1.2 「生活編」スペインのサラマンカで学んだ「スペイン流の遊び方」──【イベリコ豚の国で迷子になって】
自分が日本人であると気づいた頃には、もう手遅れだった。大学2年生になったら1年間は海外に留学しなくてはいけない。正直、まったく行きたくなかった。
なぜか当時、私はフラメンコサークルに入っていた。何かの映画でフラメンコを見て、影響されたのだ。それが具体的な理由だったのかどうかは覚えていないけれど、スペインに行くかイギリスに行くか迷った。先輩にそれを相談したところ、こう言われた。
「イギリスなんてご飯もまずいし、天気も悪いし、ずっと勉強してなきゃいけないし、やめたほうがいい。スペインなら天気も良いし、ビーチもあるし、安いし、勉強も楽だ」
提携大学としては、当時グラナダ大学とバルセロナ大学もあったと記憶している。彼がいう「勉強も楽」というのは、スペイン語初級者の場合には選択肢はなく、サラマンカ大学のインターナショナルコース、つまりスペイン語を勉強するだけの語学学校にいれられるからだ。
彼のこの一言で、浅はかな私は何も考えずサラマンカへ行くことにした。たくさん遊べて、天気も良くて、ビーチもあるなら最高じゃないか、と。
少しでも調べればわかることだが、内陸部に位置するサラマンカにビーチなんてあるわけもなく、冬は異常に寒くて天気も悪い。けれど、いやいや留学したので何も知らずにその大学都市に到着し、愕然とすることになる。
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今になって行けばサラマンカは美しい大学街だけれど、留学当時はまだ20歳。東京で人生初めての都会ライフを満喫していた私にとって、旧市街が世界遺産に登録されている伝統ある大学街に暮らすことは、非常に息苦しいものだった(もちろんビーチもないし)。
日本の偽“生ハム”しか食べたことがなかった私は、動物臭のすごいハモンベジョータ(とても高い)がまったく好きになれなかったし、道をすれ違う人たちみんなが似通った格好をしてることにも慣れなかった(みんな、旧市街のショッピング通りにある「インディテックス」系列の店か「H &M」で買い物していたのだ。選択肢が少ないので必然的に道ゆく人と洋服がかぶる。そこはもう、アマンシオ・オルテガ帝国だった)。
それに当時は、スペインでの夜の遊び方も好きになれなかった。日本で大学生が「飲みに行く」といえば、18〜19時くらいから居酒屋で飲み食いしながら話をし、さらに飲みたい場合はもう一軒居酒屋へ移動して、同じように飲み食いしながら永遠に話し続ける、というのが一般的だと思う。もしくは、カラオケに移動することもあるかもしれない。日本では「飲みに行く」といえば「食べる」と「飲む」がセットなのに対し、スペインでは必ずしもその2つがセットではない。
スペインでは昼食の時間が14時とそもそも遅いので、必然的に夕食の時間も21時と遅くなる。だから夜に約束をすると早くても21時前後だし、ただ「飲む」だけなら22〜23時に待ち合わせすることになる。
「レストラン」はあっても、学生が気軽に入れる「居酒屋」なんてものはないので、音楽がガンガンかかったバーとクラブの中間みたいな存在の店に行き、まだ元気があればクラブに繰り出して踊る。もしくは「宅飲み」して充分にアルコールを摂取してから、街へ繰り出す。
もちろん東京にだってクラブはあるし、行く人は行っていたのだろうけど、スペインのように誰でも彼でも行くわけではないのは確かだと思う。
こんなカオス状態だから、飲みに出かけた夜には気がつくと知らない人が混ざっていたりする。友達が友達を呼んできたり、狭い街なので知り合いに遭遇したりして、最初は5人だったのが最終的には10人以上に膨れ上がっていたりすることも珍しくなかった。
今思えば、そんなにも簡単にいろいろな人と知り合えるチャンスがあったなんてありがたい話だ。でも、当時はそれもまた、嫌だった。
バルセロナにいるとはいえ、さすがに30代になった最近では、こうした激しい状況に見舞われることはほとんどない。けれど、それでもたまに友達と飲んでいて、気がつくと知らない人が3人も4人もいた、ということはある。
一番謎だったのは、マジョルカ島に友達を訪ねて遊びに行ったとき、7年ぶりに会うという彼の小学校の同級生たちとの飲みの場に連れて行かれたことだ(さらに、その場に別のグループ女の子2人がやってきた)。小学校の友達とのプチ同窓会に、いくら仲が良かったとしてもいきなりスペイン人を連れて行くなんて、私には想像できない。
いずれにしても、彼らの約束スタイルはゆるい。たまにスペイン人から「日本人は何週間も前に予定を取り付けないと、会えないんでしょ?」と驚きをもって訊かれることがある。たしかに、久しぶりに連絡してみたら、その友達に会えたのは3週間後だったということは東京ではよく起こる。
逆にここで、友達とただランチをするためだけに3週間後に約束しているなんて信じられない。というか、そんな約束をしても無駄な気がする。その3週間のあいだにもっと楽しいイベントが起きるかもしれないし、3週間後のその日は二日酔いで倒れているかもしれない。
だから特別なイベント事でない限り、私も1週間以上前に何か予定を埋めようとしないことを学んだ。暇で飲みに行きたいなら前日か当日、絶対にその日ランチをしたいのであれば、1週間前かその週の始めといったところだろう。(つづく)
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