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謁見

  目次

「かわいいシャーリィ。無事にまたあなたを抱きしめられて本当によかった……」

 そして小さな姫君は、女神の両腕にぎゅっと抱きしめられた。
 巨きな碧眼に涙が溜まっている。

「ちょ、ちょっと二人とも! お客さんの前なんだから、そういうのはあとにしなさいよっ!」
「シャイファ……ほら、あなたも」

 白磁のように滑らかな右腕が、シャイファの方に伸びた。

「だーかーら! 人前でやることじゃ……」
「ほーら♪」

 シャーリィも一緒になって手招きを始める。
 シャイファは口を波線状ににゃむにゃむさせた。

「ううう……もうっ」

 頬を赤らめながら、ツインテールの少女は二人に身を寄せた。

「シャイファ……わたしのいとしい子。あなたもずっと戦っていたのね。なにも助けてあげられなかった母を許してね」
「べ、別に、母上はここを動くわけにはいかないんだし、王太女としての義務を果たしたまでよ……っ」
「本当に、シャイファは頑張り屋さんね。母はとっても誇らしいわ」
「こんなの……ど、どうってこと……っ」

 強がりつつも、声に嗚咽が混じり始める。

「シャイファ。シャーリィ。わたしの宝物。わたしの幸福。わたしのすべて。おかえりなさい、愛娘たち」

 神々しいまでに美しい三人は、寄り添い抱き合って、しばし言葉にならぬ想いを交換し合った。
 やがて、女神は顔を上げ、フィンたちに微笑みかける。

「それで、あなたたちが異界の英雄どのね?」
「……ご存知でしたか。シャラウ・ジュード・オブスキュア陛下。」

 総十郎は厳かに応えると、その場にひざまずいた。

「お初にお目にかゝります。小生は鵺火総十郎と申す探偵です。シャーリィ殿下のお招きに従い、オブスキュア王国の国難を祓うべく馳せ参じた次第。以後お見知りおきを。」

 淀みなく発せられる総十郎の口上に、シャラウは困ったように笑う。

「まぁまぁ、そんなに畏まらないでくださいな。わたし堅苦しいのは苦手です。どうぞ楽になさってね」

 すると、フィン、烈火、総十郎の背後の床が音もなく隆起し、椅子を形作った。

「わわっ?」
「どあッ!!!」
「さあ、お掛けになって? 今お茶の用意をしますから、少しお待ちになってね」
「あ、は、はい」

 その言葉には柔らかな気遣いに満ちていた。まったく高圧的なものは感じなかったが、三人はまるでそうするのが当然と言うように、何のためらいもなく椅子に腰かけた。そう言われたからそうする、などという認識すらなく、完全に無意識の行動だった。

「それから、ケリオス?」
「はっ」
「あなた、怪我をしてるわね? 駄目じゃないの、こんなところで立っていては」
「はっ、しかし」
「ここは大丈夫だから、すぐに治療を受けなさい。そして安静にすること」
御意志みむねのままに、陛下」

 そばに出現した出入り口から退出してゆくケリオス。
 そして女王は、二人の愛娘と連れ立って別室に赴き、ティーセットの乗ったお盆を抱えて戻ってきた。

 ●

 女王シャラウが手ずから淹れた紅茶は、不思議な甘い香りがした。
 単に砂糖が入っているのとは異なる、爽やかな匂いだ。
 フィンは少し緊張しながら、陶磁器のカップを取り、一口飲む。

「そうですか……〈虫〉は滅び、オークの王も討たれたと」

 上品な苦みと甘みが口の中で解けた。こくん、と飲み込むと、体の中から緊張がほぐれてゆくような優しい温かさが残った。

「オォクの残存戦力はすべて死霊化し、〈鉄仮面〉に導かれるまゝ〈化外の地〉へと撤退していった次第。残った〈道化師〉も、あのように捕えられております。」

 総十郎は目を向けた先には、幽骨の中に埋まるようにして〈道化師〉が横たえられていた。両手足が床に埋没し、身動き一つできないように拘束されている。

「まぁ、ではもう王国の中に民を脅かす者はいない、ということね?」
「今のところは、ですが。」
「ほんとうに、なんとお礼を言ったいいものかしら。ソーチャンさまに、レッカさまに、フィンくん。オブスキュアの国家元首として、感謝を捧げます。本当に、ありがとう」
「光栄の至り。」
「ど、どういたしましてであります!」
「あー……うん」

 烈火は目の下に縦線ができている。たぶん、シャラウ陛下もモヒカン化しているのだろう。

【続く】

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