2.2 「恋愛編」ラテン流と日本流、こんなにも違う「愛のカタチ」──【イベリコ豚の国で迷子になって】
日本では一度も観たことがなかったリアリティ番組『テラスハウス』に、バルセロナで見事にはまった(見ていない人のために説明すると、1軒の豪華な家に見ず知らずの男女5人が共同生活して、そこで恋愛ドラマが展開されるというもの。家には監視カメラが設置してある)。
友達から「時間の無駄」と言われても、「やらせだ」となじられても、時間の無駄だと思いつつ、5シーズンもあるのに数年にわたってすべてを見切ってしまった。あまりにもハマりすぎて、計4人のスペイン人の友達に観させた。彼ら全員に共通する反応が「なんでこんなに何も起こらないんだ」「一体キスするまでに何週間かかるんだ」というものだった。
一緒に観たときなど、こちらがストーリー展開についていけないほどブーイングと突っ込みの嵐。一時停止しては「え、なんでこの男は(女の子の気持ちがわかってるのに)何も言わないの?」「何でこの女の子は嫉妬してるの?」「何で手を繋がないの?」「何でちょっと触れただけで恥ずかしがってるの?」「日本の女の子、怖い」などなど。
「引き伸ばしてるんだよ、あらすじが決まってるんだよ(きっと)」と説明しても、この展開の遅さが彼らにはカルチャーショックのよう。
けれど、それもそのはず。「アヤカはくだらないテレビ番組が好きだから、きっとハマるよ」(すごく失礼)とお勧めされ、まんまとハマった『La isla de las tentaciones(誘惑の島)』というリアリティー番組を観て、彼らが『テラスハウス』に悶々としていた気持ちを理解した。
というのも、もう展開が『テラスハウス』の500倍早いどころか、カオスきわまりない。『La isla de las tentaciones(誘惑の島)』では、5組のカップルがカリブ海に浮かぶ島やってくる。そこには男子用ビラと女子用ビラがあり、カップルは引き離される。そこに「誘惑者」なる大量の男性が女性ビラへ、女性「誘惑者」は男性ビラへと送りこまれる。そこで互いのパートナーが、誘惑にほだされないかというのを試す、なんだかよくわからない番組だ。
このなかでは、彼氏と離れるのが辛い、不安だ、と泣いていた彼女が、その直後に誘惑者の男性とキスしはじめたり、ある男性は一晩に2人の女性といちゃつき出したり。そして回が進むにつれて内容も過激に。挙句の果てには、シーツの下で動く姿まで映し出される始末。しかも、何回も。さらに、このビラで暮らしてから数週間しか経っていないはずなのに、一人の女性は新しい恋人もどきの誘惑者に対して「愛してる」の爆弾発言まで飛び出す。
この番組にシナリオがあったとしても、日本流アプローチとはまったく違うことがよくわかる良い例だと思う。
日本人が様子を伺いながら、はっきりとは口には出さず「ご飯に行かない?」を何百万回も繰り返している一方で、ラテンの血が流れている彼らは、好意を抱いている人を目の前にしたら何も抑えられない。というか、抑える意味もないと思っているのだろう。
だから、スキンシップが少なかったり、言葉で愛情表現をする習慣があまりない日本人が「冷たい」と思われても不思議ではない。自分のパートナーを名前以外で呼ぶときに、スペイン語では「mi amor(私の愛しい人)」「 mi vida(私の人生)」「 preciosa(美しい人)」「 cariño(ダーリン)」「 princesa (お姫さま)」「reina(女王さま)」とバリエーション豊富なのに対し、日本語では「あなた(使う人いる?)」とか「お前(響きがよくない)」くらいしかない。名前や愛称で呼ばれるならいいほうだろう。
マレナいわく、日本に住むアルゼンチン人の知り合い何人かに日本人の彼女がいたけれど、カルチャーの違いからみんな別れてしまったという。
2つの環境はあまりにも違いすぎて、どちらかのカルチャーに片一方が馴染んでいなければ恋愛関係を長続きさせるのは、難しいのかもしれない。
***
ハビエルが東京で向かった先は、歌舞伎町だった。
彼はそこで、ホストクラブで働くセイゴ・ユヅキに出会う。当時、東京に住んでいた友人からホストの話を聞き、20歳を迎えたときに「試したい」と思って鹿児島から上京してきたのだという。
「学校では人気者だったんだ。金を稼ぐか、有名になりたいと思っていたから自分の美貌を生かすことにしたんだ」
彼は、タレントを目指そうとしたが失敗し、居酒屋でバイトをすることに。けれど敗北感に苛まれてホストの道を歩みはじめた。
ホストの平均月収は100万円だが、ユヅキはそれに20〜30万円プラスの収入があるという。彼は、ハビエルに「客とホストは一種の理想的なロマンスの世界」を生きているのだとハビエルに説明している。
「ホストは、女性を楽しませて自分に恋をさせるような人間にならなきゃいけない。そうすることで、その女性はお金を使い続けてくれるんだ」
さらに、彼女たちはセックスを求めているわけではなく「一日中考えていられるような手の届かない人に恋することを望んでいるだけ。ファンとアイドルみたいな関係だけど、もっと親密なんだ」と、断言する。
実際、彼に東京ディズニーランドに一緒に行ってほしいと頼んだ女性客がいたとも明かす。そのときは、自分はあなたの彼氏ではないから「僕の時間を買うということは料金が発生する」と説明したそうだ。
テレビ番組でホストに貢ぐ女性たち、みたいなものを見たことはあったのでこうした世界があることは知っていたけれど、日本の外から見たらたしかにこのカルチャーは異様だ。ハビエルは、こうした種類の娯楽が男性だけでなく女性向けのものもあることが興味深いと言う。
たしかに、男性向けのほうがバリエーションは豊富だ。バーカウンターを挟んで女の子とただ話すだけの「ガールズバー」から隣に女性が座っておしゃべりできる「ラウンジ」「キャバクラ」、さらに「おっパブ」「ヘルスクラブ」に「ソープランド」まである。
一方、西欧ではセックスを目的とした場所はあっても、若い女の子やアイドルみたいな男の子と話すためだけの場所はない。そして、ハビエルはこうした店に行くことを 「結婚生活からの小さな逃避」と表現した。
まだ結婚していない身としては、自分の旦那が趣味や友達との時間に「息抜き」を見出すのではなく、お金を払って若い女の子と話して喜んでいたらすごく嫌だ。25歳くらいで結婚したある友人は、奥さんが子供を産んだあとにソープランドに行っていたと話したことがある。私自身は、以前働いていた会社の上司にSMバーに連れて行かれたり、外国人の女性だけがいるキャバクラみたいなところに連れていかれたこともある(今考えればかなりのセクハラだ)。
未婚の女性の立場からすると、こうした場所の何が楽しいのから一ミリも理解できなかったし、彼らは決してパートナーとうまくいっていないとか、離婚したいとか思っているわけではなかった。友人が口を揃えて言うのは、「子供を産んでから妻が女から完全に母になってしまった」ということだ。彼らは現実から逃れ、孤独を埋めるため、ちょっとした“夢”を見にいくのだ。(つづく)
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