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非常用電源の“本当の実力”を問う[3-3]

設備があることと、機能することは別の話である

あなたの施設の非常用電源は、何時間動かせますか。

この質問に対して、「非常用発電機は設置しているので大丈夫です」と答える方は少なくないかもしれません。

もちろん、非常用電源があること自体は重要です。しかし、「設置していること」と「必要な時に必要な機能を維持できること」は同じではありません。

第2シリーズで取り上げた北海道胆振東部地震のブラックアウトでも、「設備があることと機能することは別」という現実が見えてきました。

停電そのものが問題だったのではありません。問題だったのは、「どの程度の停電を想定していたのか」「何を守る設計になっていたのか」「実際に動かせる状態だったのか」という部分でした。

非常用電源は、設置した時点で完成する設備ではありません。何を支え、どう使い、どう維持するかまで含めて初めて機能します。

今回は施設管理の視点から、その"本当の実力"について考えてみたいと思います。


非常用電源の「想定時間」の落とし穴

非常用電源について話す時、「何時間稼働できるか」という表現がよく使われます。しかし実際には、その数字だけでは判断できません。

燃料はどの程度備蓄されているのか。負荷が増えた時の消費量はどう変わるのか。補給手段は確保されているのか。想定している稼働時間は、理論上の数値なのか、実運用を考慮した数値なのか。

厚生労働省の補助事業として日本総合研究所が実施した調査(高齢者施設への非常用自家発電設備等の導入に関する調査研究)によると、非常用自家発電設備を導入している高齢者施設のうち、想定稼働時間が「6時間未満」と回答した施設が4割を超えています。24時間以上の稼働を想定している施設は全体の4分の1程度にとどまり、長時間の稼働までを見込んでいる施設は多くありません。

「何時間動くか」だけではなく、「その時間をどう維持するか」まで考える必要があります。

あなたの施設の非常用電源は、備蓄燃料と補給計画をセットで把握できているでしょうか。


「対象範囲」の設計が曖昧な組織の共通パターン

非常用電源があるから安心。そう考えたくなる気持ちはよく分かります。

しかし、そこで一度確認したいことがあります。その電源は、何を守るための設備でしょうか。照明でしょうか。医療機器でしょうか。空調でしょうか。通信設備でしょうか。

実際には、すべてを同時に維持できるとは限りません。設備容量には限界があります。先の調査でも、非常用電源の主な用途は照明や非常用コンセントが中心で、エレベーターや給水ポンプ、空調まで対応できている施設は、発電機の種類や規格によって大きな差がありました。

そのため、本来は「何を優先するか」が整理されている必要があります。設備一覧は存在していても、「止めてもよいもの」と「止められないもの」の整理が十分でない場面は少なくありません。

非常用電源は電気を作る設備ではなく、優先順位を支える設備でもあります。

あなたの施設の非常用電源は、何を守るために動く設計になっているでしょうか。


切替訓練・始動確認が形骸化している問題

設備は、設置しているだけでは機能を保証できません。日常的に使用しない設備ほど、その傾向があります。

非常用電源も同じです。始動確認はしていても、実際の切替運用まで確認できていないことがあります。訓練は実施していても、手順確認だけになっていることがあります。

先の厚生労働省の調査事業では、非常用自家発電設備を導入している施設のうち、過去10年間で実際に災害時に活用した経験がある施設は3割程度にとどまっていました。活用時の記録には、点検不足により正常に作動しなかった、試運転をしていなかったためにエンジンがかかりにくかった、といった声も寄せられています。

災害時には、「動くはず」が最も危険な言葉になることがあります。訓練は成功確認の場ではなく、弱点発見の場です。設備は、動くことを確認して初めて安心につながります。

あなたの施設の非常用電源は、実際に切り替えて動かす訓練まで行っているでしょうか。


非常用電源とBCPの優先順位設計を連動させる視点

非常用電源は設備の話に見えます。しかし本質的には、BCPの話です。

どの業務を継続するのか。何を優先するのか。どこまでを維持目標とするのか。これが決まっていなければ、非常用電源の使い方も決まりません。

国土交通省が示す官庁施設の機能確保に関する指針でも、施設管理者が非常時優先業務の内容に応じて必要な設備機器を具体的に抽出し、その稼働に必要十分な容量を確保することが求められています。非常用電源の容量設計は、BCPで定めた優先業務があって初めて成立するものなのです。

逆に言えば、BCPの優先順位が明確になっていれば、設備側の設計も見えやすくなります。必要な容量はどれくらいか。優先設備は何か。代替手段はあるか。設備だけを見ても答えは出ず、運用と組み合わせて初めて意味を持ちます。

あなたの施設では、BCPの優先業務と非常用電源の設計はつながっているでしょうか。

非常用電源の価値は、設備が存在することでは決まりません。何を支え、どこまで維持し、どう使うのか——そこまで設計されて初めて、本来の力を発揮します。もし明日、停電が起きた時、自施設の非常用電源は何を守るために動くのか。その問いに答えられるかどうかが、本当の備えなのかもしれません。


次回

次回は、給排水・空調設備を取り上げます。

非常用電源が確保されていても、給排水や空調が止まればケアは継続できません。電源以外のライフライン設備が止まった時に何が起きるのか、施設管理の視点から見ていきます。


参考資料

本記事の内容は、以下の公的機関による一次資料に基づいています。

・高齢者施設への非常用自家発電設備等の導入に関する調査研究事業 報告書|一般財団法人日本総合研究所(令和元年度老人保健事業推進費等補助金)
https://www.jri.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/2019hijouyou.pdf

・業務継続のための官庁施設の機能確保に関する指針(平成28年改定)|国土交通省大臣官房官庁営繕部設備・環境課
https://www.mlit.go.jp/common/001335917.pdf

・介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000749543.pdf