赦し
「シャラウ陛下!」
何とかしてあげたかった。カプセルの中で、ははうえが泣いているのを、なすすべもなく見ていたあの時を、繰り返したくはなかったから。
「誰かのせいにしたっていいのでありますよ!」
だから、そう言った。自分に対しては決して許さないであろう言葉を。
しかし、他者に対して、許した。
「心が痛くて、痛くて、とても受け止められないのなら、誰かのせいにしたっていいのでありますよ! そうまでして心を殺し続けたら、あなたがあんまり救われない!」
「そんなこと……できません……わたしは親である前に、女である前に、女王なのです……」
顔をそらそうとする女王の肩を強引に掴み、こちらへ向かせる。
普段ならば決してしないような乱暴な行いだが、そうしなければならないと思った。
――ソーチャンどの。
あの人のようにありたいから。あの人のように、うまくはいかないだろうけども、それでも。
「……故郷で、たくさん死んだのであります。小官の大好きな人たちは、みんなみんな死んでしまった。自分には、いくら憎んでもまったく咎められるいわれのない敵がいたのであります。だけど、それでも、とても苦しくて、哀しかった……」
シャラウをじっと見る。真正面から。
「もしも、それすらできなかったら……大好きな人たちの死を、誰のせいにもできないとしたら……そんなの、心が壊れてしまうであります……!」
自分は何かを受け取ったのだという想い。死から繋がる何かを託されたのだという願い。
「死んでしまった大好きな人に、もうなにもしてあげられないなんて、そんなの哀しすぎる……小官は、そんなの信じないであります。彼らは、彼女らは、必ずどこかで我々を見ているのであります!!」
それは、原初の信仰であった。人が最初に抱いた、救いの形であった。
「怒っていいのであります! あなたからシャロン殿下を奪っていった運命を、不条理を、憎んでいいのでありますよ!!」
「う……」
女王の喉がひくついた。
目尻の雫が震え、決壊する。
「うぅ、う、うううぅぅぅ……っ!」
胸に抱きしめられた。それは包み込むというよりも、縋りつくような抱擁だった。
「ぅぅぅぅぅうううぁ、うぁぁぁぁぁぁ……っ!」
フィンは、目を閉じて抱きしめ返した。
この人は、フィンとは比較にならないほど長く生き、たくさんのことを判断し、時には切り捨て、王国を守ってきた。聡明で、慈悲深い人だ。だけど、大切な人を喪ったときにどう気持ちを整理すればいいのか、ということについては、びっくりするほど弱く幼かった。
「なんで……なんで……! シャロン……あなたはなんにも悪くないのに……なんでぇ……っ!」
「……教えてほしいであります。陛下。シャロン殿下は、どうして?」
しばらくすすり泣いていたシャラウだったが、やがてフィンを抱き上げて膝の上に乗せた。
「シャロンは、自ら命を絶ちました……わたしはそれに、手を差し伸べることができませんでした……娘よりも、秩序を守ることを優先したのです……」
そして、オブスキュア王家にかつて起きた、哀しみの根源が語られた。
●
シャロン・ジュード・オブスキュアは、今から約四百年前に生を享けた。
夢見るような優しい瞳の、引っ込み思案な娘だった。生まれつき体が弱く、外を走り回ることはあまりできない子供であった。
女王シャラウと王夫ギデオン、そしてすべての国民から深く愛された。
人前に出ると、父や母の背後に隠れがちな娘であった。そんな姿も可愛いと、エルフたちは皆シャロンが大好きだった。
歌と、夜と、物語が好きな娘であった。彼女の透明な歌声は、夜の澄んだ空気によく沁み渡り、エルフに伝わる多彩な民族伝承を切なく物語った。
奇跡の歌、と呼ばれていた。
シャロンの歌を聴いた者は皆、ぐっすりと眠りに落ち、穏やかで満ち足りた夢を見た。森の禽獣らも、彼女の声に魅せられて、都市部に寄ってくるほどであった。
獰猛な剣歯狼の群れですら、シャロンの前ではくうくうと寝息を立てるばかり。
やがて生まれるであろうシャロンの娘は、毎晩この子守歌が聞けて幸せであろうなと、皆誉めそやした。
そして二百年の時をかけてすくすくと育ち、やがては貴族の青年と、恋の歌を唄い合うようになった。
騎士としては少々頼りないが、純朴で心優しい青年であった。
シャロンは、はにかみながらも、幸福そうであった。
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