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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

問いの先に見つめる未来――映画『急に具合が悪くなる』

2026年6月19日。
映画『急に具合が悪くなる』の劇場公開日です。

伊藤亜紗さんと濱口竜介監督のトークイベント『体と居場所と物語』をご紹介して以来、公開を心待ちにしていました。
伊藤亜紗さんと濱口監督のトークイベントについては、こちらからお読みいただけます。

トークイベントでお話されていた内容も思い返しながら、映画『急に具合が悪くなる』の感想をまとめたいと思います。

【一切情報に触れずに映画を観たい方は、ご鑑賞後にお読みください】

介護施設の施設長であるマリー=ルー
がんを抱える演出家である森崎真理
同じ響きの名前を持つ二人の、ふとした偶然の出会いから始まる物語です。


投げかけられる、体に関する問い

まず思ったのは、「体に関して、多くの問いを投げかける映画だな」ということ。真理が演出する劇中劇でも、観客に向かって、鋭い問いが投げかけられます。そしてそれはそのまま、映画を観ながら、あるいは観た後に、私たち一人一人が考え続ける問題でもある。そんな風に感じます。

マリー=ルーと森崎真理も、その問いを引き受け、考えることをやめません。話し合いながらお互いの認識を共有し、問題を見つめ直してゆく。出会ってからわずかな時間のうちに、こうしたやり取りを交わすなかで、二人の関係性は急速に深まってゆくのです。

私自身は、ずっと「体って何のためにあるんだっけ?」と考え続けているような感覚がありました。自分自身のなかに問いが生まれる感覚を、どうか皆さんも体験してください。

体で感じる、いまここにあるものの美しさ

私自身が「体って何のためにあるんだっけ?」と考えることになったのは、マリー=ルーと森崎真理の間に流れる時間や空気が、とても優しく美しかったからです。

話しているうちに訪れた、二人を包むような夜。
向き合って、立つ。お互いに触れて、目を合わせて笑う瞬間。
朝靄に包まれた静寂のなかで、向き合う時間。
木漏れ日のなかで、深く吸い込む空気。

二人がその瞬間に感じている、体を包む空気やぬくもり、出会えたことの不思議さや喜びを、私自身も体で感じられている。
思わずそう思ってしまうくらい、感覚が伝わってくる映画になっています。体で感じることの根源的な喜びを思い出させてくれるかもしれません。

同じ未来を見つめて、ともに歩く

今、目の前にいるあなたと、感じ考えることを大切にしよう、という姿勢は、がんを抱える真理の状態が変化し、急に具合が悪くなっても変わりません。むしろ深まっていると言ってもいいでしょう。

真理の状態が変化するなかで、二人の問いは、「生を生ききること」に向かってゆきます。どうしたら「生を生ききる」ことができるのか、二人の試行錯誤は続きます。

そう、この映画は、マリー=ルーと森崎真理が、生を生きること、その先にある未来を見つめながら、ともに歩む物語です。
二人で同じ方向を向き、足取りを感じ合いながら歩いた先に、どんな未来が待っているのか。ぜひご自身で確かめてください。

原作にも映画にも刻まれた「星の時間」

少し前の2026年5月27日。
映画『急に具合が悪くなる』のジャパンプレミアに、原作者のお一人である磯野真穂さんも登壇され、お手紙を読み上げられました。
マリー=ルーを演じたヴィルジニー・エフィラさん、森崎真理を演じた岡本多緒さんに、心を尽くした祝福の言葉を贈られています。

ドイツの児童作家、ミヒャエル・エンデが書いた童話『モモ』の中に登場する、「時間の守人」マイスター・ホラは、「宇宙にはまったく一回きりしか起こりえないようなやり方で、たがいに働き合うような瞬間」があり、それは、「「星の時間」と呼ばれるものなのだ」とモモに語ります。その瞬間には、あとにもさきにも起こり得ないようなことが起こるけれど、大抵の人はそれに気づかず、「星の時間」は過ぎ去ってしまうのだと。

宮野さんと私の間に流れていたのは紛れもない「星の時間」でした。そしてその「星の時間」は、エフィラさんと岡本さんの間にも流れていたのではないかと思うのです。

映画『急に具合が悪くなる』ジャパンプレミア 磯野真穂さんのスピーチより

この舞台挨拶とスピーチの様子は動画でも公開されていますので、ぜひ皆さんもご自身で受け止めてみてください。動画の16:40頃から磯野さんも登壇されます。


映画に刻まれた「星の時間」のすべての始まりは2018年9月。
宮野真生子
磯野真穂

名字も名前も一文字ずつ同じ、哲学者と人類学者のお二人が出会ったことでした。そこからお二人はどんな言葉を交わし、どんな風に「星の時間」を生きたのでしょうか。

次回、映画を踏まえて原作『急に具合が悪くなる』をもう一度読み解いていきたいと思います。

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