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10 きっかけは突然に

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奈々未に手を引かれるまま、白石は足を速めた。

バックヤードの細い通路を抜けるたび、音は少しずつ輪郭を増していく。

最初は遠くで鳴っているだけだったギターの響きが、次第に壁を震わせ、床を伝い、胸の奥まで届いてくる。
会場特有の乾いた空気の中に、弦が擦れる生々しい感触が溶けていくのが分かった。


一音、また一音。


それはまだ曲ではない。

完成された何かでもない。

けれど、だからこそ剥き出しだった。
音が音のまま生まれていく、その瞬間がむき出しの熱を帯びていた。




白石と奈々未がステージ袖にたどり着くと、そこにはすでに何人ものメンバーが集まっていた。


桜井玲香が少し前のめりになって舞台上を見つめ、その隣では飛鳥が息を詰めるように目を見開いている。

生田や松村の姿も見える。

普段なら誰かが何かしら感想をこぼしそうなものなのに、このときばかりはみんな黙っていた。


ただ目の前で起きているものに、言葉を差し挟む隙を見失っているようだった。


ステージ上には〇〇たち三人がいた。


〇〇はギターを抱え、少し俯きながら左手でフレットを確かめ、右手で短く弦を弾く。


ビーン、とエレキギターの鳴った音が広いアリーナの天井へ吸い込まれていく。

そのすぐ後に、慶太のベースが低く、深いところから追いかけるように鳴った。

櫂はドラムスティックをくるりと指先で回し、一拍だけ間を取ってから、ハイハットを軽く刻む。


チッ、チッ、チッ——。


単音だったものが、そこで初めて呼吸を持った。


〇〇がもう一度コードを鳴らす。
今度はさっきよりも少し長く、余韻を含ませるように。

そこへ慶太のベースが滑り込む。
低音はただ土台を支えるだけではなく、まるでメロディーの裏側にもう一本、見えない線を引くようだった。

櫂のドラムはその二つの音の間に入り込み、散らばりかけた音をひとつの流れへ束ねていく。


単なる確認作業には感じなかった。


バラバラに鳴ったはずの音が、互いの癖を探り合い、呼吸を読み合いながら、少しずつ“ひとつの曲”へ姿を変えていく。

目の前で起きているのは、演奏というより、もっと原始的で、もっと神聖な何かだった。

音が生まれていく、その瞬間そのもの。


白石は息をするのも忘れて見入っていた。


さっきまで胸の中を占めていた焦燥や苛立ちが、音の波に少しずつ押し流されていく。

代わりに湧き上がってくるのは、戸惑いだった。



——なに、これ。



こんなの、見たことがない。


普段、乃木坂のライブで耳にしているのは完成された音源。
緻密に組み上げられたアレンジ、計算された演出、何度も確認されてきたタイミング。

そのどれもが大事で、だからこそ自分たちは安心してステージに立てる。


でも、今目の前にある音は違う。


荒削りで、まだ形の定まりきらない部分もある。

それなのに不思議と、いや、不思議なくらいに心を掴まれる。

むしろ未完成だからこそ、今この瞬間にしかない熱がそのままこちらへ飛び込んでくる。


深川「すごいね。こんなの、はじめてかも」


柔らかな声が、白石のすぐ隣に落ちた。


振り向くと、そこには深川麻衣が立っていた。


白石「まいまい……」


白石が思わず名前を呼ぶと、深川はいつものように、春の日差しみたいに穏やかな笑みを浮かべた。

その笑顔を見るだけで、さっきまで張り詰めていた心のどこかがふっと緩む。

聖母なんて呼ばれる理由を、白石は誰より知っているつもりだった。

