キリング・ミー・ソフトリー【小説】14_突撃パンク
少し遡る。学生便覧と睨めっこしながら履修登録をした際、6時限目が20時までと知って絶望を味わったものの、教職課程を選択さえしなければ問題なく肩の荷が下りた。
流石に知成と時間割を全て被せるのは不可能であり、和やかな静けさを楽しめる。
春休みに行なった引越しのアルバイトは前期授業に併せ当然諦めざるを得なかった。
毎回決まった時間に始まって終わったりはせず、当然の如く経済・経営関連の必修科目がついて回ることに微妙なストレスが生じる。唆られない分野を選んだ過ちをまさかスポンサーの親に漏らせる筈もなし、一人で抱えていた。
周りの知り合いにはちっとも会わない、それこそ学部とは方向性が違ういくつかが自分にとって救いとなる。そこで新たな友人を見つけた。
講義室の端に座り音楽雑誌を広げ、イヤホンを付け外部をシャットアウトし、長めのマッシュヘア、バンドのグッズと思しきパーカーを着るかなり主張が強めな男。
あからさまに〈俺と似た趣味〉だと分かり、どうにか接触すべく声をかけた。
「横、いいですか。」
怪訝な顔でイヤホンを外して机に置き、睨まれる。幅の広い眠そうな二重の下にうっすら、くまが出来ており影を帯び、気怠げ。
「あの、座っても?」
重ねて言い直す。
もしや先輩の恐れがある、慎重にいかなくては。
他も空いてるけど、と辺りを見渡し
「別に。」
投げやりに呟かれた。
鬱陶しがられても話したい。
「服、○○のグッズですよね。俺も音楽、ってかバンド?好きでライブ行ってて。」
「え、ホント?ギタボのスガくん、めちゃくちゃイケメンだよね。これ去年のツアーで買ったヤツ。まだあんま売れてないのにこんな場所にもファンいたんだ?」
暗かった瞳が爛々と輝き早口で捲し立てる。今し方、同一人物とは信じ難いテンションの差に驚く。
「敬語いらない。俺も1年だよ、広瀬千暁くん。」
瞬時に知成と真司に挟まれる日常が浮かぶ。彼らは予想通り人気者で、サッカー部所属の真司に反し知成は複数のサークルを掛け持ち、お祭り騒ぎ。
「あいつらといれば嫌でも、ね。」
「いや、動画。上げてるでしょ。」
冷や汗が流れた。
高校時代に暇を持て余し、父に勧められ動画投稿サイトへ様々な曲を〈弾いてみた〉とギターでカバーしていたのだが、そもそも顔出しNGで特定される痕跡もなく登録者数1万人未満の小さなチャンネル。
友人にも明かさなければユーザーネームでさえ本名に擦りもしない極秘情報に狼狽えると彼はスマートフォンの画面を見せ、微笑んだ。
「うわあ、どうしよ、なんで?えーっと、君は、」
「……淳(じゅん)。」
「淳くん。悪いけど、この話黙ってて。」
実は卒業記念に初めて弾き語り投稿をした。
莉里さんと観たバンドのラストソングを生まれつきの掠れた声で哀愁たっぷり歌った挙句、無断転載・拡散を機にめでたく再生数が数万回を超え、二度とやるまいと誓う。
こちらが慌てパニックに陥るのをよそに、淳は欠伸をする。
「はあ、カマかけてもあっさり認めちゃう。嘘つけないタイプ。」
「えっ。」
更に衝撃を受けた。
しらばっくれるべきだったか。
「まあ、友達ゼロだから安心しなよ。俺もベースで〈弾いてみた〉やってて、たまたま伸びてるっぽいの見たらガチで上手くてびっくり。てか声、まんまなんだね。何度か喋ってんの聞いてまさかって思ったけど、これで証明完了。」
「すげえ。」
「あとその指ね、動画全部見た。」
「あ、ありがと……。」
淳は人間性が難解でいまいち考えが読めなくとも、秘密の共有によって距離を縮め、バンドを組まないかと誘われる。
