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初恋みたいな最後の恋をしませんか?_1邂逅


 親友は超がつくほどのお嬢様だと理解していても、よもや大学の卒業式で「自分の家を買ってもらったの。これからも一緒にいましょ」と言われるとは思うまい。
 まどかは住む世界が違い、語り合うことで金持ちや庶民の生活などを知って、互いに楽しんでいた訳だが、この日を機に平行線が交わる。


 晴れて22歳の女ふたりで高級住宅街の住民となり早速、一応は家庭科の授業を受けて、家事はやった試しがなく米すら炊けない、まどかに炊飯器を壊された。


「引越し祝いに咲良(さくら)のお父様が下さった、大切な物なのに。ごめんなさい」
 見目麗しい彼女のしょんぼりした顔が苛立ちを煽り、私は吐き捨てる。
「いいよ、もう。お腹空いちゃったんだよね、出がけに予約し忘れた私が悪いんだよ」


 あちらは実家から〈お手伝いさん〉を連れて来ようとしていたが、こちらはどうも他人が間に入るのが受け入れられなかった、働きながらでも家賃の代わりにできる……簡単な筈が。ままならないものだ。


 その上、まどかはとにかく物をよく無くす。年に少なくとも1回、どころか2回スマートフォンを変え、先日はクレジットカードをどこかに落として肝が冷えた。
 しかし、つらつらと彼女の嫌な点を並べても私は結局、世話の焼ける親友が好きで、「おかえり」の笑顔を見たくて、あの家に帰ってしまう。


 まどかは在学中に就職活動をせず、親のコネを使い、現在は都内の誰もが知る一流企業に勤めている。
 比べて、私は外資系コスメブランドのビューティーアドバイザー、とはいえ郊外のデパートに配属された。
 目下、徒歩と電車で約2時間かけて勤務先に通っており、一言で表すなら面倒だった。
 よって息抜きが必要な私は、まどかが休みを利用して実家に帰るタイミングで料理のおいしい飲み屋を探すようになる。


「オネーサン。グレーのカラコン、綺麗だね!」
 海鮮チヂミに箸を付けた瞬間、隣の席の向かいに座る赤髪で甲高い声の人に話し掛けられた。ひとり飲みが珍しいのか、こうして絡まれることも屡々。
 普段は軽くかわせるも、相手が店内でマフラーを巻いたり、前髪が短すぎて、眉毛も眉頭しかなかったりするような〈個性派〉だったので言葉に詰まる。


 性別においても迷ったけれど、大きな目でじっと見つめられて
「つけま? うーん、マスカラかな。やっぱ睫毛美容液買おっと。いい塩梅の束感に、太めのアイラインでクール系のメイク似合ってて羨ましい」
すんなり当てられ、咄嗟にすらすらと出てくる単語からして女性であった。


「ありがとうございます」
 職業柄、といってしまえばそれまでのやり取り、箸で挟まれた海鮮チヂミが気まずそうに私たちの間にいる。
 彼女は明るい調子で話し続け、
「ここのチヂミうまいよね、ウチらも頼もー!」
とタッチパネルに触れた。


 私の隣の席には、胸まで伸びた髪で彫りが深く、眠たげな幅の広い二重(ハーフっぽい)を持ち、サイケデリックな柄のセットアップを身に纏う、またもやハイセンスすぎる男性が居て──瞬間、雷に打たれたような衝撃が走り、彼の視線に捕らえられる。


 美しい茶色の瞳が、私の本能を揺さ振り、ふいと逸らされ、意気消沈。
 連れの者共々、関わりたくないタイプだと分かっていながら、酒を飲みに来たというより夕飯を食べに来たとばかりにやたらと新しい料理を注文する彼から目が離せなかった。


「おや? かわいいオネーサンが(そう)のこと、ずっと見てるよ。妬けちゃうな、流石にド素っぴんだと敵わん。普段のウチなら落とせるかも」
「はいはい。あちこちの女の子ナンパすんのやめなよ」
 途端に彼と彼女の関係性が気になり、思わず尋ねて妙な空気が流れた後、大笑いされる。


