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女一人旅 × 京都 Ace Hotel #2「自分を取り戻すアナログな夜」 ー音の体温にほどける時間


女一人旅 #記憶の温度だけ、持て余す。編


客室の片隅に、ターンテーブルがあった。 ただ、そこにあった。


傍らには、Jazzy Hip Hopから寺尾聰のジャケットのJ-Pop 80'sまで、
絶妙なラインナップのレコードが並んでいた。

私はその中からFunk Soulの一枚を選び、針を落とす。


空気そのものが、ふるえていた。
耳ではなく、皮膚で受け止めるような。

こういう感覚を、知っている。

不意に、記憶の層がめくれはじめた。

大学生の頃、背伸びをして手に入れた自分だけのターンテーブル。

レコードショップに通い詰めて、
やっと選んだ一枚を部屋で鳴らした夜。

当時はジャケ買いが中心だったから、失敗も多かった。

その分、良さそうなものを見分ける感覚だけは、少しずつ鋭くなっていった気がする。

あの頃の私は、音楽の「新しさ」や「知識」を、どこか必死に集めていたな。


記憶の温度

けれど今、ACEHOTELの部屋で、
愛犬の穏やかな寝息に包まれながら浮かんできたのは、もっと遠い景色だった。

実家のリビング。 父の古いオーディオ。

幼い私の目には、回転する黒い円盤が、ただの機械ではなく、どこか魔法のように映っていた。

少しザラついた音が、なぜか、やわらかく体に積もった。

あの頃、音楽
「消費」するものでも、「理解」するものでもなく、
ただそこにある"空気"そのものだった。

理解なんてしていなかったのに、音の体温だけは、しっかり残っていた。



その溝の中に、私だけの体温が刻まれている。

デジタルには、たどり着けない場所に。


完璧に整えられたリマスターとは、どこか決定的に違う。

ノイズの向こうから聴こえてくるその音は、

当時の空気や、光の角度や、言葉にならなかった感情まで、まとめて連れてきた。

大学生のときに手に入れたレコードが、
外の世界へ繋がる扉だったとしたら、

子ども時代に浴びていたあの音は、
私を形づくった、最初の調律だったのかもしれない。

この京都の部屋で再会したのは、
ただ音の中にいた頃の自分の気配だった。


畳に沈む


空間オーディオが緻密な計算で作られた
『設計図』だとしたら、

レコードは盤に刻まれた剥き出しのバイブスだ



ACE HOTELの創業者Alex Calderwoodは、
自らを「Cultural Engineer(文化の建築家)」と名乗った人物だ。

地元のレコードショップと提携し、その街のバイブスを物理的な盤として手渡す。

あえて「針を落とす」という手間を強いることで、

宿泊客をスマホの画面から引き剥がし、今この部屋の時間へ没入させる。

計算された「不自由の設計」。


そんな術中に、私は見事にはまっていた。

Alex Calderwoodという人物について(Fast Company
 (英語記事)



その体温をさらに確かなものにしていたのが、
足元に敷かれた小さな畳のスペースだった。


私は自然とそこに腰を下ろし、音に身を委ねる。

チェックイン前にホテル近くの「やまや」でゲットしておいたワインとおつまみは、
ちょうど手の届く窓際のベンチに並べて。

肌に触れる畳の、懐かしくて素朴なぬくもり。

至近距離のスピーカーから、直接体に届く音の波。

ただ盤が回るのを見つめていると、気づけばその場所から一歩も動いていなかった。

この小さな畳の上が、とても落ち着いて、居心地が良かった。

子どもの頃に感じていた、あの秘密基地の空気に近かった。

自分を整えるための音と、少しのアルコール。

隣では、愛犬の小さな寝息が、レコードと同じリズムでゆるく続いていた。


光の温度


窓から差し込む日差しが、畳を温める。

時間が経つにつれて光はやわらかく色を変え、
その熱を少しずつ増していく。

景色を見るのではなく、光の温度を感じる贅沢。

効率や便利さを求めた先にはない、
不完全で有機的なものたちが生み出す、
最高に洗練された「心地よい温度」。

その温度に触れているうちに、
ロビーでの高揚感は、いつしか

私自身の、最も深い部分にある心地よさ」へと昇華されていった。


調律、し直す

チェックアウトのためにロビーへ戻ると、そこには相変わらず、
世界中の人の熱気が混ざり合っていた。


けれど、
一人と一匹でレコードの音に浸った時間を経た今の私には、その賑やかさも、
やわらかく重なって聞こえてくる。


ACE HOTEL Kyotoで過ごした時間は、

自分自身の内側にある「心地よい温度」を、もう一度調律し直すような、
静かで確かな時間だった。

またあの温度を確かめたくなったら。

きっと、また京都へ行く。


―つづく。朝のコーヒーと、御所の梅と、パンの話。―


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