートリッジの針先がレコード盤の音溝に対してできるだけ接線方向(円に沿って進む方向)に向いて、音溝をトレースするのが良いとされています。レコード盤は回転運動するので、トーンアームは支点を中心として必ず円弧を描きながら移動することになります。

レコードの外側と内側では、音溝と針先との角度にはどうしてもズレが生まれます。これを水平トラッキングエラーといいます。このトラッキングエラーは音の歪みの原因となるので、このエラーの値をいかに低く抑えるかがトーンアーム設計では最も大事になります。

●トラッキングエラーを減らすために具体的にどんな点に配慮しましたか?

このトラッキングエラーの度数は、レコードの外周から内周にかけて常に変化するのですが、この変化を描いたグラフをトラッキングエラー・カーブと呼びます。歪みというのはこのカーブで変わってくるんですね。レコード盤は一定の速度で回転していて、外周よりも内周の線速度が遅くなるので、通常では内周の方がトラッキングエラーの影響が大きくなります。ですから聴感上でも内周の方が音質の劣化を歪みとして感じやすいんです。

ではデノンは何をしているかというと、この歪みを内周では少なくして、外周にもってくるという考え方で設計をしています。線速度の遅い内周でトラッキングエラーをゼロに近づけ、線速度の速い外周ではエラーをある程度許容するという、デノン独自のトラッキングエラー・カーブを昔から採用しているんですね。

その上で、このカーブを実現するためにトーンアームの「有効長(支点から針先までの距離)」「オフセット角(ヘッドシェルの曲がり)」「オーバーハング(カートリッジの取り付け位置)」の3つの値を定めています。DP-500BTでもこれらの値を突き詰めることによって、かつての業務用機器と同等のスペックを実現しています。

デノンの白河オーディオワークス(福島県)には過去のレコードプレーヤーの膨大な量の設計図があるんですけど、業務用機器を作っていた時代の仕様を参考に、当時設計を担当していたOB設計者にもアドバイスをもらってトーンアームを設計しました。当時の業務用機器はロングアーム、DP-500BTはショートアームという違いはありますが、トラッキングエラー・カーブは当時と同じになるように設定しているんですよ。

●ほかにトーンアームでこだわったポイントは?

レコードの盤面に反りなどがあっても素早く、的確に針先が追随できるように、トーンアームは空気のように軽やかに動くことがとても大事なんです。溝に対して針の負荷が一定にかかるように、アームの感度を高くしたのもポイントです。トーンアームを水平・垂直に動かすための軸受けにボールベアリングとピボットベアリングを使って、針圧は、目盛りどおりの針圧が実際に出るよう、誤差は0.1グラムという精度にしています。

トーンアームの軸受けのエアベアリング

●S字トーンアームはカートリッジの交換もしやすいのでしょうか?

はい。S字アームを新たに設計した理由は2つ。1つは、ラテラルバランス(アームの左右の傾き)を取るのが有利なこと。そしてカートリッジの交換を容易にするためです。S字ならばヘッドシェルはユニバーサル型が使えるので、気軽にいろいろなカートリッジに交換して音の違いを楽しむことができます。

カートリッジは標準でMM型が付属しますが、MC型に付け替える場合は、PHONO OUTでMC昇圧トランスまたはヘッドアンプを介して使用してください。デノンのロングセラーモデルのMC型カートリッジ DL-103はもちろん、重量モデルのDL-102にも対応します。

●DP-500BTは33回転、45回転に加えて78回転でも再生が可能なんですね。

はい、78回転のSPレコードも再生できます。ユニバーサル型なので、SP専用のカートリッジに替えれば昔のSP盤を聴きたいというニーズにも応えられますよ。

さて、Bluetoothなどの使い勝手、サウンドなど、DP-500BTには気になる話がまだまだあります。この後は、引き続き後編で!

後編に続きます

(編集部I&W)