世紀末ぷりちー黙示録
数日が経った。
フィンは、今日まで悲運の女王に対して何ができるのかを考え続け、結局のところ何も思い浮かばなかったので、総十郎の「方策」に従って誰かに相談することにした。
「レッカどのレッカどのー、起きてほしいでありますー」
朝。すっきりと目が覚めたフィンは、早速盛大ないびきをかいている烈火のもとに向かった。
揺すって起こそうとするが、まったく反応がない。
「レッカどのー」
「むぐぅ……むぐぅ……」
「朝でありますよー。おなかすいたでありますー」
「ンゴゴ……ンゴゴ……」
「むー、おーきーてーでーあーりーまーすー!」
「むにゃむにゃッ!!!! もう食べられないよッ!!!!」
「いや絶対起きてるでありますよね!?」
「もう食べられないデブゥ!!!!」
「なんで言い直したでありますか?」
「むにゃむにゃ……クソうっさいデブゥ……今すぐ黙らないとブッ殺すデブゥ……」
「聞こえてるでありますね!? これ絶対もう起きてるでありますね!?」
「超寝てるデブゥ……昨日はエルフ女子どもと遅くまでお楽しみ(意味深)だったデブゥ……あいつら俺が目隠しを外せないからって好き勝手しすぎデブゥ……ちっくしょう今度こそ主導権握ってやんぞオラァッッ!!!!」
なんか勝手にテンション上がってきたらしく、烈火の巨体が跳ね起きた。
掛布団が跳ねのけられ、鋼のごとく鍛え抜かれた上半身が露わになる。
「おおー」
フィンは感嘆の息をつく。悠大で強靭なその肉体は、いつ見ても尊敬と憧憬を禁じ得ない。いつか体を鍛えて自分も、と決意を新たにするフィンであった。
ちなみに、錬金改造兵の筋肉は、発達したそばから多次元的に折りたたまれ、異相圧縮される。いくら鍛えようが見た目はマッシヴにならないという哀しい仕様を、フィンは知らない。
知らぬが仏。
「ふぁぁぁぁ~ッと。あーねみ。クソ。あんだよクソガキ。俺は昼過ぎまで惰眠を貪る予定なんだよ空気嫁バカ野郎殺すぞ」
頭をボリボリかきながらひとしきり毒づくと、
「……で、何」
一応聞いてくれるのだった。
「えっと、女の人の慰めかたを教えてほしいであります」
「あぁ? 相手の言うこと全肯定して誉めまくれ。以上」
布団をかぶりかける烈火。
「いやいやいやいやいや、そういう適当なの通用しない人でありますよ!」
「めんどくさくなったらキスで口を塞げ。以上」
「そんなことしたらコウノトリさんが赤ちゃんを運んできてしまうでありますよ! 真面目に聞いてほしいであります!」
「ったくめんどくせーな。誰だよ」
「シャラウ陛下であります。ご自分のことをすごく責めてるであります。全肯定なんかしたら逆に追い詰めてしまうのであります」
「そーいうのはロリコンに相談しろよ何で俺なんだよ!」
「だってソーチャンどのは王国中を駆け回っていろんな儀式を施していて、すごく忙しそうであります。お邪魔をしてはいけないのであります。それにレッカどの、常日頃「女のことは俺にまかせろーばりばりー」って言ってたであります」
「あのーなんか贈り物でもしたらいんじゃないスかね?」
「おくりもの? たとえば?」
「いや知らねえよ何でもいいよぶっちゃけお前が贈ったら何でも喜ばれるよわりとガチでそんじゃおやすみッ!!!!」
「えぇ……」
再び布団をひっかぶる烈火。
そこへ、背後からぽてぽてと足音が近づいてきた。振り返ると、シャーリィが部屋に入って来ていた。このところ、フィンたちが暮らすツリーハウスにお泊りしているのであった。
「あ、おはようございますシャーリィ殿下!」
にっこり笑って、おはよう、と唇が動いた。
見ると、彼女は体の前に大きなものを抱えていた。イノシシをモチーフにした、ファンシーな編みぐるみである。やたら太い眉と精悍な目つきがギャップを生んでいた。
めっちゃでかい。両腕で抱っこしなくては持ち上げられないサイズだった。
「殿下、それは?」
にんまりと笑う。ちょっと無邪気ないじわるさがにじみ出るような笑みだった。
「ってちょっと待てテメェェェェェェェェェェッッ!!!!」
絶叫とともに烈火が跳ね起きる!!
「おま、おま、部屋から持ち出すなっつってんだろうがァァァァァァッッ!!!!」
叫ぶ烈火を前に、シャーリィはぎゅう~~~っと編みぐるみを抱きしめ、首を振った。
そしてフィンを手招きする。なんだかわからないが、それに従うことにした。
ほんのり色づいた唇が近づいてきて、フィンは緊張に身を固くする。
――これ、レッカくんが作ってくれたの。
「ふぁっ!?」
湿った囁き声が耳孔を愛撫して、その内容の突飛さとともに、フィンに声を上げさせた。
烈火が? 作った? え? 何を?
「おいィ? 貧乳この野郎? 何吹き込んでんだか知らねえがそれは人前に出すなってお兄さんと約束したでしょうがァァァァァァァァッッ!!!!」
「レッカどの、このイノシシさん、作ったのでありますか?」
「んだコラァ!! 俺が編みぐるみ作れたらおかしいかこの野郎!!!!」
「いやいやいやいや、それはおかしいでありますよレッカどの……」
「やべー深刻な顔で否定しやがったコイツ。あーもーだからヤなんだよ貧乳この野郎バラしやがってあとで覚えてろこの野郎馬鹿野郎」
そして、なんでまた烈火がシャーリィに編みぐるみなんぞ作ったのか、その事情が姫君の口より囁かれた。
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