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施設によって、BCPの「難しさ」は違う―介護・障害福祉・医療を分ける制度的背景[4-1]

BCPのひな形は、どの施設にも使えるものだと思っていませんか。

「BCP(業務継続計画)とは、災害や感染症などの非常事態が発生したときに、事業を継続するための計画である」

この説明自体は、介護施設でも、障害福祉サービス事業所でも、病院でも大きくは変わりません。

しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。同じ「BCP」という言葉を使っていても、施設種別によって、策定を求められる制度的な背景は大きく異なります。

介護施設や障害福祉サービス事業所には、未策定の場合に基本報酬の減算という形で、明確な制度的圧力があります。一方、病院のBCP策定は、法律上は努力義務にとどまり、義務化の対象は災害拠点病院に限られています。

つまり、「BCPを作らなければならない」という言葉の背後にある構造が、施設によって違うのです。

この違いを理解しないまま、他の施設のひな形を自施設に当てはめると、計画は作れても、なぜその施設にそのBCPが必要なのかが曖昧になります。そして、曖昧な目的で作られたBCPは、非常時に動きません。


介護・障害福祉には「減算」という制度的な圧力がある

介護施設・事業所では、令和6年度介護報酬改定における経過措置の終了にともない、BCP未策定は基本報酬の減算対象となりました。障害福祉サービス事業所についても、根拠法や報酬体系は異なりますが、同様に令和6年度から未策定減算の仕組みが設けられています。

ここで重要なのは、減算の是非を論じることではありません。制度上、BCP策定が事業所の運営や経営に直接的な影響を与える仕組みになっているということです。

この構造は、BCP策定を強力に促す力になります。一方で、別の難しさも生まれます。制度上の要件を満たすために、まず「文書の形を整えること」自体が目的になってしまう可能性があるからです。

「BCPを作ったか」「必要な項目が入っているか」「研修や訓練を実施したか」——こうした確認はもちろん必要です。しかし、BCPの本質は、書類を完成させることではありません。災害や感染症が発生したとき、限られた人員と資源の中で、何を優先し、どの機能を維持し、どの業務を一時的に縮小するのかを決めておくことです。

あなたの施設のBCPは、制度上の要件を満たすための「提出文書」で終わっていないでしょうか。

病院のBCPは「診療機能の継続」という固有の課題を抱える

では、病院はどうでしょうか。

病院における防災・災害対策としてのBCP策定は、法律上は努力義務が基本です。ただし、災害拠点病院については、厚生労働省が平成29年に定めた「災害拠点病院指定要件の一部改正」により、BCP策定が義務化されています。

介護施設や障害福祉サービス事業所では、利用者の「生活を継続すること」が大きなテーマになります。一方、病院では、災害発生時に「診療機能をどこまで維持・発揮するのか」が中心的な課題になります。

ここで重要なのが、「病院BCP」と「避難確保計画」の目的を混同しないことです。病院BCPの目的は「診療機能の継続」です。これに対して、水防法等に基づく避難確保計画の目的は、「患者等の安全確保と迅速な避難行動」です。どちらも「災害から人を守る」ための計画ですが、目指す方向は同じではありません。

電力が失われた場合、医療機器はどう維持するのか。職員が参集できない場合、どの診療機能を優先するのか。手術や検査、入院患者への医療提供をどのように調整するのか。病院のBCPには、避難だけでは解決できない医療継続の課題があります。

すべての病院が、災害拠点病院と同じ役割を担っているわけではありません。地域における役割、診療機能、病床機能、患者の特性、職員体制。それぞれが異なる以上、必要なBCPの形もまた、一施設ごとに違うはずです。

では、自施設は「何を継続するため」にBCPを作っているのでしょうか。


制度の違いは、BCPの優劣ではなく出発点の違いである

介護、障害福祉、医療。この三つの領域を並べてみると、BCPに対する制度的な背景やアプローチには明確な違いがあります。

介護・障害福祉では、基本報酬の減算という強い仕組みによって全体への普及が図られました。病院では、災害拠点病院への義務付けなど、役割や機能に応じたアプローチがとられています。

この違いを見て、「どちらが厳しい」「どちらが優れている」と考える必要はありません。重要なのは、それぞれが異なる制度的な出発点に立っているということです。制度的な圧力が強いからといって、そのBCPが必ず非常時に機能するわけではありません。反対に、努力義務の領域が残っているからといって、BCPが不要ということでもありません。

BCPの実効性を左右するのは、制度上の位置づけだけではなく、その施設が地域における自分たちの役割を正しく理解し、非常時に何を継続するのかを具体的に設計できているかどうかです。

介護施設のBCPを病院に持ち込んでも、医療継続のシビアな判断には対応できません。病院のBCPを介護施設に持ち込んでも、利用者の生活継続という日々の課題に十分対応できるとは限りません。同じ「事業継続」という言葉を使っていても、継続すべき対象や守るべき生活・医療の形が違うからです。

介護施設には介護施設の難しさがあります。障害福祉サービス事業所には、障害福祉サービス事業所の難しさがあります。病院には、病院固有の難しさがあります。それぞれの制度的背景と役割を理解して初めて、「なぜ、この施設にはこのBCPが必要なのか」が見えてきます。


次回

次回は、病院・診療所のBCPが抱える、より固有の課題について深く考えます。

病院には、災害を想定したBCPだけでなく、サイバー攻撃を想定したBCPなど、目的の異なる複数の計画が同時に存在します。「病院のBCP」を1冊の計画として捉えることの限界について考えます。


📚参考資料
・厚生労働省「業務継続計画ガイドライン(介護施設・事業所向け)」
・厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(令和3年3月)
・厚生労働省「医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成指針」(平成29年度厚生労働科学研究費補助金)
・厚生労働省「医療機関のBCPの考え方と課題」(令和6年度業務継続計画(BCP)策定研修事業)