【BCM 001】第109信:公開データで企業を測る ② ― 7つの指標
与信管理事務局(BCM)の001だ。
前信(第108信)で、上場企業の公開データを使ってスコアリングモデルを構築する目的と方針を述べた。
今信では、スコアリングに使う7つの指標を説明する。
本論①:三つの生命線との対応
第二幕で述べた「三つの生命線」を覚えているだろうか。
資本的背景:企業の体力、どれだけの損失に耐えられるか
収益力:企業の稼ぐ力、利益を生み出せるか
担保力:資産の裏付け、万が一の時に回収できるか
スコアリングの指標も、この三つの生命線に沿って設計した。
安定性指標(資本的背景)
売上高:事業の規模を測る
自己資本額:資本の厚みを測る
自己資本比率:資本構成の健全性を測る
収益性指標(収益力)
償却前利益:キャッシュを生む力を測る
償却前利益率:売上に対する収益効率を測る
財務健全性指標(担保力)
借入依存度:借入への依存の程度を測る
固定長期適合率:長期資金の調達バランスを測る
本論②:安定性指標 ― 企業の体力を測る
売上高は、事業の規模を示す最も基本的な指標だ。売上が大きいほど、取引先や販路が分散されている可能性が高く、特定の取引先への依存リスクが小さい。ただし、売上が大きいだけでは安全とは言えない。後述する収益性や財務健全性と組み合わせて初めて意味を持つ。
自己資本額(純資産)は、企業の資本の厚みを示す。自己資本が大きいほど、損失を吸収する余力がある。赤字が続いても、自己資本が厚ければ、すぐには資金繰りに行き詰まらない。逆に、自己資本がマイナス(債務超過)の企業は、理論上、全ての資産を売却しても負債を返済できない状態だ。
自己資本比率は、総資産に占める自己資本の割合だ。自己資本額だけでは、企業の規模との対比が見えない。自己資本が100億円あっても、総資産が1兆円なら自己資本比率は1%に過ぎない。自己資本比率が低い企業は、借入金への依存が高く、金利上昇や業績悪化に対する耐性が低い。
本論③:収益性指標 ― キャッシュを生む力を測る
償却前利益(営業利益+減価償却費)を採用した理由は、営業利益だけでは企業の実際のキャッシュ創出力を測れないからだ。
減価償却費は、会計上は費用として計上されるが、実際にはキャッシュの流出を伴わない。設備投資が大きい製造業は、減価償却費が大きくなるため、営業利益が低く見えることがある。しかし、実際にはキャッシュはしっかり稼いでいる。
償却前利益を使うことで、業種の違いによる歪みを軽減できる。製造業もサービス業も、同じ土俵で比較しやすくなる。
償却前利益率は、売上高に対する償却前利益の割合だ。金額だけでは規模の違いを反映できない。償却前利益が1億円でも、売上が10億円の企業と1,000億円の企業では、意味が全く違う。利益率を見ることで、事業の効率性を測る。
本論④:財務健全性指標 ― 資金調達の安全度を測る
借入依存度(有利子負債÷総資産×100)は、企業がどれだけ借入金に頼っているかを示す。有利子負債には、短期借入金、長期借入金、1年内返済予定の長期借入金を含む。
借入依存度が高い企業は、業績が悪化した時に、元利金の返済負担が重くなる。金利が上昇すれば、支払利息の増加が利益を圧迫する。景気後退期に最も脆弱になるのは、借入依存度が高い企業だ。
固定長期適合率(固定資産÷(自己資本+固定負債)×100)は、長期的な資金調達のバランスを示す。
固定資産は、土地・建物・設備など、長期間にわたって使用する資産だ。これらの資産は、長期的な資金(自己資本や長期借入金)で賄われるべきだ。短期借入金で固定資産を取得すると、借入の返済期限が来るたびに、借り換えが必要になる。借り換えに失敗すれば、資金繰りが行き詰まる。
固定長期適合率が100%を超えている企業は、固定資産の一部を短期資金で賄っていることを意味する。これは資金調達のバランスが崩れている状態だ。
本論⑤:GC注記と重要事象等 ― 有報が発する警報
7つの財務指標に加えて、もう一つ、有価証券報告書から抽出できる重要な情報がある。
継続企業の前提に関する注記(GC注記)と重要事象等だ。
GC注記は、企業自身が「事業を継続できるかどうかに重大な疑義がある」と認めた記載だ。監査法人のチェックを経た上で、有価証券報告書に明記される。これは、財務指標の数字以上に直接的な危険信号だ。
重要事象等は、GC注記の手前の段階にあたる。継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象が存在することを、事業リスクの中で開示している。GC注記には至っていないが、警戒すべき状態だ。
今回のスコアリングでは、これらの情報もXBRLデータから自動的に抽出し、減点項目として組み込んだ。詳細は第112信で述べる。
本論⑥:7指標で見えること、見えないこと
この7つの指標とGC関連情報は、企業の財務状態を多角的に捉えるが、万能ではない。
見えること:
企業の規模感(売上高・自己資本額)
資本構成の健全性(自己資本比率)
キャッシュの創出力(償却前利益・利益率)
借入への依存度と資金調達のバランス
見えないこと:
経営者の資質
業界の将来性
取引先との関係性
不正会計の可能性
キャッシュ・フローの詳細
この7指標について、ベテランの審査担当者の方々からは「項目が少ない」「この指標も入れるべきだ」等のご意見があるだろう。001もこの7つで全て完璧だと言うつもりは毛頭ない。
ただし、全く役に立たないサンプルとして投稿しているつもりもない。第二幕の「ざっくり分析」と同じ考え方だ。必要十分な項目として、実務でも機能しうるレベルでトライしている。
スコアリングは、第一段階のスクリーニングだ。スコアが高ければ安心ということではない。スコアが低い企業に注意を向け、より深い分析に進むためのきっかけとして使う。
次信では、データの取得方法、特にEDINET APIを使った有価証券報告書からの財務データ抽出について述べる。
BCM(Bureau of Credit Management)
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