けれど、こういう瞬間に改めて思うのだ。

この人は本当に、人の痛みや不安を丸ごと抱きしめるみたいに笑うのだと。


深川はそっと白石の隣に並び、同じようにステージへ視線を向けた。


深川「さっきはありがとう。私のために怒ってくれたんでしょ」


その言葉に、白石は思わず視線を逸らす。


白石「……ごめん、空気悪くして」


先ほどまでの自分の行為に自己嫌悪して謝る。

けれど深川は気にした様子もなく、くすっと笑った。


深川「なんで謝るの? 嬉しかったよ」


その一言だけで、胸の奥が少し軽くなる。


分かってくれている。責めてもいない。だからこそ、余計に自分の未熟さが浮き彫りになる気がした。


深川は静かに息を吐いた。


深川「正直ね、すごく不安だったんだ」


その声は、驚くほど素直だった。


白石が顔を向けると、深川はまだステージを見たまま続ける。


深川「怖かった。このままファンのみんなに届けられなくなったらどうしようって。最後なのに、ちゃんと『乃木坂の詩』を歌えなかったらどうしようって」


白石の胸がぎゅっと締まる。


深川麻衣はいつだって、人を不安にさせないように振る舞う人だった。

自分がつらいときも、誰かがしんどそうならそっちを先に気にしてしまう。

そんな深川が今、こんなふうに本音を漏らしている。

その事実だけで、今日という日が彼女にとってどれほど大きな意味を持つのかが痛いほど伝わってきた。


深川「最後なのにって……思っちゃったんだよね」


深川は小さく笑った。


その笑顔はいつもと同じように優しいのに、ほんの少しだけ心細さの名残を滲ませていて、白石は思わず何か言おうとした。


けれど、その前に深川が続ける。


深川「でもね」


声の色が変わった。


白石がもう一度ステージを見ると、ちょうど〇〇がギターを鳴らし直したところだった。

今度はさっきよりもさらに迷いがなく、音が真っ直ぐに伸びる。

その背中越しに櫂がリズムを合わせ、慶太が低音を重ねる。

三人が互いの音を受け止め、ほんの一瞬の視線や呼吸で次を決めていく。


深川「そんな心配、なくなっちゃった」


深川はそう言って、少しだけ目を細めた。


深川「むしろ、ワクワクしてる」


白石は言葉を失う。


深川の横顔は、嘘ひとつなくそう言っていた。

気を遣っているわけでも、無理に前向きになろうとしているわけでもない。

心の底から、この予想外の出来事を受け止めて、そこに新しい楽しみを見つけている顔だった。


——まいまいらしい。


そう思った。


こんな状況でさえ、怖さより先に“楽しみ”を見つけられる人。前を向ける芯の強さ。

だからみんな、この人に救われてきたのだろう。




ふと周囲に目をやると、さっきまで険しい顔をしていたスタッフたちの空気も変わり始めていた。


音響スタッフは機材を前に〇〇たちと短く言葉を交わし、舞台監督はステージの立ち位置を確認しながら「じゃあこのタイミングで照明を少し遅らせよう」と声を張る。

ケーブルを持ったスタッフが走り、モニターの位置を変える者がいる。

誰かが指示を飛ばし、誰かがそれに応える。


気づけばその中心には、自然と〇〇たちがいた。



押しつけられた厄介事を処理するための即席チームではない。


目の前の音を、どうしたら一番いい形で乃木坂46へ、そして深川麻衣の卒業コンサートへ届けられるか。
その一点に向かって、現場全体がひとつの塊になり始めていた。


〇〇が何かを言う。 慶太がそれに頷き、ベースを弾く。 櫂が「じゃあそこ、こんくらいにしたらどうっすか?」とドラム越しに返す。 スタッフが「そのテンポなら映像も合わせられます」と食い気味に乗ってくる。


