【SF小説】灰色の死神 第3話『カルン防衛作戦』
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都市カルンは、アルヴェリアにとって非常に重要な拠点である。
イグノリウム発掘プラントがあるユルカに近く、我々の前線を押し上げるために必須なポイントなのだ。
だからこそ、再度奪われるわけにはいかない場所であり、軍事的な固めを強くしていた。
ザイレクがカルンまで侵攻してくるのは、恐らくそう遠くなく、時間の問題だろう。
だというのに、何をとち狂ったのか、軍の上層部はカルンに駐屯する兵を引き上げろとの命令を下してきた。
駐屯部隊長も再三確認を取ったらしいが、誤命令ではとのことで、我々はカルン駐屯地を離れることを余儀なくした。
噂によると、新兵器導入のための実験らしいが、こんな前線でやることだろうか?
現場の声としては、誠に遺憾だと言わざるを得ない。
しかし、一介の兵士からの苦言など、誰も耳を貸さないだろう。
よって、大人しくいうことを聞くしかないのである。
倒壊しかけたビルの上に、地味な配色のFAが1機。
メタリックに輝く暗めな灰色の装甲に、肩には鯱の背鰭と死神の鎌が合わさったエンブレムがついている。
強さの象徴をただ詰め込んだかのような、この趣味の悪い識別紋章は、適当にAIに生成して貰ったものらしい。
なんとなく強そうなとか、そんなフワッとしたイメージでできたのであろうこのエンブレムは、確かに強そうではあるのだが、付けるには少しプレッシャーがかかるだろう。
対して、この機体に搭乗するパイロットは、そんなことなど一切気にしていないどころか、初の出撃に対して、微塵の緊張も見せない。
少々癖の強いグレーの髪に、何処となくやる気のないグリーングレーの瞳は、少年の面影に虚無感を漂わせていた。
齢は17、名をアッシュ・クローヴィス。
搭乗機体名はオルカヌス。
アッシュは、まさか初陣で重要拠点の防衛を任されるとは思ってはいなかったが、特に異論を唱えることもなく、すんなりと受け入れた。
それ程の自信があるのかと言われれば、それは違うと答えるだろう。
彼には興味がないのだ。
それがどのような難易度の作戦なのか。
通常、FAが複数機で攻めてくるような作戦など御免被るのだが、彼は飄々とそれを受ける。
恐らく、基地の誰も、彼の真意はわからないだろう。
「イリーナ、敵は?」
アッシュのオペレーターである、イリーナ・ストラウスは、呆れたように返答した。
「今、輸送機から5機投下されたわ。まるで自分たちの土地みたいに、のこのことやってきてるけど、警戒って言葉を知らないのかしら。監視ドローンでいくらでも発見可能なのに、複数のダミーを用意するとか、そんな対策も取らずに正面から突っ込んでくるとか、完っ全に舐めてるわね。」
敵は5機か。
イリーナがそう言うのだから、侵攻してきたのはそれだけなのだろう。
「そうか、まずどれから狙えばいい?」
そう聞きながら、コックピットの椅子にあるゴツゴツとした連結部に、自身の首の後ろにあるプラグを接続させる。
すると、首から下の感覚はなくなり、力が入らなくなった体をロックするために、自動的に枷が体を締め付けてくる。
一瞬、このまま全てを失ってしまうのではないかという焦燥感が突き抜けるが、体の感覚を手放した代わりに、オルカヌスをまるで手足のように操れる全能感で、すぐに満たされた。
従来のフレームアーマメントは手動で動かすものだったが、この次世代型のオルカヌスはそれらとは一線を画す操作を行える。
神経接続を行うことによって、脳からの電気信号を直接機体へ送り込むことができるため、より直観的な操作ができるのだが、実際、この操作感に適応できるものは殆どいないだろう。
なぜなら、自分の身体とは大きくかけ離れた存在を手足のように操ることなど、人間の脳は想定されて作られていないからだ。
もしそんなことができる人間がいるとするならば、恐らく尋常ではない環境に身を置き、耐え抜いたものだけだろう。
そんな尋常ではない組織で開発されたのがこの新型FAだ。
開発の途中、適応できないものは接続した瞬間絶命し、接続を突破したとしても、まともに動かせず暴走するなどの事故もあったが、アッシュはそれらの実験を全て乗り越え、このオルカヌスのパイロットとなった。
否、パイロットとして仕立て上げられ、なる以外の選択肢が消滅したと言ってもいいだろう。
敵を観察し終えたのか、イリーナが無線を飛ばしてくる。
「どれも似たり寄ったりだけど、1機動きが悪いのがいるわね。左から2番目のやつ。」
「あぁ、あれか。わかった、あれから仕留める。」
そう告げると、武器を格納してある大型のボックスから、巨大なレールライフルを取り出す。
火薬で弾丸を飛ばすのではなく、FAのコアから直接電気を組み上げ、電磁力を使って射出する武器だ。
弾丸も特別性で、着弾後に炸裂する仕様だ。
装甲の弱い場所を貫けば、内側から機体を破壊するだろう。
敵機体の弱点は既に把握済みだ。
胴体と下腿の間の接合部に、若干だが装甲の弱い部分があると、資料には書いてあった。
そこに炸裂弾を着弾させれば、内部のコアまで損傷させることができるため、一撃で仕留めることができる。
距離にしておよそ4km。
成功が許されるのは、誤差1m程度。
生半可な腕では困難なミッションだが、アッシュにとっては朝飯前だ。
ブースターを蒸し、上空へ飛び上がると、高度を維持したまま狙いを付ける。
どうやら狙いの機体はこちらに気がついたようだが、もう遅い。
レールライフルの引き金を引くと、弾丸は吸い込まれるように標的へ向い、次の瞬間、爆発がミッションの成功を知らせてくれた。
「流石ね。」
気のない賞賛をイリーナが送ってくる。
「思ってないだろ。」
「そりゃあね。完璧すぎてムカつくもの。」
小声で呟くイリーナの声は、アッシュには十分に届かない。
「何か言ったか?」
「何でもない。それより、アイツら突入してくるみたいよ。人の領土にヅカヅカと、図々しいわね。…マークつけたわ。4番が狙撃手みたいだから、先にやっつけちゃいなさい。本体と離れてコソコソ狙撃する予定みたいね。潰し時よ。」
「わかった、行ってくる。」
アッシュは一言だけ言い放つと、レールライフルを投げ捨て、超振動で金属をバターのように切り裂くソニックブレードと、超大口径のアサルトライフルを取り出しながら、ビルの上から飛び降りる。
その後、着地と同時に、ブースターを最大限蒸し、建物の間を縫うように、猛スピードで飛び始めた。
その速度、およそ360km/h。
常人にはコントロール不可能な速度で、ビル間を抜けるその姿は、敵が見たら卒倒ものだ。
モニターのビーコンは、絶えず更新され、常に敵の最新の位置情報を伝えてくる。
流石イリーナ。自称天才なだけあり、情報の取得速度も、行動指示の取捨選択も迅速で正確だ。
あっという間に孤立した4番の機体に接近すると、敵に反応させる前に、コックピットをソニックブレードで貫く。
近距離での爆破を防ぐため、敵機体を蹴り出し、後ろへ飛び退くと同時に、爆発が起きる。
それを後ろ目に、次のターゲットを探し出す。
「次は何処だ?」
「手際がいいわね。次は3番よ。2番が先行気味だから、遅れている3番から叩いて。」
「わかった。」
ここは最早戦場ではなく、狩場と化していた。
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