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WMC 2026を終えて ― アジア初の挑戦、そしてGold

2021年から待ち続けてきた、4年に一度のWorld Music Contest(以下、WMC)が、ついに幕を閉じました。

「音楽業界のオリンピック」とも呼ばれるこの世界最高峰の舞台に、Immortal Brass Eternally(以下、IBE)とともに挑戦できたことを、心から誇りに思います。


御礼

まず初めに、今回のWMC参戦にあたり、クラウドファンディングを通じて多大なるご支援をくださった皆様に、心より感謝申し上げます。

どれほど強い気持ちがあっても、遠征には現実的な費用が必要です。その支えがなければ、僕たちは日本を発つことさえ叶いませんでした。本当にありがとうございました。

また、家族をはじめ、日頃よりImmortal Brass Eternallyを支え、応援してくださっているすべての皆様にも、心から御礼申し上げます。

僕を含め、メンバー一同がここまで走り抜くことができたのは、皆様の応援があったからです。たった一音を奏でることですら、一人で向き合うのと、誰かに応援されながら向き合うのとでは、その重みも力もまったく違います。

約半年間、それぞれが孤独な時間の中で楽曲と向き合い、数え切れないほどの「できない」を「できる」に変えてくることができたのは、皆様からいただいた応援のおかげです。今回の僕たちの歩みや成果は、すべて皆様の支えがあってこそのものだと思っています。本当にありがとうございました。

そして、Immortal Brass Eternallyのみんなへ。

コンテスト最終日が終わったあと、AKTと話をしていました。

思い返せば、すべての始まりは2010年のブラスバンドキャンプでした。そこでAKTたちと出会い、2014年にはオーストラリア・ナショナルへの挑戦、2018年には指揮者として初めてご一緒させていただき、そして2022年からは常任指揮者という大役を任せていただきました。気づけば、もう4年になります。

みんなの話を聞くと、10年以上も海外遠征を夢見続けてきた人もいれば、2021年に実現できなかったWMCへの挑戦で心が折れそうになった人もいました。それぞれがさまざまな想いを抱えながら、この2026年のWMCにたどり着いたのだと思います。

だからこそ、日本の金管バンド史に永く刻まれるであろうこの大きな挑戦を、皆さんと共に経験し、同じ目標に向かってベストを尽くせたことを、僕は心から誇りに思います。

リハーサルで過ごした一秒一秒、そのすべてが僕にとってかけがえのない宝物です。

WMC 2026を終えて ― アジア初の挑戦、そしてGold

課題曲演奏後

2026年7月、Immortal Brass Eternallyとともにオランダ・ケルクラーデで開催された World Music Contest(WMC)2026 ブラスバンド・コンサート部門に出場しました。

この部門は世界最高峰のブラスバンドが集うカテゴリーであり、我々は大変ありがたいことにアジア圏のバンドとして史上初めてこの舞台への出場を果たしました。

結果は10団体中9位、総合86.83点。

称号 「Gold」 をいただくことができました。(WMC規定において80点以上はGold、金賞)

心から優勝を狙っていたので、順位に関しては我々が望んでいたものではありませんでした。

しかし、世界最高峰の舞台で「Gold」と評価して頂いたこと、そして日本からこのカテゴリーへ挑戦する道を切り拓けたことは、我々にとって大きな意味を持つ結果でした。

課題曲《Mirage / Jan de Haan》の演奏に関し4barsrestのライヴコメントは以下のようになりました。

課題曲《Mirage》への講評(4barsrestより)

英国のブラスバンド専門メディア**「4barsrest」では、課題曲《Mirage》について、Immortal Brass Eternallyの演奏を「強い意志を持って挑んだ、日本のバンドによる非常に魅力的なコンテストデビュー」**と評していただきました。

レビューでは、作品への深い理解をもとに、音色や響き、色彩の変化によってドラマや哀愁を丁寧に描き出していた点が高く評価されています。また、打楽器セクションやチューバセクションについても、その表現力が印象的であったと評価していただきました。

一方で、作品全体の構成感にはさらに深みを持たせる余地があるとの指摘もありましたが、音楽が高揚する場面での力強い表現は高く評価されました。

中でも、

「作品を深く理解した、知的で明快な指揮が、バンドの持つ力を最大限に引き出していた。」

という言葉は、指揮者としてこれ以上ない励みとなりました。

また、Steven Mead氏からは、課題曲への挑戦を**「勇気と高い技術をもって取り組んだ素晴らしい演奏」と評価していただき、特にユーフォニアム独奏については「間違いなく今回の主役の一人」**と絶賛していただきました。

