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と・き・め・きが目覚める数日前


「ウチが譲ったんだから何がなんでも付き合いなよ」
 紅一点のくせに、女好きで女にだらしないボーカリストが言った。
 現在はバンドの打ち合わせという名の飲み会で、楽曲制作から抜け出してきたギタリスト(ボカロPとして知られ、メンバーのうち最も多忙)が早くも酔い潰れてテーブルの端で眠ってしまっている。


 つられて大欠伸をかましたドラマーは「あの普通っぽい子ね。ああ、狙ってたんだ? 悪い、こないだは知らずに俺が独占してたわ」と少しも申し訳なさそうな顔をしながら言葉を放った。
「別にいいよ、まずお前の好みじゃないだろうし。何となくまた、会えるような気が」
 ベーシストがここまで答えるとボーカルが首に巻いた大胆なラメが美しいオーロラ色のマフラーを投げつけてくる。


「苛々する、気持ちはっきりさせろっつーの。もう好きじゃん。そんな態度でのこのこ追い掛けたとかナメてんのかよ」
「初めてで訳分からん。サラッとかわされちゃったよね」
 面倒だが、きちんとマフラーを丸めてボーカリストに手渡す。
 〈彼女〉のことを諦めるつもりは毛頭なかった。自分が、誰かひとりに強く惹かれるなど珍しいを通り越して奇跡に近い。


 居酒屋の喧騒に、眠りこけたギタリストの寝息が混じる。焼き鳥の串だけが皿に並べられていき、ドラマーが「だっせー」と呟いた。
「SNSのアカウント探してみる」
「せいぜい頑張って繋がれよ。話は変わるけど来月の予定、池袋・下北だよなー。俺◯◯のサポート依頼受けていい?」
 こちらの話をまともに聞いてもいない。あっという間に流され、呆れて食欲が湧かずスマートフォンに目をやる。


 今頃、彼女はどこでどう過ごしているだろうか。会うきっかけが欲しくて、雨の夜にビニール傘ではなくトレンチコートを託した。
 律儀に返してくれそうなところが、俺を未知の世界・恋に引き摺り込む。
「……僕は味方だよ。上手くいきますように」
 帰り際。ずっとテーブルに伏せ、休んでいたギタリストが俺の隣にやってきて肩を叩く(こいつのこういう性格に何度救われたか)。
 ──この2日後に偶然、彼女と再会するが、それはまた別の話だ。



壊れた右側のコントローラー
強制終了された冒険さよなら
また世界とか救えなかったね
君が思い出せない別れの数々
あれにだけはなりたくない僕
もしこれを最後の恋にすれば
そんな考えが頭を占めるんだ
君が身を焦がした男は大嫌い
美化されやすい過去にも嫉妬
小さい小さい小さな自分です



11月26日にどうしても投稿したくて(理由2つある)、分かりますか?