もうあなたに愛されることも、必要とされることもない
「――それで、こゝからは小生がお尋ねしたい。」
組んだ両手で口元を隠し、総十郎は少し声を低めて言う。
「あら、なにかしら?」
「〈鉄仮面〉の正体について。」
女王の左右で、シャーリィとシャイファが息を呑んだ。
「正体……? 幽鬼王なのではなくて?」
「いえ、そういうことではなく――御身の姫君らはすでに気づいておられるようだ。」
まるで刃物を突き付けられたように、二人の王女は身をすくませる。
「そ、それ、は……」
「シャイファ殿下、お聞かせ願えないだろうか。あなたは〈鉄仮面〉がかつて何者であったのか、すでに感づいておられるご様子。」
「う、ぅう……」
両手を膝の上に置き、何かに耐えるように俯くシャイファ。
しかしやがて決然と顔を上げた。
「――ギデオン・ダーバーヴィルズ」
「え……?」
シャラウは一瞬聞きそびれたかのように怪訝な目を横に向け、シャーリィはびくりと肩を震わせる。
「それが、〈鉄仮面〉のかつての名よ」
声は震え、目尻に涙が盛り上がる。
「シャイファ……まぁ、この子は、急に何を言ってるの?」
困ったように笑いながら、娘の肩に触れる女王。
「戦いつづきで疲れてるのね。ここはもういいから、あなたは少し休みなさい?」
「母上」
「それにしても、冗談でもそんなこと言ってはダメ。命を終えた御霊は幽骨の中に溶け、永遠に安らうさだめよ。わかっているでしょう?」
「母上、聞いてっ!」
シャイファは涙を振り乱し、母の両肩を掴んだ。
しがみつくように。すがりつくように。
「こんなこと、冗談で言うわけないじゃない! あの声、あの剣技、あの体格――わからないわけ、ないじゃない……っ!」
痛みに耐えるように、目を閉ざす。透明な雫が溢れだす。
「実の、父なんだから……!」
「な……にを……」
「あなたの、夫なんだから!!」
瞬間、女王の瞳から、光が失せた。
「い、や……」
震える両手が、ゆっくりと顔を覆う。
「ひどいわ……シャイファ……なんでそんなこと言うの……? いやよ……いや……そんなこと、あるわけない……」
「母上、しっかりして! 〈鉄仮面〉は転移の門を開いたわ。そんなことができるのはオブスキュアのエルフだけ。それに――あたしを、庇ったの」
「え……」
「オークどもの親玉に殺されそうになってたあたしを、守ったのよ! ただのアンデッドがそんなことする!? あれは父上よ!! じゃなきゃ説明がつかない!!」
強く毅然とした声に、シャラウは息を呑む。
「守っ、た……?」
「肉体はアンデッドに成り果てても、魂はそのままなのよ! それがどんなに苦しいことか、想像つくでしょ!?」
「う……ぅ……」
「ねえ、母上。父上が苦しんでるの。あたしたちがしっかりしなきゃダメなのよ……」
娘を守った、という言葉に、女王はわずかに平静を取り戻した。
「そう……そうね……あなたがそんな冗談なんか言うはずないものね……真相はわからないけれど、とにかくそういうことはあったのね……」
ぽろぽろと真珠のごとき煌めきが頬を伝っている。
「シャイファは強い子ね……辛いこと、きちんと言ってくれて、ありがとうね……」
「全部あたしの勘違いだったってことも、ないわけじゃない。でも、もしあれが本当に父上なのだとしたら――」
「解き放って、あげないとね。アンデッドの肉体に縛り付けられたままなんてあんまりだわ。なんとしても、終わらせてあげないと……っ」
自らの発言の痛みに、再び嗚咽する女王。
しばらく、エルフたちの泣き声が続いた。
やがて。
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