小説「葬送の旅」(3/10話) …創作大賞2024応募作品
【第3話】
つむぎ葬祭の初日は、お天気に恵まれた。
五月は風も空もきらめきたつ、いい季節だ。
心地よい爽やかな風が吹くたび、優しい艶をまとう木々の葉がさらさらと優しく揺れる。
街の一角に建つつむぎ葬祭は、白い外壁に囲まれたシンプルな造り。
五台停められる小さな駐車場の傍には、手入れの行き届いた鉢植えが3つ並んでいる。
小さな可憐な花を付けて、まるでいらっしゃいと微笑んでくれているかのようだった。
しばし見つめていると声がした。小鳥のような高く響く声がした。
「ハナミズキよ」
振り返ると、すらっと背が高く、鼻筋の通った黒いスーツ姿の女性が立っていた。
「もしかしてアルバイトの山中さん?」
「はい!今日から働かせていただきます、山中紡黄と申します」
「良かった!違ったらどうしようかと思っちゃった」
言いながらガハハハと豪快に笑う。
整った顔と笑い声のギャップに驚いていると、
「…あ、私は山本梓です。ここの社員なの。山中さんのことは社長から昨日電話で聞いてて。今日からよろしくね」
にこっと笑った表情を見て、やっぱり綺麗な人だなと思った。
山本さんに案内されて事務所へ入ると、
「みかみん、おはよ!紹介するね!今日から一ヶ月間、アルバイトとして働いてくれる、山中紡黄さん」
コピー機の前で振り返った男に、山本さんが私を紹介してくれた。
促されるままにお辞儀をして挨拶をする。
「山中紡黄と申します。本日からお世話になり…」
言い終わらないうちに、冷たい声が容赦なく遮る。
「は?一ヶ月だけ?うぜー」
自分の言葉を遮られた事よりも、男の言葉遣いに驚いて目をしばしばさせていると、山本さんが横から助け舟を出してくれた。
「まぁまぁ、みかみん。そんな事言わずにさぁ。永田くんがすぐ辞めちゃって、うちも今大変じゃない。山中さんはこの道十年だから新人さんってわけでもないのよ。一ヶ月でも助かるじゃない。ねぇ、山中さんにうちのやり方教えてあげてよ。ね?」
山本さんに宥められて、鼻からふんと軽く息を吐くとと、男は紡黄を一瞥する。
その目があまりにも冷たい。
葬儀の仕事は時間が不規則だったり、覚えることも多い。
その上、大勢のスタッフがいるような所でなければ休みも中々取りづらい。
合わなくてすぐに辞めてしまう人は昔はよくあったと、おじいちゃんが言ってたのを思い出す。
どうせ一ヶ月後には辞めるんだろ、という心の声が聞こえてきそうだ。
「ぼーっと突っ立ってないで、そこ座れば」
冷たい目を素早く動かして、斜め前にある事務机の椅子に座るよう命じられた。
言われた通りに座ると、紡黄の側に駒付きの椅子をガラガラと持ってきてドスッと座ると
「経験者なら別に細かい話はいいよな。とりあえずここのやり方だけ説明するわ」
面倒くさそうに、つむぎ葬祭とラベルが貼られている青いファイルを開く。
冷たい目の男、''みかみん''こと三上トオルと、私のやり取りを、少し遠くで見ている誰かがくすくす笑っている。
その声の主を辿ると、一人の女性。
栗色のさらりとした髪の毛が顎の辺りで切り揃えられている。
私が余所見をした事に気がついた三上が、彼女は事務員の渡辺唯さんだと紹介してくれた。
どこかからのいただき物なのか、小袋に入ったチョコレートを口に運びながら、よろしくです、と言って微かに頭を下げた。
つむぎ葬祭は社長を含めた、この五名。
加えて、状況に応じてお通夜やご葬儀といった式進行の為の司会者、
お茶を出したり清掃やお世話係の為のスタッフを、外注先から呼ぶことがあるという事も、
三上の話には含まれていた。
葬儀業界といっても、地域性や、会社の規模、人員、業務のやり方など千差万別だ。
つむぎ葬祭の事を一通り教わったら、時計は12時を少し回っていた。
今日は18時にお通夜が入っている。
昼食を済ませてから、私もその準備を手伝い、お通夜にも山本さんと一緒に付くことになった。
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第4話につづく
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