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落ち合う、急行、4号車ドア付近にて



 公共交通機関を利用していると、始終スマートフォンに目を落とす奇妙な人々に出会う。
 一昔前は新聞を広げる男性もいた筈だが、近頃はめっきり見かけなくなった。



 奇妙と記した理由として、皆一様に分割払いの薄っぺらい高性能な電子機械に夢中であり、不思議と笑みを浮かべている者が少なくない点が挙げられる。
 都心に向かう退屈な急行列車内の何が面白いのか。
 はそういった時、彼らの視線が下にあるのをいいことに、つい人間観察を始めてしまう。



 たとえば、座席がちらほら空いているにも拘らず、進行方向・左側の扉付近に立った20代後半くらいの女性。
 黒縁の眼鏡をかけ、ショートヘアが似合って、レザージャケットにスキニージーンズのコーディネートがロックな雰囲気を漂わせ、ベッコウ風のチャンキーヒールが体を支える。



 先程からシンプルなブランドロゴが光る、ナイロンのボディバッグを幾度も肩に掛け直しており、今夜はライブにでも行くのだろうか。
 私が考えを巡らせるうちに、急行は停車し、左側の扉が開くと
たからちゃーん。久しぶりぃ」
彼女の連れらしき、かなり若く見える女性が乗車してきた。



 〈サラツヤ〉という言葉がぴったりなロングのピンクブラウンヘア、同じくピンクのビジューやらファーやらが賑やかでこの気温にしては暑そうな素材のコート、フレアのミニスカートにフリルが付いた靴下、もちろん厚底の大きいリボンが目立つローファーを履き、ハート型のショルダーバッグをぶら下げ、落ち着いた印象の「たからちゃん」とは正反対だった。



ましろ。今日は遅刻しなかったね、偉い偉い」
 たからが頭を撫でて、ましろは嬉しげにもたれ掛かる。私はカップルの待ち合わせを目撃した気分に陥り、そっと視線を外す。
「あのさぁ、一応もうちゃんと仕事してるんだけどぉ。それぐらいできまーす!」
 伸ばしがちな語尾が生暖かい車内を包み込み、そういえば春、と過ぎゆく窓外の景色を目で追った。桜の欠片を集めて。



 たからとましろはこの季節の挨拶に相応しい花粉症の話題からそのまま健康診断の話に移る。何しろ周囲が静かなため、ふたりの声だけが聞こえ、どうやら高校時代のクラスメイトとの情報を得た。
 すると、どこかの駅で右側の扉が開き、再びの
「久しぶり」
に私はうたた寝を遮られる。



 ミディアムヘア。程よい茶色の毛先を跳ねさせ、淡いグレーのスプリングコートにチェックのタイトめなスカートで、タイツとスニーカーの色を合わせた、いかにも元・文化部の香りが立ち込める、キャンバス地のトートバッグを両手で持つ、
「全然変わんない。安定のゆうり様」
が現れた。



 つまり個性豊かな彼女たちははじめから4号車で落ち合う予定で、私は間抜けな傍観者に過ぎない。と、午後1時半の温もりが思い出させてくれる。



「バリウム怖いなぁー」
「職場の……お姉さんに教えてもらった話……知りたい?」
「ゆうり様はいつも怪談風に語るよね」
 そんなタイミングで私の意識はまたも途切れ、終点に3人の姿はなかった。


★「こんな人たちいたらいいな」から生まれた物語です。