キリング・ミー・ソフトリー【小説】29_常習犯
若葉萌ゆ、新緑の季節。
とあるニュースで衝撃が走った。
自分と莉里さんが好きなバンドのメンバーが児童買春・児童ポルノ禁止法違反の容疑で逮捕されたのだ。
18歳未満と知りつつ少女に金銭を渡し、みだらな行為に及び、本人は「覚えがない」と否認している。
インターネット上では吐き気をもよおすくらい活発な論争が繰り広げられた。
『やってないって信じてる』『普通にガキが悪い』『体売るの引く』『バンドマンと繋がりたかった?』『援交』『お金払っても若い子が良かったんでしょ』『バレちゃったけどちゃんと好きだったかもよ』『これぞパンクス』『あいつはガチの変態』『さすが、よくやった!』『ますますファンになったわ』
お花畑のファンタジーかよ、と思わず呟いてしまう。犯罪だろうが。
この手の話題では必ずと言っていい程、音楽と人間性は別物だという話に行き着く。
されど、よりにもよって、彼がドラムを担当していたのは報われなかった惨めな青春時代を歌うようなパンクバンドだった。
それがまさか実際に制服姿の女の子へ手をつけたとなると非常にまずい、状況が変わる。
あれは過去を振り返るフィクションの世界だから素晴らしいのであって、現実はこう。
経験に基づく作詞はギタリスト任せで参加していなかったとはいえ彼がいなければ楽曲そのものを生み出せず、グループには欠かせない存在、どうしたって切り離すのは難しい。
『私もうあのバンド聴けないや』
耐えかね、SNSから目を逸らすと沈黙を貫いていた莉里さんがメッセージアプリでぽつぽつ伝えてきた。
他のメンバーに罪はないと分かっているが、音源には絶対的に彼が刻むリズムが混じるので鳥肌が立ち、生憎受け入れられそうもない、といった心境を彼女は語る。
バンドマンのスキャンダルは日常茶飯事、まだ笑って流せる範疇。ところがこんな事件を起こすとなれば、少なからず不快感を抱き拒否反応が出るのも頷けた。
今回、お縄にかかった彼はテクニックは勿論のこと優しい性格に一定の評価を得ており、精力的なライブ活動の合間にボランティアを行ない、子供達にドラムを教え、雑誌の連載もする。
そこでターゲットを見つけたのではないか。
疑心暗鬼、今は全てが薄っぺらく感じた。
