アーブラス・シュネービッチェン
〈――無力であった。〉
〈使命を果たせなかった。〉
〈屈辱であった。〉
〈痛ましかった。〉
〈誰にも顔向けできなかった。〉
〈自分がこれほど弱い人間であったことに、打ちのめされた。〉
〈自責の念よりも、これで人からどう見られるようになるか、ということを真っ先に考えてしまった。〉
〈そういう自分に、吐き気がした。〉
〈俺は、お守りすべき姫君の、自害を許した。〉
〈騎士として、御傍居役として、決してあってはならない失態を演じた。〉
〈貴族として、ひとりの大人として、とうてい耐えられぬ恥辱を得た。〉
〈今日まで私は、自分を誇れていた。恥じることなどなかった。〉
〈今日から私は、もはや決して胸を張ることはないのだろう。〉
〈何も、わかってやれていなかったのだ。〉
〈シャロン殿下。あなたにお仕えする日々は、楽しくも穏やかなものでした。〉
〈しかし、私は、アーブラスは、あなたの助けには、なれていなかったのですね。〉
〈あなたの身をお守りできていても、心はお守りできていなかったのですね。〉
〈殿下。〉
〈殿下……私の正直な気持ちを、打ち明けることをお許しください。〉
〈――お恨み、申し上げます。〉
●
「――ッ!?」
リーネは意識を取り戻した。
慣性に引かれるまま、神統器を叩き込み、爆撃じみた威力を開放する。
「父上ッ!?」
「うぬ?」
ぬるりと一撃をかいくぐっていた総十郎が、きょとんとした顔をする。
「あ、いや、違います! 別に思わず間違えてソーチャンどのを父上と呼んだわけでは……っ!」
頬が熱くなる。
「いや、まぁ、小生は構わぬが。」
「だから違いますってばっ! もぉ~!」
苦微笑を浮かべる彼の悠然とした佇まいに、なんとなく父性を感じてしまったのは確かで、さらに顔が紅潮するのを感じた。
「それで、神統器から記憶の流入でも起こったかな?」
心臓が跳ね上がった。
本当に、この御仁はどれほどのことを見透かしているのだろう。
そして、父アーブラス・シュネービッチェンが抱えていた弱さに、しゅんと高揚が治まってゆく。
「……はい。我が父の、言葉にできなかった想いが、流れ込んできました」
そのあらましを、総十郎に語った。
「御父君は、シャロン殿下の御傍居役であったな。」
「はい」
「……無念であったろうな。」
「はい……」
リーネは、唇を噛んだ。
「父は、ずっと母やわたしには豪放磊落な顔しか見せませんでした。よく笑い、よく人を褒め、ギデオンどのと並ぶほどの武勇を持ちながらそれを鼻にかけず、いつもしょうもないことを言っては母を苦笑いさせている。そんな父でした」
「確か、リーネどのはシャロン殿下の入滅後に生まれたのだったか。」
「はい。つまり、わたしの知る父は、最初から胸の奥に苦しい気持ちを抱えていたということですね。いつも、いつも、本当の顔など見せてはくれていなかったということですね……」
胸で何かが塞がって、苦しい。目尻が熱くなる。
フィンどのには重い代償を背負わせ、父からは一度も本音では接してもらえなかった。
寂しく、惨めだった。
「リーネどの。」
ぽん、と頭に彼の手の平が置かれた。
「これでも数週間ほど、リーネどのの人品は見させて頂いた。そのうえで断言するが、御父君があなたを愛していなかったなどというのは決してありえないことだ。」
「そう、でしょうか……」
「よほど捻くれた人物でもない限り、あなたを愛さずにいることは不可能であろう。あなたがいたからこそ、御父君はシャロン殿下の自死を止められなかった自責に耐え、生きることができたのだと、小生は確信しておる。」
総十郎は、森のように深い笑みとともに、リーネを胸に抱き寄せた。
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