しゅげー!!!!
――シャラウ陛下に、可愛い編みぐるみを贈ろう。
我ながらいい考えだと、フィンはしみじみとうなずく。
哀しみが忘れられないのなら、哀しみ以外のもので彼女の胸を満たすのだ。
「はぁ……俺ぁ一体なにやってんだろうな……」
「レッカどの! 毛糸が絡まっちゃったであります!」
「一旦かぎから糸を外せ! ひとつ前の目からやり直し! あと貧乳テメーさっきから何やってんだ! 目をもっと詰めろ! スッカスカになんぞ! ……ったくもーなんで俺ガキどものお守りなんかやってんだよぜってぇおかしいだろうが……ハァー、パイオツもみしだきてえー」
と言いつつ、烈火の手元は素早く細やかに動いて編み物が徐々に作り上がってゆく。
フィンとシャーリィはその様子に目を丸くしながら、言われたとおりに実践してみる。
木製のかぎ針を細かく動かして、毛糸をひっかけ、くぐらせ、引っ張り、締める。思ったよりもずっと複雑で精緻な構造だった。なんか互い違いに絡ませればいいのかと思っていたが、これはけっこう難物である。
でも、こういう地道な作業は性に合っている。故郷では、のんびり編み物をするなんて考えられなかった。
こつこつと積み上げて、その成果が少しずつ目の前に現れてくるのが、すごく楽しい。
やがて、袋状に編みあがる。そこに綿を詰めることで、ふわふわモフモフの球体となるのだ。
次いでシャーリィもモフモフ球を完成させた。
「……おう、まぁ、はじめてにしちゃあそれなりにさまになってんじゃねえか」
ぞんざいな誉め言葉に、フィンは照れ笑いを浮かべる。
「じゃまー、とりあえずモチーフを決めるか。貧乳、おめーのかーちゃんなにが好きなわけ?」
問われて、唇に人差し指を当ててしばし思案していたシャーリィだったが、やがて隣のフィンに顔を近づけた。
「ひんっ! ……え、ええと、たまに小鳥と戯れたりしているそうであります」
「そうか……あのモヒカン小鳥と戯れるのか……そうか……」
「いやモヒカンじゃないでありますからね?」
「モヒカンが、慈愛の笑みを浮かべて、指先にとまった小鳥を撫でたりするのか……」
「だからモヒカンじゃないでありますよ? ふゃんっ! ……ええと、それから、カエルなんかもお気に入りみたいであります。雨の日に、石の上にうずくまっているカエルを、にこにこしながらツンツンしているところがたまに目撃されるようであります」
「カエルてお前……親子ともども趣味が特殊すぎだろ……」
まぁ、鳥よりはカエルのほうが編みぐるみは作り易かろうというわけで、モチーフはカエルに決定したのであった。
●
それから、フィンとシャーリィは数日かけてカエルのデザインに頭を捻った。
擬人化すべきかリアル路線かで意見が分かれるが、雨の日に実際にカエルを見て決めようということになる。
二人で都市の近くの泉に足を運び、水生植物の葉の上にちょこんとうずくまるライトグリーンの両生類を目の当たりにすると、あぁ、これはリアル路線でいくべきだな、とシャーリィの意見を認めた。
大きくつぶらな瞳と、ふてぶてしい表情、丸っこい体に、ちまっとした四肢。
想像よりもずっと可愛らしい。擬人化など必要ないのだ。
「確かにこれは特に意味もなくツンツンしたくなるでありますね」
シャーリィは実感を込めてしきりにうなずいた。
大きな蓮の葉を傘代わりにして、二人はカエルの前にしゃがみ込む。しばし囁きを交わし、具体的なデザインのアイディアを交換し合った。
誰かのために、何かを成す。責務のためではなく、そうしたいからそうするのだ。
そのようなことに一生懸命になっている自分に、フィンは驚く。
献身以外のものが、魂に満ちようとしている。
好むと、好まざるとに関わらず。
それが、少し、怖かった。この戦いが終わり、オブスキュアに平穏が戻ってきた時、果たして自分は責務を第一に考えることができるのだろうか?
できる、はずだ。
強いて自分にそう言い聞かした。
「はいてめえら注目ー。これよりカエルぷりちー編みぐるみの実作に入るぞクソガキども。これよりはわずかなミスも許されん! 口でクソを垂れる前と後にサーを付けろ! わかったかウジムシ!」
「サー! イエッサー!」
「フザけるな!! タマ落としたか!!」
「サー!! イエッサー!!」
「タマ(二才、メス)が可哀想とか思わねえのかこの外道が!!!!」
「……あの、そろそろ本題に入ってほしいのでありますが……」
というわけでデザイン案に従って烈火が編み図を作成。それに従ってフィンとシャーリィは黙々と毛糸を編んだ。
両手で抱っこできるサイズのものを目指したので、数日掛かりの仕事となりそうである。
意外にも親身に監督してくれる烈火に対して、しかしお礼を言うのは控えておいた。この人はまっすぐ好意や感謝を向けられるとリアクションがとりずらいタチらしく、不用意に「いつもありがとうでありますレッカどの!」などと言おうものならそっぽを向いて監督してくれなくなることは目に見えていた。お礼を言うのは完成した後にすべきだ。
しかし、気になることはある。
「……それにしてもレッカどの」
「あんだよ」
「いったいなにゆえに編み物が得意になってしまったのでありますか」
「なんで俺はさっきから咎めるような口調で問い詰められなきゃならんのだろう……畜生、キャラじゃねえってか!!!!」
「正直に言うと、はい」
「ふん。あれは確か五年前。冬の初めの日のことだった……」
「あ、長くなりそうならいいであります」
「聞けよ!!!! 聞いてるフリくらいしろよ!!!!」
「シャーリィ殿下、替えの毛糸どーぞでありますっ」
「お前たまにすっげードSだよね!!!!」
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