高音域での難しさなど今後への課題も率直に指摘されましたが、それらも含めて日本のバンドによる力強いコンテストデビューとして高く評価していただき、レビューの最後には、

「明日のコンサートプログラムではどのような演奏を聴かせてくれるのか、とても楽しみにしている。」

という温かい言葉まで添えてくださいました。

自由プログラム曲への講評(4barsrestより)

自由プログラムでは、Christopher Bond《Soaring the Heights》、Edward Elgar《Nimrod》、黛敏郎《木琴とバンドのための小協奏曲》、Philip Sparke《A Road Less Travelled By》を演奏しました。

英国のブラスバンド専門メディア**「4barsrest」**では、

「この日の日本のバンドは、ステージに登場した瞬間から、前日とはまったく別のバンドのようだった。」

という印象的な言葉からレビューが始まりました。

オープニングの《Soaring the Heights》はエネルギーと躍動感、続く《Nimrod》は抑制された中にもエルガーらしい情熱が感じられる演奏として評価されました。また、黛敏郎《木琴とバンドのための小協奏曲》ではソリストの演奏が高く評価され、《A Road Less Travelled By》については、「指揮者はこの難曲を完全に理解しており、奏者たちもその音楽に見事に応えていた」との言葉をいただきました。

さらに、プログラム全体についても「このバンドの魅力を存分に示すことのできる、非常によく考えられた選曲」と評価される一方、終盤にはわずかな疲れも感じられたとの率直な指摘もありました。しかし最終的には、「このバンドには若々しい躍動感があり、その演奏は聴く人に喜びを与える」と温かく締めくくられています。

また、Steven Mead氏からも各作品について丁寧な講評をいただき、特に黛敏郎《木琴とバンドのための小協奏曲》は**「A super performance」**と高く評価していただきました。

さらに《A Road Less Travelled By》については、細部へのこだわりや入念な準備を感じ取っていただき、「30年以上日本を訪れてきた中で、日本のブラスバンドの水準がここまで高まり、この文化が日本に根付いたことをとても嬉しく思う」とのお言葉までいただきました。

世界を代表する評論家のお二人から、このような評価をいただけたことは、Immortal Brass Eternallyにとって大きな励みとなりました。

フォスターミュージックさまの記事はこちらからご覧いただけます。
暖かいお言葉の数々、誠にありがとうございました。

指揮者:河野一之としての所感

今回、WMCに出場させていただけることになり、過去の記憶をあらためて掘り起こしていました。

思い返したのは、2011年から2013年までの英国留学中に在籍していた、当時世界ランキング1位の、僕にとってかけがえのない存在であるコーリーバンドでの経験です。

2013年、コーリーバンドはヨーロピアン・ブラスバンド・チャンピオンシップで優勝し、まさに勢いに乗っていました。僕自身も、アジア人として初めてこのタイトルを獲得することができ、言葉では表せないほど嬉しかったことを今でも鮮明に覚えています。

しかし、そこはコーリーバンドでした。

優勝の余韻に浸っている時間など、ほとんどありません。

5月に欧州選手権が終わると、多忙なコンサートスケジュールをこなしながら、すぐに始まったのがWMC 2013へ向けたシーズンでした。

世界一のバンドにとって、欧州選手権の優勝は「ゴール」ではなく、「次の挑戦への通過点」に過ぎなかったのです。

当時のリハーサルや演奏の様子は、こちらからご覧いただけます。

まさか、自分が再びこのコンテストに出場できる日が来るとは。そして今度は、指揮者として日本のバンドを率いてこの舞台に挑むことになるとは、当時の僕は想像もしていませんでした。

