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キリング・ミー・ソフトリー【小説】69_馬鹿者のすべて


「私、今年見られなかったんだよね。あれが最初で最後かも。」
ラストの曲で打ち上がった花火について莉里さんが熱く語っている。現在、自分達はスマートフォンの地図アプリを頼って最寄りから離れた別の駅まで徒歩で向かう途中だ。


乗る予定の電車が止まったせいだが、今夜ばかりは幸運なハプニングとして捉えたい。
「俺はバンドメンバーと行ったよ、男3人でとか虚しいでしょ。」
「は?それがいいんじゃん、贅沢な青春。私なんか店の中でチラッと覗くだけだったよ、しかもぼっち。」
「俺からすれば、そんな位置に職場あるのがすごい。」
つまり莉里さんは誰とも、取り分け他の異性とは花火を眺めていないという情報を得て安堵する。


懺悔。彼女の麗しい浴衣姿と蕩けるようなデートの模様をがっつり妄想してはほくそ笑み浸っていた。まさかフェスで一緒に見られるとは思いもよらぬ展開、隣同士ではなくとも夢が叶った気分だった。



「アキくん、帰りのバス間に合う?」
「なんとか。莉里さんこそ足大丈夫?疲れたよね。」
関東は駅の間隔が短いと決めてかかったものの、どうやらそうでもないらしい。地元と等しく場所による。
道のりを確認して実際に歩けば痛切に感じた。
「私は平気ー!こういうのも悪くないよ、ライブとセットで思い出に残るもん。それにアキくんと会ってのんびり話すのって今まであんまなかったから楽しい。」


彼女が大変ポジティブな台詞を送ってくれて救われる。表面的には平静を装えど本心を明かすタイミングを見計らってはやめて、を延々と続け小1時間程、気もそぞろに中身のない会話を繰り返しようやく腹を括った。
あの、さあ。莉里さんにとっての俺、って何?


「うーん。アキくんは一番仲良い男友達だよ。あっ、私みたいなのが友達って図々しいかも知んないけど!もし私が男の子でね、アキくんと同い年なら真っ先に友達になりにいっちゃうかな。私、アキくんの周りの子が羨ましいの。」
違う、そっちじゃなくて。
そのようなおとぎ話、まず不可能な〈たられば〉など要らない。弟風情から一応抜け出せても複雑な心境になる。


「すげーありがたいけど俺は、莉里さんには女の人でいて欲しいよ。……だって、莉里さんのことが好きだから。
街灯や人影もまばらな夜道、すぐ側を車が通り過ぎていく。ついに言ってしまった後悔の波に襲われた。


以降、妙な重い沈黙が訪れ、ただ2人で進むのみ。並んでいた筈が追い越されて急ぎ遠ざかる莉里さんの背中を見つめながら、あの最高に楽しかったライブを脳内再生して歯を食いしばり耐える。
時間をおき、莉里さんが口を開いた。


「ねえ。私のどの辺を好きになったの?何回会ったっけ?お互い殆ど知らないよね。私がどこで働いてるか知ってる?てか、仕事って隠すけどフリーターなんだよ。」
正社員とは思えぬ頻度でライブハウスに通い、連絡を寄越した為に案の定、推測が当たる。けれど、返す言葉もなかった。


アキくんの誕生日の時にさ、私22って教えたじゃん?あれも嘘、ホントは23。ほら、なんも分かってなくて恋に恋してるだけ。さっきも話したけど、アキくんは一番仲良い男友達だよ。そこは変わんない、これからも。」
当然の如く玉砕、とはいえ頭の回転が鈍る。
どこからが真実で偽りなのだろう。


「ごめんなさい、俺の勝手な考え押し付けられて迷惑だよね。」
「そういう意味じゃないの、気を持たせるようなことばっかしたの私だし。アキくんに告られて嬉しいんだけど、せめてあと1年。大人になってからもっかい言って欲しいかな。」


やっと着いた駅で別れる。
あんなに優しく微笑んだ莉里さんは既におらず、二度と会えない予感すらした。



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