平成30年7月豪雨(西日本豪雨)が示した、“長期化する災害”へのBCPの限界[2-3]
初動対応の先に、継続期・復旧期の設計はあるか
2018年7月、西日本を中心に記録的な豪雨が広域にわたって発生しました。
河川の氾濫、土砂災害、浸水被害が広い範囲で発生し、道路や交通網、ライフラインにも大きな影響が及びました。
この災害の特徴は、被害の大きさだけではありません。復旧までの時間が長く、生活や医療・福祉機能への影響が長期化したことにありました。
災害対応というと、多くの場合は発災直後の混乱が注目されます。避難、安否確認、初動体制の立ち上げ。確かにそれらは重要です。
しかし、この災害が私たちに突きつけたのは「初動を乗り越えた後」の問題でした。
災害は発生した瞬間だけが災害ではありません。むしろ時間の経過とともに、別の課題が表面化してくることがあります。
初動対応は乗り越えたが、継続期・復旧期に機能不全が顕在化した構造
発災直後の数時間から数日は、多くの組織が高い緊張感の中で対応します。
安否確認を行い、被害状況を確認し、必要な対応を進める。非常時だからこそ組織全体が集中力を高め、通常以上の力を発揮する場面もあります。
しかし問題は、その後でした。
数日、あるいはそれ以上に影響が続くと、当初の体制では維持できなくなります。備蓄は減少し、応援体制にも限界が出始めます。通常業務と災害対応が重なり、負荷は徐々に蓄積していきます。
水道施設の被害を調査した報告では、施設の機能停止・処理水量の減量が10日以上続いた事例が半数を超え、30日以上続いた事例も12件報告されています。
人も組織も短距離走はできても、長距離走の設計がなければ継続できません。BCPが初動対応中心になっていると、この段階で機能不全が見え始めます。
あなたの施設のBCPは、発災から72時間を超えた先の体制まで描けているでしょうか。
インフラ途絶の長期化が医療・福祉ケアの継続に与えた累積的影響
停電や断水が数時間で終わる場合と、数日から数週間に及ぶ場合では意味が大きく異なります。
当初は対応できていたとしても、長期化すると影響は積み重なります。
空調管理、食事提供、衛生管理、洗濯、入浴、医療機器運用など、医療・福祉の現場では多くの機能が日常的に連動しています。一つの機能停止だけなら対応できても、複数の制限が長期間重なると負担は増えていきます。
実際に、断水が1ヶ月近く続いた地域や、停電が3ヶ月以上に及んだ地域も報告されています。
さらに、停電区域内で自家発電設備を備えていた施設のうち、浸水や土石流によって自家発電そのものが稼働しなかった事例も確認されています。
「非常用電源があるから大丈夫」という前提自体が、長期化と複合災害の前では崩れることがあるということです。
災害は一瞬で終わる出来事ではなく、日常機能が少しずつ削られていく過程でもあります。
複数のライフラインが同時に長期化したとき、あなたの施設の機能はどこまで持ちこたえられるでしょうか。
要配慮者への影響が際立った構造
この豪雨では、被害が特定の層に集中する傾向も明らかになりました。
ある県の検証報告では、浸水被害が大きかった地域の死者のうち、65歳以上が9割近くを占め、自宅で亡くなった方が8割を超えていたことが示されています。
さらに、要介護・要支援認定を受けていた方が死者全体の3分の1以上、身体障害のある方が4分の1近くを占め、いずれも人口全体の割合と比べて著しく高いことも報告されています。
これは偶然の偏りではありません。避難の判断や行動に時間を要する人ほど、浸水や土砂災害の進行に追いつけなかったということです。
医療・福祉施設は、まさにこうした方々を日常的に支えている場所です。施設の継続だけでなく、施設が抱える一人ひとりの避難をどう成立させるかという視点が問われます。
あなたの施設では、自力での避難が難しい入所者・利用者を、誰が、どの順番で、どこまで移動させる計画になっているでしょうか。
「災害が終わった後」のBCP設計が抜けている組織の共通パターン
多くのBCPは、「発災時に何をするか」を中心に作られています。しかし、「災害後に何を続けるか」という視点は意外と抜け落ちています。
いつ通常体制へ戻すのか。どの業務を優先するのか。職員支援をどう行うのか。疲弊した体制をどう立て直すのか。
「復旧」は自然に起こるものではありません。復旧にも設計が必要です。
災害が終わったと思った時期から、新たな課題が始まることがあります。初動対応だけを設計している組織ほど、その段階で負荷が集中してしまいます。
あなたの施設のBCPには、「復旧期」という時間軸そのものが存在しているでしょうか。
西日本豪雨が示したのは、BCPは発災直後だけを対象にしたものではないということでした。
最初の数時間を乗り切ることだけではなく、数日後、数週間後、その先まで組織をどう維持するか。その設計まで含めて初めて、本当の意味での事業継続になります。
長期化する断水。100日を超えて続いた停電。要配慮者に偏った被害。
災害は突然始まります。
しかしその影響は、静かに、長く、そして不平等に続いていきます。
次回
次回は「北海道胆振東部地震(2018年)が医療・福祉施設に突きつけたもの」について整理していきます。
道内ほぼ全域が停電するブラックアウトが発生したこの災害は、「非常用電源があれば大丈夫」という前提そのものを問い直す契機になりました。
あなたの施設のBCPは、3週間後も動き続けられる設計になっていますか?
参考資料
本記事の内容は、以下の公的機関による一次資料に基づいています。
・平成30年7月豪雨における水道施設の被害状況について|厚生労働省・日本水道協会
https://www.mlit.go.jp/common/830006642.pdf
・平成30年7月豪雨(西日本豪雨)検証報告書|内閣府・岡山県
https://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/okawamahonpen.pdf
