((お菓子くなり想))
5日前に見失った、あいつと不本意な同居をしていた。こう表すと誤解を招くだろう、訂正。『あいつ』とは飴玉のことである。
会社員ちなみに経理の萩谷(はぎや)が先週の買い出しでスーパーマーケットの新商品や限定品のコーナーから選んだ〈クリーミー・ステンドグラス・キャンディ〉がそれだった。
実に長たらしい名前の菓子とショッピングカートを押す人間。運命的な出会いでも何でもなく、強いて言えば萩谷はステンドグラスの線がとろけてランダムに垂れるような、パッケージのイメージ写真に心惹かれた。
そうして、ポップコーンだとか野菜チップスと共に萩谷の家にやってきて、
「どれ、舐めてみるかな」
彼がくしゃくしゃのマイバッグから取り出して袋を開けるなり、飴玉が包みごと弾け飛んだ。
ぶしゅ、ぽとん、とすっ。
家具の隙間に挟まったと思われ、萩谷は顔をしかめる。生憎、ホコリまみれの飴玉に手を伸ばす勇気は皆無、新しいものを口に含む。
「面倒臭い、後でやればいい」
その『後で』が来ないまま週明け(仕事以外ではルーズな男)。
ガラス細工のように繊細かつ透き通って、概ね想像通りの滑らか具合はやみつきになり、袋の中身が残り僅かの晩、萩谷が歯を磨いて敷き布団に寝転がった瞬間、ぷちっと背中に痛みが走った。
何か丸い物を押し潰してしまったーーすぐに飴玉と判断できずとも、この程度は感触で分かる。仕方がないのでわざと大袈裟な溜め息を吐いて、萩谷は裏面にカビが生えた布団を持ち上げてみた。
「ひっ」
(記憶によれば落としたのはひとつだけだが)そこにあった飴玉が、ふたつに分かれるところを彼は目の当たりにする。
数秒、時空がぐにゃり。
飴玉の様子は加工によって歪んだ写真または何らかのアプリでエフェクトが外れた時に、よく似ていた。ひどく不自然ゆえに注意が向き、萩谷は見なかったことにしようとして、乱れる呼吸、心臓が飛び出しそうに暴れる。
「虫ならまだかわいいものを」「再び分かれ(要は増え)て、びっしり覆われたら」などが萩谷の頭を駆けずり回った。ふたつだけれども小さくならず、個包装の袋を彩るステンドグラスの果物も、ブドウとリンゴでしっかり別々という手の込んだ仕掛け。
生まれたての飴玉から目が離せない。
暫時、固唾を呑んで、萩谷はそーっと後退り、害虫駆除に同じく、ティッシュペーパーを何枚か重ねて、がばっと飴玉を掴んだ、にも拘らず。
「うわ、ちょっ」
ころころ転がって擦り抜ける。
またもや行方をくらませ、今では萩谷の家は「必ずや埋め尽くしてみせる」とクリーミーどころか、やたら強い意志を持った『あいつ』だらけだと言う。
\こちらに参加中です。お話しませんか?/