「心配しなくてもウチらは同じバンドのメンバーだよ。ウチ、即ちふわぴぴがボーカル、とベーシストが爽。もし良かったらSNSのアカウント教えよっか。ぜひライブも観て欲しい、特に来週の金曜はツアー最終日だもん」
「ああ、おふたりはバンドマンなんですね」
 奇抜さに納得して答えつつ、心の中で〈ふわぴぴ〉と繰り返す(丸い鼻をそばかすが縁取る、アニメキャラクターのような彼女にぴったりなニックネーム)。


 爽はふわぴぴの騒がしさには慣れたといった様子で次々と皿を空にしていく。悲しい哉、私には興味がなく、デザートの追加注文を検討し始めた。
 来週の金曜日はちょうど休み。ライブに行けば彼と仲良くなれるかも知れない。


 目論みはさておき、教わったつぶやきアプリでロックバンド〈ハイローファイ・コラージュ〉が抱えるフォロワー数にクラっとする。
 中でもふわぴぴはただの自撮りが何万回もいいねされるほどの人気ぶりで、あらゆる意味でぶっ飛んだ人達と繋がったことには間違いなかった。


「〈十六夜〉で待ってる、必ず関係者のとこで入って。また会えるの嬉しいな!」
 朧月が幻想的なほろ酔いの夜、奇跡みたいな出会い、あわよくばの約束、今更な自己紹介、すっかり溶けたカクテルの氷、別れ際に爽が
「咲良ちゃん。こいつがうるさくてごめん。気をつけて帰ってね」
名前を呼んでくれた、ちっぽけで大きな幸せ。


 まどかには言えない、秘密が生まれる。
 に、しても洋楽を好む私はまどかに誘われて、世界的アーティストの来日公演に足を運んだ経験のみ。ライブハウス・十六夜のキャパシティを調べてみて、電車内で危うく叫びかけた。
 どうか爽の目に留まりますように。バンドマンおまけにベーシストと判明した今、恋に落ちてはならないものの、事実、彼に相当惹かれている。


 翌週金曜、夕方、十六夜付近のコンビニエンスストアにて。
『ねえ、今日中に帰ってくる?』
 高校の友人らと久しぶりに集まる、といかにもな嘘を吐くと、純粋なまどかは快く送り出した。正直に、知り合いたての人達のライブを観に行く、とは言えずメッセージアプリを開いて胸が痛む。
『わかんないや』
 実は打ち上げにも呼ばれており、恐らくそこでギタリスト並びにドラマーを紹介される。


 茶色いカラーコンタクトレンズに変え、ほんのりと赤みを効かせた化粧で、なるべくシンプルなリブニットのプルオーバーに、フレアシルエットのデニムパンツを合わせた。
 チェーンのショルダーバッグはともかく、辺りを見回すと新しいローファー含め場違いではないか。
 彼女らのファン・通称〈素材〉ときたら、バンドTシャツにジャージ、或いは丸メガネをかけて柄シャツにカラフルなワイドパンツ、眉なし・そばかすメイク等々が基本のようで、色とりどりの派手なスニーカーを履き、平均年齢が低い。


 関係者の窓口で受付をしても、案内されたスペースの居た堪れなさに身を縮める。
 だがしかし、突如、爆音と大歓声が巻き起こり、数分も待たせずステージにメンバーがひとりずつ現れ、視界に爽が入るや否や、長い髪を後ろで結んでいるとか、全身水色は似合
う、よくぞ思い付いたとか、興奮が高まった。
「こんばんは、ハイローファイ・コラージュ始めます!」
 マイクを通したふわぴぴの甲高い声。
 もう、戻れない。


邂逅...かいこう
こっそり連載の準備をしていました。
ちなみに初めて自分から親に「やってみたい」と言った楽器がベースです。次回もお楽しみに。