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まなざしから生まれる贈り物ーー伊藤亜紗×濱口竜介トークイベント「体と居場所と物語」

難波優輝さんと伊藤亜紗さんのトークイベントに伺ったことをきっかけに、お二人の書籍から日常・身体・感じることなどについて考えをまとめているこのシリーズ。

よろしければ、トークイベントの記事、難波優輝さんの『批判的日常美学について』の記事、伊藤亜紗さんの『体の居場所をつくる』の記事もそれぞれお読みください。

前回の記事の最後で触れたとおり、伊藤亜紗さんの『体の居場所をつくる』に帯コメントを寄せられたのが濱口竜介監督です。

「11人の永い回復。それぞれが生きづらいはずなのに、奇妙な快活さと楽天性が本書を貫いている。一人ひとりの「工夫」、それに対する著者のリスペクトが織り合わされ、私たちは生を見つめ直す視点をもらう。あえて言いたい、なんと面白いのか!」

濱口竜介さん(映画監督)

今回は、そんな伊藤亜紗さんと濱口竜介監督とのトークイベント「体と居場所と物語」をご紹介しつつ、感じたことをまとめたいと思います。

目の前の人と、どう向き合うか

『体の居場所をつくる』について、「すごく面白くて、なんて文章がうまいんだ、と思いながら、するする読めた」と語った濱口監督。単にわかりやすい、という以上に、伊藤さんが目の前の方と向き合うときの「抜き差しならなさ」や、体との関係修復を「永い回復」として捉える姿勢が軸にあると考え、帯コメントが生まれたそうです。

濱口監督自身、東日本大震災で被災された方々へインタビューを行い、ドキュメンタリー映画を作られていて、「いったい自分がどこまで、何を言っていいのか、境界にものすごく悩む」経験をされているとのこと。伊藤さんはどうやって目の前の方との関係性を作っているのか?濱口監督がその秘密に迫ってゆきます。

ともに観察することから生まれる「回復」

自分の体の状態からは遠い相手を、どう理解できるか必死になっている、という伊藤さん。インタビューのなかでは、「ご自身の体を、距離を取って眺めたら、どう見えますか?」と観察に誘いながら、少し意識的に「面白い」という言葉を使っているのだそうです。

一人で訳もわからず、体に乗っ取られているような状態では、焦りや怖さばかりが募ります。でも距離を取って誰かと体を眺めてみることで、今まで見えていなかった体のあり方に気付いたり、ふっと緊張がゆるんで「本当にしょうがないね」「面白いね」と言える。これは、難波優輝さんと伊藤亜紗さんのトークイベントで触れた「障害の美学モデル」や「Surrender」の実践そのものだな、と感じます。

『体の居場所をつくる』でも回復について、こんな風に語られていました。

回復は、こうだと思った自己像の外側で、「そうあってもいい」と思える意外な自分と遭遇することによって成立します。

『体の居場所をつくる』第三章 日常にひそむスイッチ

それまでとらわれていた状態から外れる瞬間に立ち会いたい、という伊藤さんに濱口監督が伝えた「良き偶然になりたいっていう感じがする」という一言がすべてを表しているのではないでしょうか。

工夫と試行錯誤と贈り物

そうしたインタビューで、皆さんが少し笑いながら話してくれるのが、体との関係性を築くための工夫だそうです。明日の予定のためにどんな食事を取るか、どんなことを避けるかなど、本当に多岐にわたる工夫があります。
他の人にはあまり見せないような、それぞれの試行錯誤を受け止めながら、伊藤さん自身も世界の見え方が変わるような体験をしているとのこと。

そうしたものを伊藤さんの視点でまとめたとき、相手が望んでいるものを贈ることはできないし、失敗するかもしれないけれど、「あなたのことを受け止めた」と伝えたい気持ちがあって、贈り物としてお一人お一人に向けて文章を書かれているのだそうです。

映画のまなざしと体・そこから生まれる偶然

こうして伊藤亜紗さんのインタビューについてのお話を聞いていると、映画作りと共通する点が多々あるように思います。
他者のまなざしを通じた芸術であること、関係性を築く準備と試行錯誤、作品が贈り物として私たちに届く瞬間。

濱口監督も、「形式的に次に誰が何を言うか決まっていて、安心して感情に集中できる環境を整えるなかで、お互いの相互作用が生まれて、『撮れちゃいましたね』としか言いようのないような、偶然の強度がもたらされる。そのための環境を整える準備が必要」とおっしゃっていました。

そうした準備を経て研ぎ澄まされた感情が、俳優たちの体を通じて私たちにも届くからこそ、感情が揺さぶられるのでしょう。
体や声から伝わる生命力のようなものを、スクリーンに映し出すことを目指されているんだな、と感じました。

新作映画の原作に、宮野真生子さん・磯野真穂さんの『急に具合が悪くなる』を選んだ理由も「感動したから」だそうです。「生きることについての話で、命の力をふつふつと感じたから」と。

体と自分のあり方・相手と関係性を築くための試行錯誤・偶然といった今回のトークイベントの内容も、原作のテーマそのものでもありました。

濱口監督のまなざしと、キャスト・スタッフの相互作用で生み出された贈り物がどんな風に私たちに届くのか、楽しみでなりません。
映画が公開されたら感想を書きたいと思います。


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