惨麗なりし絶罪殺機
頭部の触手が、総十郎を走査している。
〈測定罪業値:5。罪障滅除プロトコルに基づき封印術式を壱號まで解除〉
神韻軍刀を、すらりと抜き放つ。鞘の機構と接触し、刃が済んだ音色を奏でる。
そうだ。今は修羅の刻。答えの出ない煩悶をひととき忘れ、斬魔の撃刀を振るうことが許される時間。
――フィンくん。小生は、何があっても君の味方だ。
その思いだけを胸に、戦意を固める。
〈警告:当該特異点存在の脅威度判定が規定値を大幅に超過/緊急非常事態/罪障滅除プロトコル:停止/唯我殲滅プロトコル:起動/こは業にあらず/こは罪にあらず/こは罰にあらず〉
六体の異形は一斉に浮上し、それぞれの肢が本体より分離。装甲が展開し、接続部と思しきものが露出した。
金属の凹凸が噛み合い、合体してゆく。
本体も、胴体部分の前部の装甲が開いた。中から無数の赤黒い触手が伸びる。同じように装甲を開いた他の本体と触手を絡ませ合い、ひとつの固体を形成してゆく。それは、無数の芋虫の交合を思わせる、醜悪な眺めであった。無数の蛹の羽化を思わせる、荘厳な眺めであった。
やがて目の前に聳え立ったその存在に対し、総十郎は腰を落とし、両目を隠すように構えた。
〈――絶罪、執行――〉
「〈神韻探偵〉鵺火総十郎。一手奏楽たてまつる。」
艶やかな笑みを口の端に乗せ――掻き消えた。
●
黒神烈火はわりとびっくらこいていた。
烈火の脳内では、オークっつったら雑魚の低能のやられ役というイメージが定着していたのだが、目の前のこいつ、あの、なんか、なんかさ、ちがくね?
「いやいやおかしいでしょうおめーなんで俺のワンパン凌いでんのおめーオークの分際でなんか高度な防御テクニック披露してんじゃねーよおめー馬鹿おめー」
目の前に、巨体が着地した。ずんぐりとした両脚が地響きとともに踏みしめられる。
紅く凶悪な瞳は、真ん丸く見開かれていた。
掛け値なしの驚嘆。
それは、今しがた烈火が放った一撃のもたらした破壊の跡を目の当たりにしての反応であった。
踏み込みからの正拳突き。言葉にしてみれば単純だが、それが周囲に与えた物理的影響の凄まじさは、もはや天変地異のレベルである。
突きの風圧が芝生を引き裂き、地面をめくり上げ、植木が台風の真っ最中のように斜めに傾ぐ。
拳に最も速度が乗った地点から、あたかも目に見えないかめ○め波が放たれたかのように、衝撃波の跡は前方に伸びていた。
「なン、だ……テメェ……」
「俺は天才だァァァァァァァァァッ!!!!」
「あァ!?」
「天才はなんかボスっぽいクソでかオークくんをワンパン瞬殺しても許されるんだァァァァァァァァッッ!!!!」
「ナメんなクソがァァァァァァァァァァッッ!!!!」
烈火、再び踏み込む。常人には目にもとまらぬ爆速である。
小細工などまったく必要ない。
確かに初撃は凌がれた。あのなんか刺々しい感じの鎖鎌が生き物のように伸び、烈火の拳撃に絡み付いたのだ。これで攻撃を横にずらすような干渉がなされたのであれば完全に無意味だったことだろう。単純に、運動量が違いすぎる。最高速度の新幹線に横合いからバイクが突っ込んでも、その軌道を変えることができないのと同じだ。
だが――このオーク、むしろ拳の進行を助けるように、自分の側へと引っ張ったのだ。踏み込んで殴るという単純な攻撃も、実際には精緻な身体制御のバランスの上に成り立っている。体のすべての関節の運動を効率的に同期させることで、初めて一撃爆殺の威力が出るのだ。だが、そこに想定外の力が加わった。受け止めるでも横に払うでもなく、運動を助けられるように引っ張られるというのは想定していなかったために抵抗ができなかった。
これにより、拳に最も威力が乗る瞬間が烈火の想定よりも早くなった。ジャストミートのタイミングを逃せば、命中しても威力は半減どころの話ではない。それでもオークの巨体を吹き飛ばす程度の威力は出たが、爆発四散させるには程遠い。
とはいえ――それだけだ。今の攻防で、このオークがパワーもスピードもタフネスも自分の足元にも及ばないことを烈火は察していた。事実、今の不完全な一撃でも、相手の肋骨を砕く程度のダメージはあったようだ。
元の世界のツソとかに比べれば、鼻で笑ってやるべき雑魚である。
ゆえに烈火が執る次なる一手は、変わらず爆速正拳突きである。
のみならず世紀末オラオララッシュで最微塵にまで分解してやるつもりであった。
そしてその功績を笠に着てパイオツのパイオツをパイオツするつもりであった。
だが――
「神代の闇よ、静かに哭け――」
声がした。
低く、深く、そしてどこか枯れ果てた声だった。
「――〈黒き宿命の吟じ手〉」
闇が、奔った。
三条の孤月を曳き、烈火の視界を黒く斬割する。
「ってぇ!?」
痛みが走った。闇色の斬撃が、総十郎から借りた書生ファッションを斬り裂き、その下の肉体にミミズ腫れを生じさせたのだ。
直後、腫れが青黒く変色し、膨れ上がってブジュルと弾けた。膿が飛散する。
「ウゲェ!!!! なんじゃこりゃ!!!!」
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なんかいい文章が書けたので読んでね!
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