【SF小説】灰色の死神 第1話『開戦前夜』
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ザイレク軍の兵士たちは、恐怖とともにその機体をこう呼んだ。
──『灰色の死神』、と。
砂泥で汚れた灰色の装甲。
その肩には、鯱の背鰭と死神の鎌を組み合わせた不気味なエンブレム。
現代最強の兵器であったはずの人型汎用戦略兵器「フレームアーマメント(FA)」たちが、その不気味な機体によって、まるでブリキの玩具のように次々と撃破されていく。
──なぜ、世界はこんな地獄になってしまったのか。
時計の針を、戦争が始まる前……西暦3517年まで巻き戻さねばならない。
すべては、アルヴェリア南部ユルカ山脈で検出された、あの地下深くの爆発──未知の結晶体「イグノリウム」の発見から始まった。
西暦3517年。
惑星資源の枯渇が深刻化する中、アルヴェリアの地質調査隊が、南部ユルカ山脈地帯にて大規模な振動音波探査を実施していた。
そのときだった。
地下深く、極めて高密度なエネルギー反応帯が検出されたのだ。
調査隊は即座にボーリング調査を開始。
だが、掘削機が反応帯に到達した瞬間、事態は突如として“臨界”を迎える。
爆発。
それは、単なる爆発などではなかった。
地表が焼け、空が裂けた。
半径50キロメートルにわたる地形が、一瞬で消し飛んだのだ。
死の静寂のあとに残されたのは、“未知の結晶体”だった。
それこそが、後に「イグノリウム」と呼ばれる新物質の発見である。
そのエネルギー密度は、既存のあらゆる資源を凌駕した。
原子力、核融合を遥かに上回る、理論上“無限”に近いエネルギー効率。
枯渇の一途を辿るエネルギー問題を抱えた人類は、ついに、永遠の動力を手に入れたかに思えた。
発見国であるアルヴェリアは、国家総力を挙げてイグノリウムの研究を推進。
研究は、アルヴェリア総合研究所(AIGR)で行われ、そこでは、イグノリウムを利用した、様々な研究が行われた。
しかしある時、その希望に満ちた研究に、暗雲が立ち込めることとなる。
南部隣国であるザイレクが、「アルヴェリアはイグノリウムを軍事利用し、人体実験まで行っている」という声明を突如発表したのだ。
手にした証拠をもとに、ザイレク側は鬼の首を取ったかのように高々と宣言したわけだが、アルヴェリアはこれに対し、事実無根として対局。
様々な調査を受け入れたが、確実な証拠は現れなかった。
しかし、火のないところに煙は立たないとはこのこと。
国際的批判を受け、アルヴェリア政府はAIGRの解体を決定した。
しかしそれでは収まらず、ザイレクと、その背後にいる大国ヴォルカは、「イグノリウムはもはやアルヴェリア一国の資産ではない」と主張したのだ。
新たな国際監査機関による“共有管理”を提唱すると。
この介入に強く反発したのが、アルヴェリアの同盟国であるユーニスだった。
「発見者の主権を奪うのは植民地主義の再来だ」
そう語ったユーニス首相の言葉を皮切りに、世界は分断へと傾き始める。
そして──宣戦布告。
イグノリウムをめぐる争いは、ついに“歴史的戦争”の火蓋を切った。
世界は再び、灰の雨が降る未来へと歩み始めた。
開戦初期。
アルヴェリアは攻め手を欠き、後手に回る形で劣勢を強いられていた。
ザイレク軍は、国境に近くにある、イグノリウム採掘プラント地帯を瞬く間に制圧。
アルヴェリアは、最も貴重な資源拠点を失うとともに、戦線の維持にも苦しみ続けていた。
──だが、それから3年。
アルヴェリアは、戦局を覆す新兵器を実戦投入する。
それが、「フレームアーマメント」、通称FAだった。
イグノリウムを主動力源とする人型汎用戦略兵器。
優れた機動力と、多種多様な兵装を駆使するFAは、既存の戦車・戦闘機といった兵器体系を一気に時代遅れへと変えた。
圧倒的な火力と汎用性を備えたFAは、瞬く間に戦局を一変させ、アルヴェリアは占領地を次々に奪還。
ついには、失われたプラントの奪還も目前に迫る勢いを見せた。
しかし、ザイレクもまた黙ってはいなかった。
彼らも独自にFAを開発・実戦投入し、再び戦線は膠着状態へ。
終わりの見えない戦い。
FA同士の消耗戦が続く中、両国の兵士たちは次第に疲弊し、兵器の神話もまた色褪せようとしていた。
そして、戦争が始まってから5年後。
誰もが現状維持を疑わなくなっていた戦場に、突如“異変”が現れる。
それは、FAであったが、既存のFAとは明らかに異なった。
砂泥で汚れた灰色の装甲を持つ機体。
その肩には、鯱の背鰭と死神の鎌を組み合わせたようなエンブレム。
そして──そのFAは、現代最強の兵器であったはずの他のFAたちを、次々と撃破していった。
ザイレク軍の兵士たちは、恐怖とともにこう呼んだ。
『灰色の死神』
それは、神話の終焉か。
あるいは、新たな時代の幕開けか──。
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