見出し画像

なぜ血液製剤を“洗う”のか?― 洗浄赤血球・洗浄血小板が必要になるとき ―

こんにちは、あずうです🩸
認定輸血検査技師の資格を持つ臨床検査技師として、総合病院で輸血・免疫・血液検査に従事しています。

今回は「洗浄赤血球」と「洗浄血小板」について解説します。
通常の赤血球製剤や血小板製剤ではなく、わざわざ"洗浄"した製剤を使う場面があるのですが、どんなときに必要になるのか、ご存じでしょうか?

輸血の現場では頻繁に出会うものではありませんが、知っておかないと適切な対応ができない重要なテーマです。


「洗浄」とは何をしているのか

洗浄赤血球・洗浄血小板とは、血液製剤を生理食塩液で繰り返し洗い、血漿成分(たんぱく質や抗体など)を可能な限り除去した製剤のことです。

通常の赤血球製剤や血小板製剤には、ドナー由来の血漿がある程度含まれています。
多くの患者さんにとっては問題になりませんが、血漿中の成分が原因でアレルギー反応やアナフィラキシーを起こす患者さんがいます。
こうしたケースで、洗浄製剤の出番となるわけです。

洗浄操作は輸血部門で無菌的に行い、生理食塩液で通常3回以上洗浄します。
これにより血漿たんぱくの大部分が除去されます。
ただし、洗浄操作によって赤血球や血小板の一部も失われるため、製剤の有効成分量はやや減少する点は押さえておく必要があります。


洗浄製剤が必要になる代表的なケース

1. IgA欠損症の患者

最も有名な適応がIgA欠損症です。
IgA欠損症の患者さんの一部は、血中に抗IgA抗体を保有しています。
この抗体が輸血製剤中のIgAと反応すると、重篤なアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。

IgA欠損症は日本人では比較的まれ(約1/500〜1/1000)ですが、欧米ではより高頻度で認められます。
抗IgA抗体を持つ患者さんには、洗浄によって血漿中のIgAを除去した製剤を使用する必要があります。

2. 重篤なアレルギー反応の既往がある患者

輸血のたびに蕁麻疹だけでなく、喘息発作や血圧低下、呼吸困難といった重篤なアレルギー反応を繰り返す患者さんがいます。
抗ヒスタミン薬やステロイドの前投薬でも予防できない場合は、洗浄製剤の使用が検討されます。

原因物質は血漿中のたんぱく質であることが多く、洗浄によってこれらを除去することでアレルギー反応のリスクを大幅に低減できます。

3. 新生児輸血での活用

新生児や低出生体重児への輸血では、血漿中のカリウムや抗体が問題になることがあります。
特に保存期間が長い赤血球製剤では上清中のカリウム濃度が上昇しており、新生児の小さな体には負担が大きくなります。
洗浄赤血球を使用することで、高カリウム血症のリスクを軽減できます。

4. ハプトグロビン欠損症

まれなケースですが、ハプトグロビン欠損症の患者さんで、抗ハプトグロビン抗体を保有している場合にも洗浄製剤が必要になることがあります。


洗浄製剤を使う際の注意点

洗浄製剤には以下のような実務上の注意点があります。

特に有効期限の短さは現場で重要なポイントです。
事前に主治医や看護師と輸血開始時間の調整を行い、洗浄してから速やかに使用できる体制を整えることが大切です。


洗浄以外の代替手段

すべてのアレルギー反応に洗浄製剤が必要なわけではありません。
軽度の蕁麻疹であれば、抗ヒスタミン薬の前投薬で対応可能なケースも多くあります。

また、IgA欠損症の場合は、IgA欠損ドナーからの献血製剤(日本赤十字社に登録あり)を使用するという選択肢もあります。
ただし、供給には時間がかかるため、緊急時には洗浄製剤での対応が現実的です。

白血球除去フィルターは白血球由来の副反応(発熱性非溶血性輸血反応など)には有効ですが、血漿たんぱくが原因のアレルギー反応には効果がありません。
この点は混同しやすいので注意が必要です。


まとめ

洗浄赤血球・洗浄血小板は、血漿中の成分が原因で重篤な副反応を起こすリスクがある患者さんにとって不可欠な製剤です。
IgA欠損症、重篤なアレルギー反応の既往、新生児輸血などが代表的な適応です。

有効期限が短く、準備に時間がかかるため、事前の情報共有と体制づくりが重要になります。
患者さんの輸血歴や副反応歴を確認し、「この患者さんには洗浄製剤が必要かもしれない」と判断できる知識を持っておくことが、安全な輸血医療につながります。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回もぜひお楽しみに!


共同運営マガジンにて、医学・医療に関する知識を一緒に発信してくださる方を募集しています。
臨床現場での経験、検査・看護・薬剤・リハビリなど各専門職ならではの視点、日々の学びや気づきなどを、読者にわかりやすく届けていける場にしたいと考えています。
医療従事者の方はもちろん、医学知識の発信に関心のある方も、ぜひお気軽にご参加ください。
一人では届けきれない知識も、複数人で発信することで、より多くの方の学びにつながると思っています。


医療従事者向けに、医学・医療に関する知識をわかりやすくまとめたマガジンです。
臨床現場で役立つ基礎知識をはじめ、検査・輸血・疾患・治療など、医療従事者の学び直しや知識整理に役立つテーマを取り上げています。
日々の業務の中で「そういえばどうだったかな?」と感じる内容を、できるだけわかりやすく、実践につながる形で整理していきます。
医療職として知識を深めたい方、現場で使える医学知識を学び直したい方におすすめです。


いいなと思ったら応援しよう!

あずう🩸@臨床検査技師|輸血&免疫&血液|医学知識 この記事が役に立ったら、コーヒー1杯分の応援をいただけると嬉しいです。 いただいたサポートは、現場で役立つ輸血検査の記事作成や資料作りに使わせていただきます。 「こんな内容を解説してほしい」などのリクエストも大歓迎です!