さて、いよいよコンテストの話です。

今回のWMCでは、課題曲、30分間の自由プログラム、そしてWMCから依頼をいただいて構成した1時間のコンサートという、大きく3つのプログラムに取り組みました。

もちろん、その中で最も重要なのは、コンテストで審査対象となる課題曲自由プログラムです。

自由プログラムでは、自分たちの強みを最大限に生かせる作品を選ぶことができます。言い換えれば、ある程度はこちらで勝負の土俵を選ぶことができます。

一方で、課題曲はそうはいきません。

与えられた作品を深く理解し、その音楽を表現することは大前提です。その上で、その制約の中から**「僕たちの強みは何か」**を審査員に伝えなければなりません。

つまり、決められた作品を使って、自分たちの長所をどう表現するのか。

そこに、このコンテストの難しさがあり、同時に面白さがあるのです。

課題曲

Mirage(Jan de Haan)は2025年に作曲された作品です。その後、オランダの大会において、Provinciale Brassband Groningenが自由曲として取り上げた演奏がおそらく初演にあたります(ちなみに、この大会で同バンドは2位という結果でした)。

そして、その翌年に開催されたWMC 2026では、この作品がコンサート・ディビジョンの課題曲として選ばれました。

冒頭の美しくも憂いを帯びたユーフォニアム・ソロは、闇深い海に広がる水平線を思わせます。その遥か彼方に、蜃気楼のようにゆっくりと姿を現すのが、幽霊船「彷徨えるオランダ人(Flying Dutchman)」です。

その後、物語は水を感じさせる6/8拍子とともに動き始めます。幽霊船の冒険、自然の脅威、そしてその伝承を語り継ぐ語り部のようなソロパート。物語は徐々にクライマックスへ向かい、最後には終わることのない永遠の航海が描かれていきます。

指揮者としてこの作品に向き合う中で、自分が最も大切にしたのは「楽譜に忠実であること」でした。

普段から僕は、楽譜に書かれた表現 × 僕自身の音楽性や解釈 × バンドの音楽という掛け算の中で音楽を作っています。しかし今回は課題曲ということもあり、まずは楽譜に忠実であることを徹底し、その上で「河野×Immortal Brass Eternally」の音楽を表現したいと考えていました。

作品の構成自体は、これまで取り組んできた難曲と比べると、飛び抜けて複雑というわけではありません。一方で、緻密にあらゆる表現が書き込まれているタイプの作品とは異なり、奏者や指揮者に音楽づくりを委ねている部分が数多くありました。

だからこそ、この作品は非常に面白かったのです。

本番では、各ソリストが本当に素晴らしい演奏をしてくれました。中でも首席ユーフォニアム奏者の演奏は、多くの方々から絶賛されるほど見事なものでした。

そして、バンド全体のサウンドも、自分たちが目指してきたものをしっかりと表現することができたと思っています。

自由プログラム

自由プログラムでは、「英国ブラスバンドの伝統」「日本人作曲家」「そして未来へ向かう音楽」という3つを軸に選曲しました。

1曲目は、友人でもあるクリストファー・ボンド(Chris Bond)が、コーリーバンド創団140周年を記念して委嘱された**《Soaring the Heights》**です。

「高みへ」というタイトルを持つこの作品は、世界の舞台へ挑む僕たちの1曲目にふさわしいと感じ、選曲しました。また、曲中には首席奏者2名によるデュエットがあり、バンドの個性を表現できる作品でもあります。

2曲目は、エルガーの名曲**《Nimrod》**。

もともと大好きな作品で、もちろんオーケストラ版も素晴らしいのですが、金管バンド版ならではの響きにも大きな魅力があります。冒頭のソロ・コルネットをはじめ、IBEらしい温かく豊かなサウンドを表現することができたと思います。

続く**黛敏郎《木琴とバンドのための小協奏曲》**は、審査員をはじめ、多くの方々から特に高い評価をいただいた作品でした。

これはひとえにソリストの努力の賜物です。

世界大会という大舞台で最高の演奏をしてもらうため、本番までほぼ毎週欠かさず通し演奏を行い、舞台経験を積み重ねてもらいました。その成果は、僕の想像を遥かに超える素晴らしいパフォーマンスとして結実しました。

伴奏も決して容易な作品ではありませんでしたが、IBEのメンバー全員が見事に応えてくれたと思います。

演奏後のインタビューにて

そして自由曲の最後を飾ったのが、フィリップ・スパーク作曲**《A Road Less Travelled By》**です。

この作品は、もともと2020年ヨーロピアン・ブラスバンド・チャンピオンシップの課題曲として委嘱されましたが、パンデミックの影響により、2024年大会の課題曲として使用されました。

