たとえ裏切ろうと、あなたを見捨てない
「いつもおいしいごはん作ってくれてありがとうでありますーッ!!」
「うっせえ!! たまにゃテメーが作れこの高燃費ショタ野郎が!!!!」
クスクス笑うフィンを見て、本当に変わったなと思う。
そして――少年はその二人を見る。
ギデオン・ダーバーヴィルズを。
闇の英雄と対峙する、近代的な装いの少年を。
あれは、〈道化師〉、か?
「〈道化師〉。何をしている。さっさとそこの不愉快な大男の動きを止めろ」
「ギデオン……悪いけどそれはできない。僕はフィンくんの方につくよ」
その言葉に、ギデオンは怒りよりも衝撃を受けたようだった。
「なんだと? どういうことだ」
驚くべきことに、妄執と憎悪の化身は困惑していた。
〈道化師〉の、裏切り。
それだけはないと、信じ込んでいたのか。
〈道化師〉はギデオンを友達と呼んでいたが、その思いは一方通行ではなく、二人の間には確たる友誼があったのか。
「私を……見捨てるのか?」
「そんなことは絶対にしない。いいかい、ギデオン、絶対にだ」
「ならばなぜだ!! お前は私に必ず森を焼き滅ぼすと約束したではないか!! 答えよ〈道化師〉!!」
「トウマ」
「なに!?」
「トウマ・クジミヤ。僕の名前だよ、ギデオン。こっちで呼んでくれないか」
「そんなことは今どうでもいいだろう!!」
「今じゃなければどうでもよくないのかな? 一応その程度には興味を持ってもらえていたようだね。安心したよ」
「……トウマ・クジミヤ。何を考えている」
「あなたを救うこと。今はそれ以外何も考えていないさ」
「救うだと? 私にとっての救いとは森の破滅だけだ」
「それは……違うでありますよ……」
フィンが、二人の間に立った。
「……なんだ、お前。懲りずにまた私の前に立つ気か。呆れるな。殺されないとわからないと見える」
「フィン」
「なに?」
「ぼくの名前はフィン・インペトゥスでありますっ!」
「知ったことか。もういいよお前。疾く死ね」
無造作に踏み込み、無造作に斬りかかった。総十郎が思わず止める機を逸するほどの、まるで「意」を発することのない動きであった。
ギデオンにとって、フィンをこの世から排除することは、もはや殺意を掻き立てるほどのこともない些事なのか。
だが。
「――ッ」
水銀のごとき滑らかな斬撃の動作が、途中でぴたりと止まった。
ギデオンの前に、立ち塞がった者がいたから。
「シャー……リィ……ッ」
愕然と、それだけを絞り出す。
ふるふるふる、と、エルフの姫君は首を振った。黄金の髪が、さらりと煌めいた。
すぐ目の前に迫っている黒刃など、まるで目に入っていない。ただ父親の顔だけを見ていた。
そして、歩みだす。ギデオンに向けて。
「ぅ……ぁ……」
慌てて剣を引き、一歩後ずさるギデオン。
「なぜだ……シャーリィ……なぜその少年を庇う……」
すると姫君は、フィンの手を引き、その耳に何事かを吹き込んだ。
「っ! 『この子は父上と同じだから』……と言っているであります」
「同じ……だと……?」
「そう、同じなんだ、ギデオン」
トウマが、言葉を引き継ぐ。
「あなたも、フィンくんも、そして僕も。同じなんだよ。同じ呪いを背負わされている」
「なにを……言っている……」
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