老朽設備の災害リスクを、どう評価するか[3-6]
老朽設備の災害リスクを、どう評価するか
あなたの施設で、最も古い設備はどれですか。
この問いに対して、多くの施設管理担当者はすぐに思い浮かぶ設備があるかもしれません。そして、その次にこう考えることも少なくないと思います。
「古いが今のところ問題なく動いている」
確かに、設備は動いている限り日常では大きな問題として見えにくいものです。しかし、「まだ動いている」という状態が、必ずしも安心材料ではありません。
前回の記事では、長寿命化計画と災害リスクの関係について考えました。設備更新はコストの問題ではなく、非常時の継続性をどう確保するかというBCPの設計課題でもあるという話です。
今回はそこから一歩進めて、「老朽設備をどうリスクとして見るか」を考えてみたいと思います。老朽設備は予算の問題ではありません。リスクをどう把握し、どう設計するかという問題です。
老朽設備が災害時に止まりやすい3つの構造的理由
老朽設備が災害時に弱くなる理由は、単純に「古いから」ではありません。そこには構造的な要因があります。
一つ目は、設備が持っていた余裕が少しずつ失われていくことです。通常運転では問題なく見えていても、停電復旧時の負荷変化や急激な運転条件の変化に耐える余力が小さくなっていることがあります。以前の記事で取り上げた台風第15号の事例でも、20年以上経過した非常用自家発電設備で燃料配管や冷却水配管の漏れが発生していたことが、国土交通省の調査で報告されています。
二つ目は、部品調達の問題です。古い設備ほど交換部品の確保に時間がかかる場合があります。故障そのものより、復旧期間の長期化が問題になることもあります。
三つ目は点検の限界です。日常点検では異常がなくても、内部劣化や突発的な不具合までは見えないことがあります。
災害は新しい問題を作るだけでなく、見えなかった弱点を一気に表面化させます。
あなたの施設の設備は、通常運転の余力と非常時の負荷変化、両方を考慮した点検になっているでしょうか。
「使用年数」だけでは老朽リスクは評価できない理由
設備の老朽化というと、使用年数を基準に考えることが多いかもしれません。しかし実際には、それだけでは十分とは言えません。
同じ年数でも、使用条件によって状態は大きく変わります。稼働頻度が高い設備。負荷変動が大きい設備。厳しい環境条件で運用されている設備。逆に、適切な点検や更新が継続されている設備。こうした違いによって、同じ年数でも状態には差が生まれます。
国土交通省が示す設備の劣化診断の考え方でも、単純な経過年数だけでなく、定期点検の記録、故障・事故履歴、部品交換記録、さらには塩害や腐食性ガスといった設置環境の記録までを総合的に評価することが求められています。年数は劣化を判断する一つの要素にすぎず、それだけで状態を決めつけることはできません。
設備の年齢だけを見ると、本当に見るべきものを見落とすことがあります。
あなたの施設の設備台帳には、使用年数だけでなく、点検履歴や稼働環境の情報も記録されているでしょうか。
施設管理担当者が老朽設備を災害リスクとして評価するための視点
老朽設備を評価する時は、「古いか新しいか」ではなく、「止まったらどうなるか」という視点が重要になります。実務では、次の3つを整理すると見えやすくなることがあります。
一つ目は影響度です。その設備が停止した場合、施設全体へどれほど影響するか。二つ目は代替可能性です。他設備で代用できるのか、運用変更で対応できるのか。三つ目は復旧難易度です。修理までの時間や対応の複雑さはどうか。
国土交通省の官庁施設向け耐震基準でも、建築設備の耐震安全性を「甲類」と「乙類」の2段階に分け、甲類(災害応急対策活動に必要な施設)には大地震動後も大きな補修なく機能を継続できることを、乙類には人命安全と二次災害防止までを目標として求める、という重要度に応じた考え方が採用されています。設備の重要度によって求める性能の水準を変える、という発想そのものが参考になります。
設備の古さを見るのではなく、停止した時の影響を見ることが大切です。
あなたの施設では、設備ごとに「止まった時の影響度」を整理したことがあるでしょうか。
老朽設備リスク評価をBCP・長寿命化計画に組み込む実務的な方法
老朽設備の評価は、一度実施して終わりではありません。設備更新、用途変更、修繕、運用変更によって、施設の状況は少しずつ変化していきます。
だからこそ、長寿命化計画とBCPを別々に動かさないことが重要になります。前回の記事でも触れたように、設備更新とリスク評価を連動させることで、計画の精度は高まります。
国土交通省の試算によれば、不具合が生じてから対応する「事後保全」ではなく、劣化状況を踏まえて計画的に修繕する「予防保全」へ転換することで、将来の維持管理・更新費用が長期的に約5割抑制できるとされています。老朽設備のリスク評価は、コスト面から見ても後回しにする理由にはなりません。
設備更新時に、「停止した場合の影響」も同時に確認する。設備点検時に、「代替手段があるか」も見直す。BCP改訂時に、「復旧優先順位」を確認する。こうした小さな仕組みが積み重なると、設備管理は維持管理だけではなく、防災設計へ近づいていきます。
あなたの施設では、設備更新とBCPの見直しが、同じ仕組みの中で連動しているでしょうか。
老朽設備は、古くなった設備の話ではありません。問題は年数ではなく、その設備が施設機能へ与える影響です。「まだ動いている」という言葉は安心材料にも聞こえますが、災害時には、その言葉の裏側にあるリスクが一気に表面化することがあります。大切なのは、老朽化を避けることではなく、老朽化を見える形にし、備えとして設計することです。
施設を知る人間が、備えを設計する。
次回
次回は、「建物構造と避難計画の整合性を、誰が確認するのか」を取り上げます。
設備の話から一歩進み、建物そのものの構造と、そこに紐づく避難計画がきちんと整合しているかを、施設管理の視点から見ていきます。
参考資料
本記事の内容は、以下の公的機関による一次資料に基づいています。
・非常用自家発電設備の確実な動作について|国土交通省住宅局建築指導課
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001330094.pdf
・電気通信施設劣化診断要領(案)参考資料(電力設備編)|国土交通省 電気通信室
https://www.mlit.go.jp/tec/it/asset/H1811rekkasindanyouryousankou_denryoku.pdf
・官庁施設の総合耐震・対津波計画基準|国土交通省大臣官房官庁営繕部
https://www.mlit.go.jp/common/001157883.pdf
・国土交通白書 2021(インフラ老朽化対策・予防保全への転換)|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/html/n1312000.html
