誰かに甘えることも、寂しがることさえも
烈火は意に介さず、フィンにデコピンをかます。
「んでー? クソガキは相変わらずクソザコナメクジモードなわけ? はぁーやだやだ、繊細アピールですか? くっさ!!!!」
きっと睨む。初めて烈火に対して本気で怒りを覚えた。
瞬間、口の端に逆チョップを当てた烈火がずいと身を寄せてきた。
「てめーしかいねーわ」
――え。
すぐに烈火はフィンに向き直り、力の込もってないデコピンを繰り返しながら言った。
「とりあえず一息ついたら俺とロリコンとモヒ……シャラウが城にカチ込みかけっから。てめーの出番はねーな!! ざまあwwwざまあwww」
そして立ち上がる。
「ま、ガキはガキらしくそこでメソメソと貧乳に泣きついてな!!!! 俺らが戻ってくるまでにオムツを卒業しとけよ!!!!」
言いたいことだけ言って立ち去っていった。
次に、リーネがやってきた。
「殿下……フィンどののご様子は?」
無言で首を振る。
「うぅっ」
リーネの目尻に透明な滴が盛り上がり、ほどなく決壊した。ちょっとぎょっとするような量だった。
「フィンどの……ぐすっ、元気出してくださいよぉ……」
彼女はいつも素直だ。自分の感情に嘘がつけない。そして、自分が抱いた感情に対して嫌悪することもない。
シャーリィはそんなリーネが大好きで、そして少しうらやましかった。
それにしても景気よく泣くな。まるで滝である。
「いったいどうしてしまったのでしょう……こんなの普通じゃないですよ……」
――本当に、何があったのだろう。
何をどうすれば、一人の男の子の心をここまで完膚なきまでに壊せるのだろう。
「フィンどの……目を開けてください……あなたのそんな姿を見たら、きっとみんな哀しみます……〈道化師〉に何か言われたのでしょうか? それとも……ギデオンどのに?」
はっとする。
父上だ。
それ以外あり得ない。
そして何故、縁もゆかりもなかったはずのフィンに、ギデオンはひどい言葉を投げかけたのか。
敵だったから? 違う。シャーリィの知るギデオンは、間違っても敵だからといって必要以上の悪意を向けるような人物ではない。
つまり――怨恨があったから。
では何を恨んだのか?
――父上が、心の底から激怒するようなこと。
そんなもの、シャーリィにとってはひとつしか思い浮かばなかった。
すべてが繋がった。フィンの心で今何が起こっているのか、もはや瞭然だった
そして、彼が何を必要としているのかも。
シャーリィはリーネに身を寄せ、ありがとう、と囁いた。
「えっ?」
――リーネのおかげで、気づけた。
それから、彼女にひとつ用を頼む。
「……そんなもの、どうされるのです?」
不思議そうなリーネに、にっこりと笑い返した。
首を傾げながら去ってゆくリーネとすれ違うように、総十郎がやってきた。
眉目を憂いに煙らせ、しばし無言でフィンの枕元に正座する。
「……フィンくんは、」
言いさして、止まる。かぶりをふる。
「違うな。小生の問題である。シャーリィ殿下、正直に語ろう。最初、小生はフィンくんの世界の大人たちに反感をもってゐた。このような十歳の少年に軍務と献身を強いるなど、まっとうな大人のやることではない、と。」
シャーリィはじっと耳を傾ける。
「無論、文化も状況もまったく異なる異世界の話である。何も知らぬ部外者が、知ったような口をきくべきではないと思い、努めてその気持ちには蓋をしてきた。だが――フィンくん自身の口から、故郷の世界の様子を聞いたとき、小生はいさゝか認識を改めた。」
そして、彼はゆっくりと息を吸う。
シャーリィはかすかに目を見開いた。常に優雅であったこの青年が、少し緊張しているように見えたのだ。
「恐らく――彼の世界の人々は……セツ防衛機構なる組織は……、」
言葉をまた切った。フィンを見やる。
「……こゝでは障りがあるな。殿下、少々場所を移そう。」
なぜか切迫したものを感じた。よくわからないながらも、シャーリィはうなずいた。
フィンの頭をひと撫でしてから、総十郎について立ち上がった。
フィンのもとに戻ってきた時、シャーリィは泣いていた。
震える唇で、どうして、ひどい、どうして、こんな、ひどい――そう繰り返しながら。
フィンの隣に横たわり、小さな体を背中から抱きしめた。
顔を合わせることができなかったから。
だけど、抱きしめずにはいられなかったから。
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