着想のもととなったのは、アメリカの詩人ロバート・フロストが1916年に発表した詩集**『A Road Not Taken(選ばれざる道)』**です。

人生には数え切れないほどの選択肢があります。その中で、多くの人が選ばない道を、自らの意思で歩んでいく――そんな人生観が描かれた詩です。

音楽そのものから詩の内容を直接感じ取ることは難しいかもしれませんが、作品は3楽章形式で構成されています。

第1楽章は、テンポが一貫して流れ続けるMoto Perpetuo。一定の推進力の中で、さまざまな音楽的表情が次々と展開していきます。

第2楽章Nocturneは、美しいヴィブラフォン・ソロから始まり、フリューゲルホルン、ユーフォニアム、コルネットとソロが受け継がれていきます。静寂の中のpppの世界から、大音量のファンファーレへと発展し、再現部へ戻る構成は圧巻です。

そして最終楽章Scherzo Finaleでは、6/8拍子を主体とした超絶技巧が次々と現れます。スパークらしい緻密な構成と、美しいメロディーが見事に融合した楽章です。

何度スコアを読み返しても、新たな発見があります。

本当に緻密で、僕が心から敬愛するフィリップ・スパークらしさが詰まった作品でした。

この作品は、作れば作るほど音楽が豊かになっていく一方で、少しでも準備不足の箇所があればすぐに露呈します。そして完成度が高まるほど、前後のバランスや全体の構成に対する要求も高くなっていきます。

だからこそ、本当に約1年間、この作品と向き合い続けることになりました。

最後に

団長と

今回のWMC遠征に向けて、メンバー一人ひとりが本当に多くのものを犠牲にしながら準備を続けてきました。

この遠征のために仕事を増やして費用を工面し、その忙しい日々の中でも練習を積み重ねる。そんなひたむきな努力を続けてきた奏者ばかりでした。

それでもリハーサルでは、その苦労を表に出すことはほとんどありませんでした。

ただ真摯に音楽と向き合い、金管バンドと向き合い、少しでも良い演奏を目指す。その姿勢に、指揮者として何度も胸を打たれました。

本当に素晴らしいメンバーです。

だからこそ、そんなみんなに最高の演奏をしてもらえるよう、自分も指揮者としてベストを尽くそう。その一心で、この約1年間を走り続けてきました。

そして、13年ぶりにWMCの舞台へ戻ることができたことで、英国留学時代から親しくしている世界中の友人たちとも再会することができました。それもまた、この遠征が僕に与えてくれた大きな財産です。

さて、この約半年間。

僕たちは、このWMCに向けて切磋琢磨を続けてきました。

一方で、ヨーロッパの上位バンドの多くは、WMCだけに照準を合わせた準備期間はおそらく1〜2か月ほどです。その限られた期間で完成度を高め、入賞、そして優勝を争っています。

対して僕たちは、約半年という長い時間をかけて準備を重ねました。それでも結果は10団体中9位。

この事実は素直に受け止めなければなりません。

しかし、その一歩は決して小さなものではありませんでした。

世界最高峰の舞台で、自分たちの現在地を知ることができたこと。そして、日本にいるだけでは決して得られなかった多くの課題と収穫を持ち帰ることができたこと。それこそが、今回の遠征で得た何より大きな財産だと思っています。

ひとまず、Immortal Brass EternallyのWMC遠征記はここで一区切りです。

僕もIBEも、またこれからも前へ進み続けます。

あー、本当に楽しかった。

大人になっても、こんなにも真剣に、一つの目標へ向かって仲間と挑戦できる。

そんな時間を過ごせた自分は、本当に幸せ者です。

ここまで応援してくださったすべての皆様に、心より感謝申し上げます。

本当にありがとうございました。

そしてこれからも、Immortal Brass Eternallyへの温かい応援を、どうぞよろしくお願いいたします。

我々の次の大きな出番は10/3のこちら

ぜひみなさまIBE、ならび関西の素晴らしいバンドさまがたの演奏をお楽しみに!

それでは今日もありがとうございました。

この記事が、これから世界を目指す日本の金管バンドや指揮者、奏者の何か一つでも参考になれば嬉しいです。

Thank you

Kazz

お知らせ

ブラスバンドキャンプin上尾

参加者大募集中です!Cory Band指揮者フィル・ハーパー氏と素敵な三日間をお過ごしいだたけます。要項や概要はこちらから

おまけ

ケルクレードで行ったコンサートの画質ガビガビライヴ映像が公開されています。現地の空気少しでも感じていただければ幸いです。


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