〈死の巫姫〉の肖像 #6
シャーリィ・ジュード・オブスキュアは、幽骨の寝台でまどろんでいる。
午睡のときは必ずリーネに抱きついて寝ると決めていた。
その頭に精霊力の粒子が集まり、やがて花冠を形成する。
神統器、〈哀しみよりも藍きもの〉。
その夜、シャーリィは夢を見た。
いつか見た、誰かの夢の続きを。
●
〈いや、別に、ダメな男が好きと言うわけじゃないのだ。〉
〈好きになった奴が、たまたまダメな男だったというだけなのだ。〉
〈この二つの違いは大きいと、声を大にして主張したい。別に主張する相手もいないけど。〉
〈そりゃあ、わたしだって強くてキリッとしててカッコいい殿方に憧れる気持ちはあるけど、そういう人って人生における恋の比率が少ないような気がしてしまう。〉
〈それよりなにより、わたしが王族だと知ったあとも、トアンの態度にまったく変化がなかったのだ。〉
〈「殿下でんかー! 見て見て僕元服したよー!」〉
〈「だからいちいち子供みたいに抱き上げないでよもう! ほんと失礼なやつ!」〉
〈「あれ、殿下ちょっと重くなった?」〉
〈「ぶっとばすわよ!?」〉
〈父上とアーブラスが見ている前で、本当に遠慮を知らないと言うか、肝が太いと言うか。〉
〈ギデオン・ダーバーヴィルズと、アーブラス・シュネービッチェンは、エルフの戦士としては史上最高峰とも言われている勇者の中の勇者だ。〉
〈そんな二人に見守られながら育ったわたしは、はっきりいって近づくには敷居の高すぎる女の子だと言う自覚はある。〉
〈だけどトアンのやつ、そういう機微に疎いと言うか、まったく気にしてないのか、ぜんぜん物怖じしないのだ。〉
〈……正直、楽しかった。〉
〈トアンは、知っているのだ。〉
〈出会った時、わたしは彼に死の力のことを打ち明けた。とても誤魔化せないと思ったし、どうせ信じるはずがないとも思っていたから。〉
〈だけど、彼は信じた。信じてくれた。〉
〈そのうえで、わたしに触れることを躊躇わないのだ。〉
〈なんというか、もう、なんというか!〉
〈どれだけわたしのことが好きなんだこいつ!〉
〈そんなある日、わたしは父上と一緒に水辺を散歩していた。〉
〈口にも顔にも出さないが、父上はけっこう寂しがり屋な所がある。〉
〈このごろトアンのお守りばかりしていたので、そろそろ父上を構ってあげないと可哀想だと思ったのだ。〉
〈父上は、あまり口数の多い方ではない。それに、冷然とした美貌の持ち主で、見た目はちょっと威圧感を覚えてしまう。〉
〈だけど、さりげなくわたしに歩調を合わせてくれたり、時折気づかうようにこちらを見やったり。そういう仕草の数々を見るに、父上の不器用な愛の深さのようなものを感じる。トアンとは別の意味で、可愛らしい人だ。……なんて言うときっと機嫌を損ねてしまうだろうから言わないけど。〉
〈「このあたりでよかろう」〉
〈「うん」〉
〈父上とわたしは、岸辺の岩に腰を降ろし、そろって釣竿を取り出した。〉
〈餌はそのへんで捕まえた虫だ。〉
〈そのまま二人でじっと魚を待つ。〉
〈鳥の声と、枝葉のざわめきが、静かに親子を包み込む。遥か上の翠蓋から差し込んでくる光が、目に見える筋となって湖面に降り注いでいた。〉
〈「……■■■■」〉
〈「なに?」〉
〈父上は、続く言葉を少しためらっているようだった。〉
〈「トアンとは、その、仲良くしているようだな」〉
〈「……まぁ、あっちからまとわりついてくるからね」〉
〈「物怖じをしない若者だ」〉
〈「ほんと。こっちは年上で王族なのに、ちょっとは敬意を払ってほしいものね」〉
〈「まぁ、そこは追々、だな」〉
〈しばし沈黙。〉
〈「……シャラウは」〉
〈「うん」〉
〈「百五十歳のときに私と結婚し、その年のうちにお前を生んでいる」〉
〈「ふうん?」〉
〈「これは王族としてはかなり早いが――私も彼女も、どうにもせっかちだったと言うべきか」〉
〈「それはそのー、父上が幼児趣味だったとかそういう話?」〉
〈「いや、それはない。なぜなら今のシャラウの方が魅力的に見えるからだ」〉
〈「そ、そう……」〉
〈「愛した女(ひと)がたまたま幼い見た目だったというだけだな。この愛は、きっと永劫変わらぬと私は思う」〉
〈またしても沈黙。〉
〈思わず頭を掻く。〉
〈父親の惚気なんぞ聞かされてわたしにどういう反応をしろと言うのだ。〉
〈風が吹いてきて、微かに湖面を揺らしていった。〉
〈釣り針は動かない。〉
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