たった数十分前まで、彼らは“どこの誰かも分からない素人”だったはずなのに。


白石はその光景を見つめながら、胸の奥に小さな疼きを覚えた。


それが何なのか、すぐには分からなかった。


悔しさに似ている気もした。

羨ましさに近いのかもしれない。
あるいは、信じきれなかった相手が自分の想像を軽々と超えていくことへの戸惑いか。

はたまた…


けれど、ひとつだけ確かなことがあった。


さっきまで“守らなきゃいけない側”だと思っていた自分が、今は逆に、〇〇たちによって守られている側になっていた。


その事実が、白石の胸の奥に、熱を帯びた棘みたいに静かに刺さっていた。




--

舞台監督「よし、一度全体で合わせてみよう!」


その声は、さっきまでの怒号や焦燥を塗り替えるように、太く、よく通った。


その一声で、張りつめていた空気の質が変わる。


数十分前まで、このバックステージには“どうする”、“間に合わない”、“終わったかもしれない”という言葉がや感情が渦を巻いていた。

けれど今、そこにあるのは不思議なほど前向きな熱だった。

危機を乗り越える直前の、現場特有の昂揚。

誰か一人が楽観しているわけではない。
むしろ全員が事態の重さを理解したうえで、それでもなお「いける」と思っている。


そんな種類の確信が、スタッフたちの表情や足取りに宿っていた。


「照明、さっきのCメロ明けのきっかけもう一回確認!」

「音響、返しはこのままでいく! ボーカル、センター寄り少し上げて!」

「メンバー、立ち位置ついてくださーい!」


矢継ぎ早に飛ぶ指示の声。

その合間を縫うように、コードが引かれなおされ、照明やバミリ位置などが微妙に調整されていく。

スタッフたちの動きにはもう迷いがなかった。
ついさっきまでの混乱が嘘のように、巨大な歯車がぴたりと噛み合いはじめている。


周りで見ていたメンバーたちも、「はい!」「了解です!」と口々に返事をしながら、それぞれの立ち位置へ散っていった。

黒やグレーのリハ着に、名前がそれぞれ入った紫色のビブス。

汗を拭いながら駆け出す者、振り付けを再確認する者、隣のメンバーと立ち位置を再確認する者。

誰の顔にも、緊張はあれど、先ほどのような怯えは薄れていた。


深川がふわりと白石の手首を取る。


深川「いこう、まいやん」


その声はいつものように柔らかくて、だけど芯があった。
卒業コンサートの主役であるはずの彼女が、こんなときまで周りを安心させる側に回っている。

そのことに白石は胸の奥がじんと熱くなるのを感じる。


反対側から奈々未も、少しだけおどけたような調子で肩を軽く押した。


奈々未「ほら、まいやん。ぼーっとしてると置いてかれるよ」


白石「わかってるわよ…」


思わず返した声は、いつもの調子より少しだけ弱い。けれどそのやり取りに、自分の呼吸が少し落ち着くのがわかった。


深川と奈々未に挟まれるようにして、白石はステージの立ち位置へ向かう。


歩きながら、ふと視線が吸い寄せられた。


ステージ下手側。そこに〇〇がいた。


額にうっすら汗をにじませ、ギターを肩にかけたまま、舞台監督や音響スタッフ、それに櫂と慶太と短く言葉を交わしている。


さっき白石が感情をぶつけてしまった相手。


なのに彼は、少しも気を悪くした顔をしていなかった。

あるのはただ、目の前のライブを成功させることだけを考えている人間の顔だった。


真剣そのもの。


けれど、それだけではない。


険しいのに、どこか爽やかで、張りつめているのに、不思議と周囲を息苦しくさせない。


責任を背負っているはずなのに、それを悲壮感に変えず、むしろ「音楽をやれる」ことそのものに心を躍らせているような空気があった。


白石は思わず足を止めかける。


――なんなのよ、この人。


さっきまで“最悪のタイミングで現れた、得体の知れない人”でしかなかったはずなのに。今はその背中から目が離せない。

自分でも理由の分からない熱が、胸の奥にほのかに灯る。


白石は小さく息を吐いて、視線を前に戻した。


全員が位置につく。

ステージ上の空気が、すっと研ぎ澄まされる。


客席はまだ空。

もちろん本番前なのだから当然なのに、数万人の熱狂が入るはずの空間が、今はがらんと静まり返っている。

