見出し画像

給排水・空調設備が止まるとき、ケアは止まる[3-4]

電源の次に考えるべき、設備停止とケア継続の関係

断水が3日間続いたら、あなたの施設のケアはどうなりますか。

前回の記事では、非常用電源について考えました。「非常用電源があること」と「必要な機能が維持できること」は別であるという話です。

では、仮に電源が維持できたとしたら、それだけで安心できるのでしょうか。答えは必ずしもそうではありません。

医療や福祉の現場では、電気だけで機能しているものは多くありません。水が必要な設備があります。空調が必要な設備があります。そして、それらは単独ではなく互いにつながっています。

普段は目立たない設備ほど、止まった時に初めて存在の大きさが見えてきます。

今回は、電源の次に考えたい「給排水・空調設備とケア継続の関係」について考えてみたいと思います。


給水停止が医療・福祉ケアに与える直接的影響

水が止まると聞くと、まず飲料水を思い浮かべることが多いかもしれません。もちろんそれも重要です。

しかし医療・福祉の現場では、水は飲むためだけに存在しているわけではありません。手洗い、清潔保持、入浴支援、トイレ、医療処置、洗濯など、多くの場面で日常的に使用されています。

医療専門誌の分析によれば、断水時に医療機関で影響を受ける業務は、診察や手術、透析、医療機器の洗浄・滅菌、感染症対策といった診療行為だけでなく、食事やトイレなど患者の生活面、さらには空調やボイラーといった施設管理面にまで及びます。だからこそ災害拠点病院の指定要件では、少なくとも3日分の病院機能を維持できる水の確保が求められています。

水が止まることは、「不便になる」という話ではなく、「ケアそのものが制限される」という話に近いのです。

あなたの施設は、水が止まった時にどの業務から制限を受けるか、把握できているでしょうか。


排水設備の被災が見落とされやすい理由

給水停止は比較的イメージしやすいものです。一方で、排水設備については見落とされることがあります。

しかし実際には、排水が機能しなければ給水も十分に使えなくなります。水を流せない。トイレが使用できない。衛生環境が維持できない。こうした問題は施設全体へ広がっていきます。

国土交通省の大規模建築物向けの防災対策検討でも、下水道施設が損壊して排水できない場合の対応として、施設内の湧水槽を一時的に汚水槽として転用する方法や、あらかじめ緊急汚水槽を整備しておく方法が示されています。目安として、一人あたり1日34リットル(飲用水4リットル+雑用水30リットル)の3日分程度が必要とされています。

排水設備は普段意識する機会が少ないため、災害時も後回しになりやすい特徴があります。設備管理では「見えている設備」だけでなく、「支えている設備」に目を向けることも大切です。

あなたの施設では、排水が止まった場合の代替手段を検討したことがあるでしょうか。


空調停止が利用者の健康・安全に与える影響

空調停止も、「少し不便になる」という程度で考えられがちな設備の一つです。しかし医療・福祉施設では、それ以上の意味を持っています。

室温管理が難しくなることで、利用者の身体状態へ影響することがあります。換気環境が変わることで、感染対策上の課題が生じることもあります。さらに設備や医療機器の中には、一定の環境条件を前提としているものもあります。

環境省・厚生労働省など関係府省庁が連名で出している事務連絡でも、停電等により冷房器具が使用できない状況では、平常時以上の熱中症対策が必要であると注意喚起されています。夏季の災害では、停電の長期化がそのまま熱中症リスクの上昇に直結します。

空調は快適性だけの問題ではありません。安全性や継続性にも関わる設備です。

あなたの施設は、空調が止まった場合の室温管理策を、平時から検討しているでしょうか。


設備間の連動関係をBCPに組み込む視点

設備は、それぞれ独立して動いているように見えます。しかし実際には多くが連動しています。

停電によって給水設備が止まる。給水停止によって衛生環境へ影響する。空調停止によって室温管理が難しくなる。その結果、ケア内容や業務量にも変化が生まれます。

逆に言えば、電源が確保できれば設備の連動も保たれます。令和6年の台風10号で最大37.5時間の停電を経験したある介護保険施設では、非常用自家発電設備によって居室エアコンの空調管理と、吸引が必要な入所者への医療的ケアを継続できたことが、内閣府の実効性検証事例として報告されています。国土交通省の技術検討でも、非常用発電機と給排水ポンプを連動させることで、7日分の給排水機能を維持できたケーススタディが示されています。

重要なのは、「この設備が止まったら何が起きるか」を線で考えることです。BCPとは設備一覧を並べることではなく、機能のつながりを理解することなのかもしれません。

あなたの施設では、電源・給排水・空調が一体で設計されているでしょうか。


電源、給排水、空調。どれも単独ではなく、互いにつながりながら施設を支えています。だからこそ、一つだけ対策しても十分とは限りません。大切なのは、設備そのものを見ることではなく、設備が支えているケアを見ることです。利用者支援を継続するために何が必要なのか——その視点から見た時、設備の見え方は変わってきます。


次回

次回は、施設の「更新計画(長寿命化計画)」と災害リスクの関係を取り上げます。

老朽化した設備ほど、災害時に機能を維持できなくなるリスクが高いという現実があります。中長期の更新計画に、どうBCPの視点を組み込むかを見ていきます。


参考資料

本記事の内容は、以下の公的機関等による一次資料に基づいています。

・ライフライン確保~水の確保~|特集:病院の防災とBCP策定に必要な医療ガスの知識(日本医療ガス学会誌)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/medicalgases/23/1/23_23/_pdf/-char/ja

・大規模建築物の給排水設備等の防災対策に関する基準の検討|国土交通省(平成21年度建築基準整備促進補助金事業)
https://www.mlit.go.jp/common/000995375.pdf

・今夏の災害発生時における熱中症対策について|環境省・内閣府・消防庁・厚生労働省・気象庁 連名事務連絡
https://www.mhlw.go.jp/content/001686899.pdf

・社会福祉施設等の耐災害性強化対策(非常用自家発電設備対策)効果発揮事例|内閣府(国土強靱化)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/kouhou/koukahakkijirei/pdf/r6jirei/r6jirei9-5.pdf