聴くことで生まれる宝物ーー瀬尾夏美・伊藤亜紗「聴いちゃった体」ワークショップ
前回の記事で、磯野真穂さんの「聞く力を伸ばす」講座の思い出を振り返っていた頃、こんなイベントの情報を見つけました。
東日本大震災以降、その土地に住む方々のお話を聞きながら、震災や戦争体験などの「災禍の記録」を絵や文章を通じて伝える活動をされている瀬尾夏美さんと、インタビューを通じて、人と身体の様々な関係性について研究されている伊藤亜紗さん。
これまで世界思想社のWebマガジンで「聴く」ことについて往復書簡を交わしてきたお二人と一緒に、「聴くこと」「表現すること」を体験できるワークショップとトークイベントが開かれるというのです。(お二人のこれまでの往復書簡はこちらから読めます)
「参加者同士で話を聴き合って、その内容を絵にする」というワークショップの内容を見て「絵…描けるかな?」と不安もありましたが、「聞くこと」について振り返っているこのタイミングでイベントが開かれるのも「良き偶然」かもしれないと思い、参加することにしました。
13:30から19:00まで、長い時間を掛けて行われたこのイベント。
まずワークショップの模様からお伝えします。
インタビューと語り直し:聴いたことを受け止める
前半は、参加者同士でペアになってインタビューをし合い、ペアの方から聴いたお話を「相手の1人称の視点で語り直す」ワークでした。
インタビューのテーマは「あなたにとって大切な場所」
同じ月に生まれた、お誕生日が近い人同士でペアになります。
このワークショップに興味があって参加している、ということと、お誕生日が近いこと。それだけがペアになった方との共通点のはずで、始まる直前は少し緊張しましたが、「安心できる場所」「居心地のいい場所」をキーワードに、大切な体験・そこからの変化を共有していただけて、とても温かい気持ちになりました。
そんなお相手の方の雰囲気にも助けられながら、私自身も自分自身の価値観や考え方の軸を形作ってくれた特別支援学校についてのお話をすることができました。お話を聴いていただいたのはすごく短い時間でしたが、価値観や物事の捉え方にまで話が広がっていったこと、穏やかに受け止めてくださったことが、とても嬉しかったです。
そこから、聴いたお話を「相手の1人称視点」で文章にしていきます。
聴いたお話や言葉、その時の雰囲気などをもう一度自分のなかに取り込んで深く向き合うような、とても大切な時間でした。
語りの共有:一人一人の人生のかけらをみんなで見つめる
そうしてできあがった文章を、全員で輪になって朗読します。
「大切な場所」というテーマから、その方の暮らしや風景が見えてくるだけではなくて、人生の転機となった出来事や、大切な価値観、人柄が見えてくるお話ばかりで、お一人お一人の人生のかけらを見つめている感覚になりました。みんなで記憶の一部を共有する、瀬尾夏美さんが普段されているのはこういうことなのかな、と少しだけ体験できたような気がします。
絵を描く:受け取ったものを自分なりに表現する
ここまでのプロセスを経て、絵の制作がスタートしました。
ペアの方から受け取ったものを、絵という形で表現します。
最初に瀬尾夏美さんが実際に制作された絵を見せていただきました。
お話から受けた印象をドローイングという形で表現してもいいし、マンガみたいにエピソードを並べてもいいし…色々な可能性があることを知りました。
そこから後はとにかく、受け取ったものをどうしたら表現できるのかな?ということばかり考えていた気がします。とはいえ、大人になってから絵を描くのは初めてで「こんな風にしたいけれど、どうしたら表現できますか?」と尋ねる私に、丁寧にアドバイスをくださった瀬尾夏美さん、瀬尾夏美さんと一緒に活動されているNOOKスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。
絵の共有:キラキラ輝く発見の連続
夢中で色を重ねたりしているとあっという間に時間が過ぎ、絵を発表し合う時間になりました。
参加者が描いた絵をすべて机に並べて、それぞれ作品のテーマを共有します。それぞれの皆さんの制作過程は見ていないのですが、ペアになった方同士で構図や雰囲気が似ている作品が多く、全員でエピソードを振り返って「似てるね」とコメントし合ったり…キラキラ輝く発見をし合っているような素敵な時間が続きました。
そして私も、お互いの絵をまったく見ていなかったのに、ペアの方と絵がシンクロするという不思議な体験をします。

様々な子どもたちがいる日だまりの教室のなかで、自分の軸となる価値観を育んでいくイメージを、とても温かく表現してくださいました。

たゆたっているようななかでも、温かい気持ちに触れることで自分の輪郭がはっきりしてゆく、
自分の内側が輝いてゆく。そんなイメージを描きました。
そう、お互いにメインカラーが黄色だったのです。
並べてみてびっくりし、ほんの少し共鳴したような気がしてとても幸せな気持ちになりました。
受け止めてくれることのありがたさ
ワークショップを通じて感じたのは、受け止めてくれる方がいることのありがたさと温かさです。
瀬尾夏美さんが伊藤亜紗さんとの往復書簡のなかで、聴くことについてこんな風に語られているのですが、この感覚をとても実感できた気がします。
他者の話を聞くことは自分の時間を明け渡すことですが、それは同時に、相手に自分の存在を認めてもらうことでもあります。うんうんと相槌を打ちながらじっくり話を聞いていると、相手が抱える複雑さや矛盾をも受け止めてみたくなるし、それは翻って、自分自身の複雑さと矛盾を許容することにもなる。
聴いちゃった体 宝探しの時間(12通目/瀬尾夏美)
受け止めてもらえたことで、あの教室で過ごした時間の温かさや、自分自身の価値観を振り返る時間にもなりました。
大切なお話を共有してくださった参加者の皆さん、そして何より私の話を受け止めてくださったペアの方へ、感謝の気持ちでいっぱいです。
宝物のような時間をありがとうございました。
またいつかお会いできますように。
この余韻に浸ったまま、次回は瀬尾夏美さんと伊藤亜紗さんのトークイベントについて記事にしたいと思います。どうぞお楽しみに。