その巨大な空洞が、かえって音の輪郭を際立たせていた。

天井高く吊られた照明リグ、幾重にも重なるスピーカー、黒々とした客席の傾斜。


広すぎる会場は、まるで巨大な生き物みたいに息を潜めて、次に鳴る音を待っている。


インカムから声が飛ぶ。


「乃木坂の詩、頭から確認入ります」
「バンド、スタンバイ」
「メンバーは歌なし、動きと振り優先で」
「……全セクション、準備OK?」


短い確認がいくつか交わされる。

誰かの「OK」が重なり、最後に舞台監督の低い声が落ちた。


舞台監督「よし、いこう」


その瞬間、会場が無音になった。




本当に、しん、と。




誰かの咳払いも、衣擦れも、足音も、何もかもが止まったような一瞬だった。


巨大な空間が息を止め、何百もの視線が一点に集まる。


白石はその沈黙の中で、自分の鼓動だけがやけに大きく聞こえる気がした。



次の瞬間。



最初に響いたのは、〇〇の声だった。


〇〇「wow wow wow wow!」


それは、まるで静かな湖面に一滴の雫を落としたみたいだった。


派手に叩きつけるような声ではない。


けれど、まっすぐで、強くて、驚くほどよく通る。


低すぎず高すぎず、耳に入った瞬間にするりと心の奥まで届いてくる声。

そこへ、櫂と慶太のコーラスが重なる。三人の声は不思議なくらい相性がよかった。

輪郭の違う音がぶつかるのではなく、最初から一つのために存在していたみたいに溶け合っていく。


ほんの少しだけ遅れてギターがはいる。


〇〇の爪が弾いた一音が、会場の空気を鮮やかに塗り替えた。


続いてベースが芯を通し、ドラムが脈を与える。

単体ではただの“音”だったものが、重なった途端に“景色”になる。



白石は目を見開いた。


白石「ッ……」


鳥肌が立った。


ぞわり、と腕を駆け上がる感覚。
背中の真ん中を、細い電流が走るみたいだった。

頭で理解するより先に身体が反応している。

リズムが足裏から入り込み、心臓の拍と噛み合い、血の流れまで曲に支配されていくような感覚。


――なに、これ。


音源で何度も聴いてきたはずの『乃木坂の詩』なのに、まるで別の曲みたいだった。

いや、別物なのではない。

曲の輪郭も、メロディーも、進行も同じだ。

なのにそこに宿る温度が違う。
人が今この瞬間に鳴らしている音には、こんなにも体温があるのかと、白石は呆然としてしまっていた。


生演奏というだけでは説明できない。

演奏がうまい、歌がうまい、それだけでも足りない。

〇〇たちの音には、聴く人間を前に引っ張る力があった。

こちらの感情や呼吸を、半ば強引にでも“曲の中”へ連れていってしまう力。


気がつけば、白石の身体は自然に振りを追っていた。

頭で数えなくても、リズムが次の動きを教えてくれる。サビへの助走、Aメロの抜き、Bメロでの溜め、身体が勝手に理解してしまう。


こんなに踊りやすい『乃木坂の詩』は、初めてだった。


ステージの中央で、深川が一瞬だけ〇〇たちの方を見た。笑っていた。まるで子どもみたいに、心の底から楽しそうな顔だった。


そして、曲がCメロへ差しかかる。


本来なら感情の山場へ向けて空気を溜めるセクション。

白石もその流れを身体で覚えている。

次に来る瞬間を、何百回もリハしてきた。


だからこそ、その出来事に息を呑んだ。


センターポジションに立つ深川が、すっとマイクを掲げたのだ。


ほんの一瞬、スタッフたちの間にざわめきが走る。

リハーサルではメンバーは歌わず、動きだけを確認する――そのはずだった。けれど深川は迷わなかった。


そして次の瞬間、彼女の声が響く。


深川「wow wow wow wow!」


ぱっと会場の空気が弾けた。


明るくて、まっすぐで、どこまでも優しい声。

深川麻衣という人間そのものみたいな歌声だった。


無理に背伸びをしていないのに、しっかりと前へ飛ぶ。楽しさが、嬉しさが、そのまま声になっている。


あぁ、我慢できなかったんだ、と白石は思った。


歌いたかったのだ。
この音の中で。 この生きた演奏の真ん中で。 最後の『乃木坂の詩』を、ただ確認作業としてではなく、“今ここでしか鳴らせない一曲”として歌いたくなってしまったのだ。


