〈死の巫姫〉の肖像 #5
〈「やっぱり助けを呼ぶわ! 近くにアーブラスがいるはずだし、」〉
〈「えええー、いやぁ、それはちょっと……」〉
〈「メンツなんて気にしてる場合じゃないでしょ!」〉
〈「うーん、でもなぁ……」〉
〈怪我してるのは自分だと言うのに、彼は助けを求めることを渋り続けた。〉
〈業を煮やしたわたしは、スカートを押さえるのを片手だけに任せ、もう片方の手を抱きしめる彼の腕から外に出し、縄に向けた。〉
〈「もう、わかった。縄を切るわ。着地に備えてて」〉
〈「え、どうやって?」〉
〈答えず、わたしは「えい」と念じた。〉
〈死の力の修練は何十年と続けてきた。狭い範囲に死の力を集中させることももはや簡単だ。〉
〈縄は見る見るうちに水分を失い、朽ちてささくれ立っていった。〉
〈やがて――千切れる。〉
〈「おわっ!」〉
〈驚いたのか、わたしを庇ったのか、彼の腕がぎゅっと締まる。〉
〈直後、軽い衝撃。〉
〈「ふぐっ!」〉
〈「ちょ、ちょっと大丈夫!?」〉
〈「な、なんとか……」〉
〈そして、野花のように微笑んで、私の顔を覗き込んでくる。〉
〈「君こそ、どこも痛いところはない?」〉
〈お、落ち着け! こんなことでどきどきするんじゃないわたし!〉
〈思わず彼の胸板に額を押し当てて顔を隠す。〉
〈「ええ……平気」〉
〈「そっかー、良かったー」〉
〈わたしを抱きしめたまま身を起こし、地面に腰をあずけた。〉
〈そして、あろうことか年上で王族のわたしの頭を撫でてきたのだ! 不敬な!〉
〈「ははは、今日はいい日だなぁ」〉
〈のほほんと、言う。あんまりにも実感の込もった、しみじみと幸福を噛みしめるような口調だったので、なんだか怒る気も失せてしまった。〉
〈獣獲りの罠に引っかかって足首を捻挫した挙句に背中を打った直後に言うことがそれか!〉
〈「ところで、いまの何? 手を伸ばして気合いを込めると縄が千切れたけど」〉
〈屈託なく聞いてくる。〉
〈これが、どこか放っておけない見習い騎士、トアン・ラナンキュラスとの出会いだった。〉
●
シャーリィは、薄く目を開けた。
自らの額に現れていた〈哀しみよりも藍きもの〉が、淡い粒子となって霧散してゆくのを、微かに感じた。これで、二度目だ。
少し、どきどきした。神統器が見せた夢は、かつてこの花冠の所有者だった彼女が感じた胸の甘い高まりを、まるで我がことのように追体験させてきた。
これは自分の気持ちではないとわかっていても。
ぷくー、と頬が膨らむ。
ちょっと無神経じゃないの? と自らの神統器に不満を抱く。
わたしだって、そういうの、まだなのに。
だけど――同時に、〈哀しみよりも藍きもの〉は、何か重大な意味を込めて、自らの中に蓄積されてきた彼女の記憶を垣間見せているのだという確信が沸いた。
実際、他人事とは思えなかった。この自分と同じく、魔力に不足を抱え、子を成す望みを絶たれた女の子。
――自分は、どうするのか?
――どう、するのか?
答えは出ない。だからこそ、名も知らぬ彼女の物語に、最後まで付き合おうと思った。
かつてこの森に生きた〈死の巫姫〉が、どのような結論に至ったのか。
それを、見届けよう。
かすかにただよってくる、母と姉の柔らかい寝息を聞きながら、シャーリィはゆっくりと目を閉じた。
力を込めてシャラウに抱き着くと、滑らかな腕が肩を包み込んでくれた。
こちらもオススメ!
いいなと思ったら応援しよう!
小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。