貧しい絵描きの御伽噺1(短編全2回)
今から少し前、あるところに、心の病でからだが動かなくなった絵描きがおりました。
絵描きは絵描きですから、絵を描くことしかできません。
絵を描けなくなった絵描きは、自分がもう、何の役にも立たないのだと悲しんで、消えることばかり考えていました。
けれども、絵描きには小さな子供がありましたので、役に立たなくても消えることはできませんでした。
子供は絵描きに言います。
「しぬまで絵を描きつづけるって、星になったおばあちゃんとぼくに、お約束したでしょ」
絵描きはそれにこたえぬまま、動かないからだを精一杯動かして、子供を抱き寄せました。
からだの動かない絵描きは、お金を稼ぐことができませんでした。時々、病の新しい薬の臨床実験に協力して、少しのお金を得、子供と二人やっと生きていました。
薬が開発されると、絵描きは少しずつからだが動かせるようになりました。筆も握れるようになりました。
ところが、絵を描くための絵の具とキャンバスが、絵描きには残されていませんでした。
絵描きは、ダンボールをつなぎ合わせて、絵の具の色の代わりに、子供の削った色鉛筆の削りカスや、ポロポロに割れたクレヨン、紙屑や糸屑を貼り付けて描きました。
それらの作品は、全く売れませんでした。
少しも見向きもされず、途方に暮れた絵描きは、筆を置き、絵描きをやめてしまおうかと悩みました。子供のためにお金を稼がなければならないと思ったからです。勤めに出て、絵とは関わりのない仕事をしよう。そうはいっても病が治ったわけではありません。
そんな時、またしても子供が言います。
「しぬまで絵を描き続けるって、星になったおばあちゃんとぼくに、お約束したでしょ」
絵描きは涙を堪えながら、子供を強く抱きしめました。
その晩、絵描きは夢をみました。
激しく燃える真っ赤な炎の中心から、青白い光に包まれた女神が現れたのです。
その女神は小さいのに、それはそれは高温の熱を放出し、絵描きの目の前までやってきました。そして問いかけます。
「あなたは何のために絵を描くのですか」
女神の強い光を放つ目は、絵描きの瞳を真っ直ぐに見据えます。
「その答えがわかるまで、筆を置いてはいけません。答えがわかると、あなたは筆を置くことは決してないでしょう」
絵描きは声も出せずに、これは夢なのか? と、心の中で思いました。
すると、女神は続けます。
「夢だと思いますか? 夢でも良いのです。あなたに出来損ないの絵の具を贈りましょう。それは、決してあなたの望む色ではありません。そして、自らの力ではキャンバスに定着しない絵の具です。捨てられる運命にあった、その出来損ないの絵の具たちを、あなたの手で、昇華させてあげてごらんなさい」
そう言って、女神は真っ赤な炎の中に吸い込まれていきました。
2につづく

「出来損ないの絵描きと出来損ないの絵の具が辿り着く場所」
S6サイズの油画です
女神のモデルになった作家「西炎子氏」の作品を紹介しています。
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貧しい絵描きの御伽噺2
お話の続きです。読んで下さったらうれしいです
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