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キリング・ミー・ソフトリー【小説】 05_僕をライブに連れてって


2月末。
せっかくの凱旋公演だというのに、無情にも小雨が降っていた。
がら空きの電車に乗り混み外を眺め、だらりとドアにもたれ掛かる。
落ち着いて座る気分にもなれなかった。
ロクに休む間もなくあっという間に目的地へ到着してしまい、たった一つしかない改札口には一足早く辿り着いたLRさんが待っている。


『去年のツアーで売ってたキャップ被ってて、白いパーカーの上に、××のコーチジャケット着て、ケミカルウォッシュのワイドパンツ履いてる。さっき駅のロッカーで荷物預けたから、鞄はピンクのポーチいっこ。短めの茶色いボブで、靴がこれね』


彼女はこちらが悪者だった場合どうやって逃げるつもりかというくらい、自身のファッションを事細かに送ってくれた。
ツギハギされたが如く無数の柄や配色を散りばめた、やたら派手なハイカットシューズの写真に一層おしゃれな印象を受けた。
少しでも輪郭を描き、LRさんって実在するんだ、などとぼんやり考え、ホームの先が無駄に遠く感じる。


どうやら待ち合わせと思しき数名が佇む中で、真っ先に視界へ飛び込んできた、一際目立つ背の高い女性。特徴と照らし合わせてもあれがLRさんだとすぐに分かる。
忘れもしない、あからさまにその辺の女とは違う華々しいオーラを放っていた。
微かに俯く横顔と頬にかかる髪が何とも艶やかで美しい。流石、都会暮らし。



フォロワーに会うと友人らに打ち明ければ
「写真一枚もないんだろ?」
「どうせブス、期待すんなよ。」
と冷やかされたが冗談も休み休み言え
こんな芸能人のような容姿、よもや気軽に載せられないのだろう。


もうどうにでもなれと半ばやけくそで彼女の前に立つ。
「えっと、アキです。お待たせしました。」
ほぼ身長が変わらず、スマートフォン片手にこちらを見る色素の薄い瞳と通った鼻筋、青白い肌に反し色づいた唇、抜群の頭身バランスにたじろぐ。
例えるなら陶器で出来た人形、途轍もない繊細さに時が止まるかと思った。


「あっ、こんにちは。LRでーす!リ、リ、ね。」
彼女は一瞬で笑顔になり、益々眩しい。
ここまで美人だなんて、新手の詐欺に引っかかったのではないかと疑う。
それがリリさんとの衝撃的な出会いだ。


念の為断ると普段、人見知りはしない。
ただ並んで歩くのも申し訳ないレベル、想像以上で大いに萎縮してしまった。
「こっち、曲がります。」
小雨が止んでいて持参の折りたたみ傘はとんだガラクタと化し、粋な台詞も浮かばず駅のロータリーに沿い必要最低限の道案内を始める。
彼女は一頻り黙って着いてきたものの突然クスクス笑い出す。


「ねえ、なんでずっと敬語なの。フツーに面白いんだけど。」
振り返ると思い切り肩を叩かれ、気が緩む。
「いや、ドキドキ……緊張しない?」
「別に。私はアキくんの迸るフレッシュエキスを浴びてた。ホントに若いんだもん。てか、肌キレイだね。」
リリさんこそ、大学祭で見かけた先輩達とは次元が異なる。


そこから彼女に従って段々、自然と話せた。
「リリさんってパンクとかミクスチャー、ラウド寄りなバンド聴いてるよね?いつも行ってるライブもそんな感じのが多いみたいだし、ここのファンなの意外。」
「私、元々はこういう音楽が好きなんだよ。でもいつの間にか激しくてやかましい系ばっかになっちゃった。」
「ふうん、フェスは?」
「あんまり。チケ代だけじゃなく諸々かかるじゃん。そんでね、ちまちまライブ何回行けるかなってタイプ。まあ、接客業だし?土日休みづらい。」


程なくしてライブハウスが現れる。
既に先行物販が開かれ、〈チケット譲って下さい〉を掲げた人の山。
「すごい、聖地にやっと来た!鳥肌ヤバい、泣きそう。グッズどれ買う?」
リリさんは大興奮で外観を連写し、目を潤ませ捲し立てた後、
「アキくん、今夜は一緒に観ようね!」
と声を弾ませた。




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