無敵の男の殺し方
皮膚が腐食している。
慌てて振り向くと、一目でやべー奴とわかるガチ暗黒中二存在が剣を振り抜いた体勢で佇んでいた。
何が中二ってお前仮面ですよ奥さん。しかも漆黒のマントなんか羽織ってますよ。
そしてとどめに剣が黒い!! しかも黒紫のオーラっぽいものが刀身から立ち上ってる!!
――やべえ。ロリコンも相当だったけどこっちのほうがやべえ。
圧倒的絶対的な中二アトモスフィアに、さしもの烈火も一瞬たじろいだ。
それは実際には負の瘴気と鬼気による恐圧効果だったのだが、烈火の貧相な感性では「イタい人の近づきがたい感じ」としか理解できなかった。
「……よもや手を出すなとは言うまいな、ヴォルダガッダ」
「レンケーとれっテか、うざってェな」
ボスオークくんはフツーに中二の化身と言葉を交わしている。
「さて……貴様が異界の英雄とやらか。なるほど、凄まじい生気よな。歪律領域とは少々違うが、奇妙な力をまとっておる」
「え? オラトリオをカタリストなしでファルシのルシがなんだって?」
「……言葉が通じぬか。道理よな。まぁよい、死ね。貴様は我が大望の路に生えた雑草である。理由もわからず、ただただ死ね」
――やべーよ完全に患ってるよこいつ。
などと思考した瞬間、中二暗黒剣士の姿が青白い炎に包まれ、消えた。
直後、顔面に衝撃。
「ぶへッッ!!!!」
さらに脇腹を真っ赤な回転ノコギリが襲った。
「アバババババババババ!!!!」
横殴りに吹っ飛ばされる。石柱に突っ込んで破砕。
石塊の中から顔を出し――た瞬間、巨大な鎌の切っ先が目の前に迫っていた。
咄嗟に刃先を噛んで止める。烈火の咬合力はチタン合金の塊をチューインガム代わりにできるレベルなので、このまま噛み砕いてやろうと力を込めた。
……が。
――砕けねえ!?
どころか曲がりもしない。
「ふがァッ!!」
切っ先を噛みしめたまま大きく首を振り、ボスオークくんを投げ飛ばす。
その動きの隙を狙い澄ましたかのように、喉元を暗黒剣が一閃。
「ごぇッ!!」
ミミズ腫れ、のちに青黒く変色して膿疱が弾ける。
間髪入れずに黒刃が乱舞する。
「調子のんなやァァァァァァァァッッ!!!!」
次々とミミズ腫れが体に刻まれてゆくのも構わず、火山の噴火じみた勢いの膝蹴りを放つ。
しかし――中二暗黒剣士の姿は再び青白い炎となって消えた。
「しゃらぁッ!!!!」
後方へ後方へ回し蹴り。三日月型の衝撃波が地面を掘り返しながら広がった。
「ほう……」
横合いから声。顔も向けずにそちらへ対戦車ライフルを超える威力の抜き手を放つ。さらに蹴り、肘、拳、踵落とし、裏拳、足刀などなど泰斗魔狼拳の通常技の数々を全周囲にばら撒いた。その風圧だけで、周囲の地形が爆ぜ砕けてゆく。
黒影はそのすべてを瞬間移動で回避しつつ、至近距離にまとわりついた。
「砕け散レやァァァァァァァァァァッッ!!!!」
そこへ紅い流星が垂直に降下した。断頭台の刃のごとく縦に世界を両断し、地面を爆裂させる。
烈火は――回避した。
回避したのだ。
雑魚オークの斧を眉間に叩き込まれても傷一つ負わなかった烈火が、「この一撃は当たると、ちょっと、多少、ほのかに、ダメージがあるかもしれない」と判断したのだ。
つまるところ、今のボスオークくんの攻撃は、世紀末伝承者の小パンに匹敵する威力だということである。
これはまったく、驚異的なことだ。
――先に殺るべきは、オークだなオイ。
思い定め、ボスオークくんに殴りかかろうとする烈火であったが――瞬間移動を繰り返す中二暗黒剣士によって、徹底的な阻害を受けていた。
ヤツに喰らった腐食のミミズ腫れは、すでにほとんど治癒しかかっている。特別な事情など何もない。ただただ烈火の膨大極まる生命力が、腐毒を追い払っているに過ぎない。常人が喰らえばかすり傷でも命に関わる恐るべき攻撃だったが、烈火の前ではほぼ脅威足り得なかった。
だが――完全に無視するというわけにもいかない。
まず単純に痛い。ダメージはないが、若干痛いのだ。イラつくことこの上ない。その上、暗黒剣士は烈火の身体能力が抱えるひとつの欠陥を的確に突いてきていた。
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