保護者会談
だけど。
フィンは、言い返せなかった。
ソーチャンどのの顔が、どうしようもなく泣き暮れるははうえの顔と重なって見えて。
カプセルの中で、なすすべもなくそれを見ていることしかできなかった記憶が、痛みを伴って蘇ってきて。
だけど、あの時とは違う。
今、自分は体が動く。
「ソーチャンどののおっしゃること、よくわからないであります……」
そろりと、手を伸ばす。
そして、シャーリィ殿下がやったみたいに、青年の目尻をぬぐってあげた。
目を丸くするソーチャンどの。
「でも、でも……そんなになるまでソーチャンどのを悲しませてしまったのは、ご、ごめんなさい」
目を瞬かせ、とっさには二の句を告げないでいるソーチャンどの。
なんだかよくわからない沈黙が二人の間に横たわった。
「あゝ、その、フィンくん。」
「は、はい」
「いや、小生の方こそ、いさゝか熱くなってゐたようである。許してほしい。優しいのだな、君は……」
こほん、と咳払い。
青年の顔に、いつもの包み込むような微笑みが戻った。
「このことに関しては、お互いにすぐには結論を出せぬであろう。小生も頭を冷やす必要がありそうだ。ともかく、体を労わってほしい。安静にして、栄養を摂ること。それが君の今一番成すべきことである。」
「で、でも、〈聖樹の大門〉を早く解放しないと……」
「問題ない。さすがに一日や二日で致命的な事態には陥らぬよ。今は一刻も早く本調子を取り戻すことが最重要である。」
「りょ、了解であります」
●
総十郎は、部屋を出た。
息を呑むほど美しい翠色の梢が、爽やかな匂いとともに迎えてくれた。
巨大樹の幹に形成された、バルコニーだった。
総十郎は横に目をやる。
小柄な少女が、盆を手に、部屋の出入り口の脇で壁に背を預けていた。
「殿下……お聞きであったか。」
こくり、とシャーリィはうなずく。
その目は、瞳以外の部分が赤く腫れていた。
フィンが寿命を削った、というところも、聞いてしまったのだろう。
「……このことは、リーネどのには伝えぬ方が良いと思うのであるが、どうだろうか。」
シャーリィは、少し迷うそぶりを見せたのち、小さくうなずいた。
総十郎は、ともすれば痛ましい気持ちに下がりかける眉尻を、つとめて微笑の形に修正する。
「どうか、フィンくんを、たくさん誉めてあげてほしい。彼は、「自己犠牲もいとわぬ模範的軍人」としての務めを果たさなければ、自らには生きる資格がないと考えてゐる。それは自己卑下ですらなく、ごく/\当然の前提として彼の中に根付いてしまった。人が生きるのに、そのような資格など必要ないと言うのに。彼はただ彼であるだけで、生きてよいし、愛されてよいはずだというのに。」
総十郎は、シャーリィの肩に手を置いた。
「だから、彼を責めるのは小生一人だけだ。シャーリィ殿下。あなたはフィンくんを肯定してあげてほしい。生きていて良いし、甘えても良いのだと言うことを、示し続けてほしい。」
エルフの姫君は、力を込めてうなずいた。
その眼はすでに泣き腫らしてはおらず、凛とした意志が感じられた。
――しなやかに強い御方だ。
総十郎は改めて、この小さな貴婦人への畏敬を新たにした。
「では、小生は騎士のお歴々と今後の動きについて話し合ってくる。フィンくんのことはよろくしお頼みする。」
そう言い残し、総十郎は制帽を抑え、軽やかにバルコニーから飛び立った。
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