どうあれば
自分のしたことに、こんなに感謝されたのも初めてで、こんなに褒められたのも初めてで。
とてもうれしく感じる自分が否応なくなく自覚されて。
それが、故郷での生き様を否定するように思えて。
どうしようもない堕落のように感じられて。
感情の整理がつかなくて。
――別の世界のことだから、などと、つれないことは言いっこなしだ。言ったろう? 小生はもう、君を一人にするつもりはないのだ。君がこの世界にとどまることをどうしても承服できないのなら、小生が君の世界に行こう。君を苦しめ、悲しませるすべてのものを、この太刀でことごとく斬り捨てよう。
そうまで言ってくれた総十郎の暖かさが、無数の歓声と笑顔の中で、フィンの裡に小さな花を咲かせた。
――小官は、しあわせになっても、いいのでありますか……?
弱くても。覚悟がなくても。意気地がなくても。守ってもらっても。
カイン人と戦わなくても。
――愛されて、いいのでありますか?
そう考えることに、まだ抵抗があった。自分の在り方が、根本から変わってゆくことが怖かった。
「~~~~~~ッ!」
その怖さにたまらなくなって、フィンは顔を真っ赤にしながら踵を返し、脱兎のごとく群衆の暖かな視線から逃げ出した。
とりあえず一番体がでかい烈火の後ろに隠れる。背中にしがみつく。
「んん~?」
烈火は「何だコイツ」みたいな目で背後に目を向けたが、やがて邪悪な笑みを浮かべた。
「オラァッ」
「ひゃっ!?」
ひょいとフィンの首根っこをつまんで持ち上げると、強制的に自分の肩に座らせた。
「あわっ、やだやだ、下ろしてほしいであります!」
「ことわァる!! なんかテメーをいじめたほうが楽しいことに気づいたぜゲヘヘヘヘ!!」
じたばたする両足を右腕でがっちり固定。不可解なカリスマ補正で抗いがたいシャーリィ殿下とは異なり、烈火に対しては物理的に抵抗不可能である。
すると、小さな姫君がぽてぽてと近づいてきて、わたしもわたしもと烈火の腕を引っ張った。
「あァ? しゃーねえなオイ」
というわけで両肩にオウムめいて二人を座らせる烈火であった。

にこにこと群衆に愛想を振り撒くシャーリィとは対照的に、フィンは真っ赤になって縮こまっている。
「キョーキョキョキョ!!!! ねえどんな気持ち? 大勢のエルフに『照れ屋さんなのね。キャッ☆ カワイイ♪」みたいな生暖かい注目されてどんな気持ち? ねえねえどんな気持ち!?」
「うぐぐぅ……! レッカどのひどいであります……!」
「フィンくん。」
総十郎は、少し嬉しげにフィンを見上げていた。
「恥ずべきことなどなにもない。この歓声も、拍手も、笑顔も、君が受け取って然るべきものだ。」
そう言われて、フィンはさらに縮こまってしまうのだった。
「あぁ……! 照れて小さくなってるフィンどの尊い……!」
「テメーはいいから鼻血ふけよ!!」
「……なんか、その、変な連中ね、じぃや」
「で、ありますな。シュネービッチェン卿もかなり異界の者に感化されておるようで。まったく、貴族の淑女が人前で鼻血などと嘆かわしい……後で説教が必要ですな」
ともかく、賑やかな歓声に包まれながら、一行は王城へと向かうのであった。
●
王城は、琥珀色のドームに覆われた中心に位置している。
幽骨の組織が緊密に絡み合い、ひとつの尖塔を形作っていた。床から無数の螺旋構造が上方へ伸び、途中で融合し合いながら太い円柱となってそびえ立っている。
蒼い燐光に包まれたそれは、場所によっては空色、あるいは乳白色と、色彩と濃淡に豊かな変化があり、複雑な組成の鉱脈のごとき模様がうねっていた。
頂上では再び円柱が螺旋構造にほどけ、樹冠を広げている。
「ふああ、おっきいであります……」
「幽美であるな。この世界は本当に、驚異に満ちてゐる。」
「入り口はこっち。ついてきて」
シャイファが渦巻く根のひとつに触れると、気泡が弾けるようにして入口が開いた。
触れた部分から、水面に広がる輪のごとく、音もなく口を開けたのだ。
騎士たちの鎧や剣と同じく、精神に感応して瞬時に変形するようだった。
現れたのは、滑らかな質感の蒼い部屋だ。幽骨が変形して、腰掛けやテーブルを形作っている。十数人が一堂に会して寛げる広さだった。
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