深川の笑顔が、そのすべてを物語っていた。


それを見た瞬間、他のメンバーたちの空気も変わった。


「……っ」
「え、ちょっ、まいまいずるい」
「もう歌ってるじゃん!」


そんな小さな声があちこちから漏れる。

けれど文句ではない。
羨ましさと高揚が混ざった声だ。
次の瞬間には、誰からともなくマイクが上がる。

桜井も、松村も、生田も。飛鳥でさえ、少しだけ戸惑った顔をしながら、それでもしっかりとマイクを握り直していた。


気がつけば、歌い手は自然に〇〇たちから乃木坂46へとバトンタッチされていた。


奪い合うのではなく、受け渡されるように、本来の歌い手の元へ。


〇〇たちは歌を引き、演奏に徹しながら、乃木坂の声を支える側へ回る。

櫂のドラムがサビを押し上げ、慶太のベースが土台を深くする。

〇〇のギターがその上に光を撒く。


そこへ乗るメンバーたちの歌声。
音源では決して生まれない揺らぎや熱が、今この瞬間だけの『乃木坂の詩』を形作っていく。


白石は、胸を打たれていた。


うまく言葉にできない。


悔しさでも、安堵でも、感動でも、それだけじゃない。

さっきまで自分が守ろうとしていた“まいまいの最後”が、今まさに自分の目の前で、想像よりずっと美しい形に変わろうとしている。

そのことが、たまらなく眩しかった。


深川が笑っている。

奈々未が笑っている。

飛鳥が必死に食らいつくように歌っている。

ステージの上で、みんなが同じ音に背中を押されて、いつも以上に自由に、楽しそうに、乃木坂46でいようとしている。


そして、その中心には、たしかに〇〇たちの音がある。


白石は隣に立つ奈々未とふと目が合った。


奈々未は歌いながら、でも少しだけ目だけで笑っていた。

その視線が、言葉よりもはっきりと語りかけてくる。

――ほら、歌おうよ。



白石は思わず、ふっと息をこぼした。

自分でも無意識に笑みが溢れた。


さっきまであんなに意地を張っていたのに、今はそれが少しだけ可笑しい。

認めたくない、でも認めるしかない。

この音は本物だ。
目の前の三人は、少なくとも“まいまいの最後を壊す存在”なんかじゃない。


むしろ、その最後を誰より真剣に繋ごうとしている。


だったら、自分がやることは一つだ。


白石はマイクを掲げた。


白石「自分を信じて 前へ進むんだーー!」


自分の声が、演奏に乗る。


その瞬間、胸の奥に溜まっていたわだかまりが、すっと溶けていくのが分かった。

歌うたびに、踊るたびに、音が身体の中を洗い流していく。


気づけば白石は、いつも以上に大きく、まっすぐ前を向いていた。


メンバーたちが思い思いに踊り歌う。

そしてステージの端で、〇〇が一瞬だけこちらを見て、安堵したように、でもどこか照れくさそうに微笑んだ。


その表情に、白石の胸はまた小さく鳴った。


けれど今は、その意味を考える暇はない。


音が走る。 歌が重なる。 想いが一つになっていく。


空っぽだったはずの会場が、もうすでに本番みたいな熱を帯びていた。

まだ客席はカラのまま。


なのに、この瞬間にしかない奇跡が確かにここにあると、全員が知っていた。


乃木坂46と、〇〇たちとの物語の始まりを告げるきっかけが、鳴り始めていた。






つづく
※この物語はフィクションです。
※実在する人物などとは一切関係ございません。

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